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43 お姉ちゃんなら怖くない



 核を取り込み、触手まみれの巨大なスライムになってしまったお姉ちゃん。

 警戒して距離をとったのでしょう、すこし離れた場所に立つティアのとなりに、セレッサさんが軽快におり立ちます。


「……もどったわね、トリス」


「うん、本体みつけたよっ」


「問題はこっからだがな。本体と分霊が合流しちまった」


「問題ないわ。あとはもう、核を破壊すればいいだけじゃない」


「……へっ。言えてるな」


 かるーく言ってのけたティア。

 やっぱりとっても頼りになります。


 二人が核を破壊できるまで、私もせいいっぱいサポートしなきゃ。

 綺羅星の瞳トゥインクルスター・アイズが発動中なおかげで、場所ならバッチリ見えてます。


「核の位置は地面から、私の身長ふたつぶんの高さ! いちばん深くに埋もれてるから大変かも……!」


「場所さえわかれば問題ないわ。でしょう、『筆頭』?」


「あァそうだな、問題なんてなにもねぇ!」


 二人とも頼もしいですっ。


 さて、巨大スライムと化したお姉ちゃんの方ですが、変異はまだまだ続きます。

 たくさんの触手の先っぽに、なんとたくさんのお姉ちゃんの顔が生えてきたんです。


『トリスちゃぁぁん?』


『あぁトリスちゃん、かわいいわぁぁぁぁ』


『いろぉぉぉぉんな角度から、トリスちゅわわわぁあぁぁんっ』


 全部で218個。

 すべてのお姉ちゃんの眼が、私にだけむけられています。

 お姉ちゃんじゃなかったら泣いてたところです。


「完全におかしくなっているわね……。おそらく王都の『マナソウル結晶』にあてられたのでしょう」


「でも……、でも、それだけでお姉ちゃんがこんな風になるなんて……」


 なにか他に原因があるとしか思えない。

 だって私の大好きな――ちょっとうっとうしいし私のこと好きすぎて引いちゃうことも多いけど、大好きなお姉ちゃんだもん。


「どんな理由があろうと見過ごせねぇ。だろ?」


「えぇ。たくさんの人間が命を落とし、恐慌状態となった悪霊による二次被害も甚大。これ以上の被害が出る前に――」


 ティアが手にした長剣を、十字架のさやに納めます。


「この手で祓うわ。トリスのためにも、あなたのためにも」


 そして取り出した、みっつの赤い棺。

 まさか聖霊全部出し!?


「おまっ、マジかよ……! オレでもピジュー一匹おさえるだけで手いっぱいだってのに……」


「問題ないわ。さぁ、いくわよ」


 パチっ、パチっ、パチンっ。


 棺のフタがリズミカルに開けられて、三体の聖霊が飛び出します。

 一頭身の鳥さんに、たくさん足の生えたトカゲさんに、十五本の腕がうごめく小人さん。


 こうして見ると聖霊って、どれも目玉がたくさんついてて、やっぱり不気味です。

 そして放つ威圧感も、お姉ちゃんとは比較になりません。


『我が身を呼び出したもう者よ』


『汝が望むは終焉か、開闢かいびゃくか』


『そなたの魂、我が糧とせしめるならば、如何なる望みも叶え――』


「黙れ」


 ズバシュッ!!


 あぁっ、今回も短剣の雑なひと振りでなぎ払われて、それぞれの色のモヤモヤに……。

 ところで聖霊さんたち、毎回ですがそろいもそろって物騒なこと言ってません?


 そして今回、ティアが三体の聖霊の力を憑依させる武器は、どうやら十字架大剣。

 短剣を納めて十字架そのものを両手に持ち、ギミックで刃を引き出します。


「シムル、サラマンドラ、そしてヘカトンケイル。三位一体力を束ね、燃やし、切り裂き、打ち砕け」


 緑、赤、黄色のモヤを順番に剣にまとっていくティア。

 ドン引き気味のセレッサさんの表情からも、どれだけの離れ業かがわかります。


「ブランカインド流憑霊術。レイスさん、これが私の持てる全力。これであなたを祓ってあげる」


 あれがティアの全力ですか……!

 ヘカトンケイルを憑依させたときのような岩石の刃に、風の刃がまとわりついて吹きすさび、まとう炎の火力をさらに上げていく。

 圧倒的なパワーをビリビリ感じますっ!


「す、すごいね、テルマちゃん……」


『熱波がここまで届いてきますっ。神護の衣がなかったら、お姉さままでやけどしちゃいそうです』


「そんなに」


 そういえば熱そうにしてるもんね、セレッサさん。

 あ、ちょっと距離とった。


『ジャマする? あなたジャマする? やっぱりあなた、トリスチャンでるのジャマするのぉぉぉぉぉぉぉぉ!!????』


で方というものがあるでしょう」


 私を見てたたくさんの眼が、いっせいにぎょろりとティアにむけられます。

 そして襲いかかる大量の触手。


 大剣をかまえたティアは力をためているようで、一歩も動きません。

 このままじゃ――と心配したのもつかの間。


 セレッサさんが飛び込んできて、ヤリをガシャコン、と鎌に変形。


 ズババババババッ!!


