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33 盛大なお出迎えです



 筆頭葬霊士……。

 そう、この子が私が去ったあと、後釜あとがまに入ったわけね。


 得意げに胸を張るこの子、すぐにわからなかった理由は決して私が他人に興味ないからじゃない。

 昔とまったくイメージが合わないのよ。

 ユウナのあとをついてまわってた、気の弱そうな感じだったはず。


「恐れ入ったか? 恐れ入ったら恐れおののけ!」


「恐れおののかないわよ。あなた、ずいぶんキャラ変わったわね」


「うげ……っ。ク、クソ、覚えてるじゃねぇか……」


 小声でなんか言ってるわね……。

 触れられたくない部分に触れられた感丸出しで。


「き、気にすんな! 昔は昔、今は今だろ?」


「……えぇ、そうね。それはそのとおり。さっそく『今』の話をしましょう。あなた、どうしてここで行き倒れていたの?」


 たしかこの子、三日前に宿から消えて行方不明になっていたはず。

 キャラ変よりも、そっちのほうが今はずっと重要ね。


「あー、それはだな……。さかのぼること三日前。ヤタなんちゃらの情報を求めて――」


「ヤタガラスね。大僧正から手紙、届いているでしょう」


「……こほん。ヤタガラスの情報を求めて街を歩いていたオレは、一人の子どもに出会ったんだ」


「子ども……?」


「なんでもな、昨夜アニキが幽霊にこのダンジョンへ連れ去られたとかで、助けてやるためにひと肌脱いだってわけ。で、ダンジョンの道中で様子のおかしい冒険者の二人組に出会って、なんか妨害受けて迷路に落とされて、三日間迷いに迷って今に至る」


「……そう。私たちとそっくり同じね」


「お前も同じなのか!?」


 思ったとおり、あの依頼人の子ども、普通じゃなかったわね。


 感知力の低さをおぎなうために、マントのほかにもう一つ。

 私の帽子には憑依霊に反応する非常に希少な繊維が仕込まれている。


 ピリピリするのよ、静電気で。

 テルマのおかげで常にピリピリしてるから、困るしよくわからないのよ。


 それはそれとしてあの少年がやってきたとき、わずかに『ピリピリ』が増した。

 やはり憑依霊に反応していたのね。


「私たち、誘いこまれたみたいだわ。少年に憑依した悪霊によって。兄が連れ込まれただなんて真っ赤なウソよ」


 あえて誘いに乗ってやったら好都合。

 こうして進展してくれたわ。


「マジか! ……んん? いや、だとしたら変だぜ」


「なにがよ」


「オレが出会った二人組さ、葬霊士を妨害する気満々だったぜ? なにがなんでも最下層に行かせない、って感じ」


「……えぇ、たしかに」


 それにあの二人、霊に憑依されていなかった。

 ピリピリ来なかったもの。


「冒険者と悪霊……。それぞれちがう思惑で動いている、とかかしらね」


「あぁ? なんだそれ。もうよくわかんねー、さっさと行こうぜー」


 ……考えるの苦手なタイプなのかしらね。

 しびれを切らしてさっさと階段降りはじめてしまったわ。


 ――背中をむけたから気づけたけれど、セレッサの後ろ髪をふたつ結んでいる髪留め。

 白いドクロのモチーフの飾りがついた、あれはユウナのツインテールを結んでいたもの……よね。


「ねぇ、その髪留め……」


「あ? あぁ、筆頭になったとき、ばあさんからもらった。欲しいって言ったらくれた」


「……そう」


「まずいか?」


「いいわよ、つけてなさい」


 いつまでも家の棚にしまわれているより、使われた方が道具も喜ぶでしょう。

 それにあなたなら、ユウナが文句を言うはずないもの。



 ★☆★



 17階層への階段でずーっと動かなかった黄色い点に、ティアが遭遇しましたね。

 というか、迷わず迷路を進んでいくティア、どういう手品を使ったの……?

 しばらく話していたっぽいですが、二人そろって動き始めました。


「ティアってば、ぐうぜん出会った誰かといっしょに行くなんて……」


『お姉さま、気になります?』


「気になるよぉ。……ってかテルマちゃん、ずっと黙ってたよね。やっぱり気絶してた?」


『してるわけないですよ、お姉さまを守らなければならないのに! ただ噛みしめてただけです!』


「そ、そっか……」


 噛みしめてたんだね、私といっしょにお風呂に入って裸でぎゅーってし合う未来を。

 なるほど、だから静かにしてたんだ……。


 今さらながらとんでもない約束しちゃったかなぁ。

 そ、それはともかくっ。


「タントさん、ティアが動き始めたし、休憩おわりにしよっ」


「かまいませんが、目的のためにあの葬霊士との合流が不可避とは。今から気が重いです」


「それは……、うーん……」


 ケンカせずに、落ち着いて話し合ってくれないかなぁ。

 ティアの気持ちもわかるけど。

 私、なんとか仲を取り持てるでしょうか。



 ティアたちに置いていかれないように急いで17階層を抜けて、18階層までやってきました。

 いよいよ悪霊の気配が濃いです。

 すぐうしろにいるような錯覚さえ覚えます。


「えっと、ティアは……。よし、この階層にいるね」


『いよいよ合流できますね、お姉さまっ』


「そうだねぇ。別の問題発生しそうだけどねぇ……」


 顔見た瞬間斬りかかる光景が目に浮かびます。

 さーて、ティアまでの距離はあとどのくらいでしょうか。

 なんの気なしにもう一度マップへ目をやると。


 18階層ぜんぶが、真っ黒に塗りつぶされていました。


「なにこれっ……!」


「おやおや、どうしたことですか。よくあるアクシデントでしょうかね?」


「わかんない……。こんなの、はじめてで……」


 ついさっきまでは、最下層までマップが見えてたのに。

 そういえばテルマちゃんの大神殿のときも、似たようなことありました。

 強い悪霊なら、私のマップにまで干渉できるってことでしょうか……。


「と、とにかく早くティアを探さなきゃ!」


 あのヒトも危ないかもしんないもんね。

 薄暗い地下遺跡を小走りで進みながら、ティアを探します。


 すると、わりとすぐに見慣れた後ろ姿が見えました。


「ほっ、よかった……。おーい、ティアー」


 呼びかけながら駆け寄ります。

 ですがふりむいてくれません。

 困ったなぁ、聞こえてないはずないのですが。


「ねぇ、ティアってば」


 肩をつかんでぐいっと引いて、ふりむかせます。

 すると。


 口が端から端まで裂けたバケモノみたいな口。

 腐り落ちて垂れ下がった