 26度の斬撃で、ティアに殺到する26本の触手を一瞬にして斬り払いました。


「あぁクソっ、やればいいんだろやれば!」


「指示前から動いてくれて助かるわ」


「避けようともしねぇんだもんよ、できるだろうにっ!!」


「あなたがいれば、チャージに専念できるもの」


「ったく! こっちは力の差を見せられてへこんでるってのによ……!」


 これもまた、信頼してるってことなのでしょう。

 セレッサさんが触手を処理してる間に、どうやらチャージも完了。


 岩の刃がまとうのは、もはや炎の嵐です。

 真っ赤な竜巻が空高くまで渦を巻き、その中心にそびえる巨大な岩の剣。

 十字の柄を両手で持って、上段高くかかげます。


「ありがとう、準備できたわ。離れなさい」


「はいはい、わーったよっ!」


 セレッサさんが飛び離れて、無防備になったティアに触手が襲いかかりました。

 ですがムダです。

 ティアの体を守る風の刃と炎の嵐に突っ込んで、次々焼かれ、斬られていきます。


 邪魔するものはなにもない。

 炎の嵐をまとった大岩の剣が振り下ろされます。


奈落へ導く獄炎の嵐フェーンゾイレ・シュナイデン


 ズドッガァァァァァァァァァッ!!!


『ひぃぃいぃぎゃぁあぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁ!!!!!』


 耳をふさぎたくなるような断末魔を残して、スライム型のお姉ちゃんが斬り裂かれます。

 おっきな核が岩の刃に押しつぶされるように砕かれて、炎に焼かれ、風に裂かれて消えていきました。


『や、やりましたっ!』


「すげぇな、オイ……」


 お姉ちゃんが取り込んでいたたくさんの霊魂が、あたりに散らばっていきます。

 ざっと500体くらいいるでしょうか。

 こんなにたくさん取り込んでいただなんて。


 どうしてこんなことしちゃったの?

 お姉ちゃん……。


『イやぁぁぁぁァァァぁっ!!! 消えるゥ、トリスチャんを愛でるタメのチカラが消えていくぅぅぅぅ!!!』


 魂を吐き出して、どんどん縮んでいくお姉ちゃん。

 まだモヤモヤになってません。

 かろうじて原形をたもっています。

 かろうじて、お姉ちゃんだとわかります。


『トリスちゃン、トリスちゃアァァァン!!!』


「……っ」


 もう見ていられませんでした。

 テルマちゃんには悪いけど、神護の衣を解除して駆け寄ります。


『お姉さま!? 危険ですっ!』


「わかってる……! 危ないのわかってる。でも……っ」


 でも、もう耐えられない。

 駆け寄って、ぎゅって抱きしめずにはいられませんでした。


「お姉ちゃんっ!」


『あえ? トリスチャン??』


「そうだよ、トリスだよ! お姉ちゃんの妹のトリスだよぉっ!!」


『あぁ、あぁぁぁあトリスちゃん!! かわいい、いい匂い、スキ、スキ!!』


「おい、やめな嬢ちゃん! 正気なんてぶっ飛んでるぜソイツ!」


「いいのよ、セレッサ。好きにさせてあげなさい」


「でもよぉ……」


「ああいう子なの。私たち葬霊士よりも、霊の心を救ってくれる」


「……知らねぇぞ、どうなっても」


 お姉ちゃん、とってもとっても『歪んで』しまっています。

 崩壊していく体で、手や舌をのばして私の全身なでまわしてます。


 王都のマナソウル結晶が、こんなふうに変えてしまったのでしょうか。

 それだけじゃない気がします。

 だから、ごめんねお姉ちゃん。

 ちょっと、のぞかせてもらうね?


「……流星の瞳シューティングスター・アイズ


 過ぎ去った遠い記憶を追体験する、霊の心に寄り添える瞳。

 人形の事件以来、怖くて使えなかったけど、お姉ちゃんなら怖くないから。



 ★☆★



 ……ここは、ガンピの村だ。

 私がよーく知っている、平和な平和な故郷の村。


 けれど私――ううん、お姉ちゃんのまわりには村の全員が集められていて、そして目の前には。


「やぁ、諸君。50年ぶりの現世はどんな気分かな」


 にこやかに笑う中年の葬霊士、グルドート・ドライク。

 そしてドライクが連れているのは、私だ。

 まるで死んだような光のともっていない目で、ぼんやりと虚空を見つめる私。


「驚いているだろう? キミたちはこの私の召霊術で呼び出させてもらった」


「召霊術……?」


「滅ぼされたはずの村が、全部元通りになっている……」


「俺たち、あの世で暮らしてたはずなのに……」


「あなた、いったい誰なの? どうして私たちを呼んだのかしら」


 村のみんな、口々に疑問を投げかけます。

 そんな中、お姉ちゃんの視線だけは動かない。

 ずーっと私だけを映し続けています。


「私の名はグルドート・ドライク。キミたちの役目だが、この子を育ててもらいたい」


 この子、つまり私ですね。

 このときのこと、ぜんっぜん覚えてない。

 催眠術か暗示でもかけられているみたいです。


「この子の家族として、同じ村の仲間として、生者のフリをしてふるまってほしいんだ。この子の心がすこやかに、まっすぐに育つように。なにひとつこの子を傷つけるものがない、優しい世界で育ててほしい。『救世の心』が宿るその日まで」


 とんでもない無茶ぶりですね。

 しかし呼び出されたみんな、逆らえるはずがありません。

 言うこと聞くしかないんです。


「さて、では家族を選定するが――」


「はいっ!!」


 おっと、真っ先に名乗りを上げましたお姉ちゃん。

 キレイにピンと手を上げてます。


「私がっ、私がこの子のお姉ちゃんになります!!」



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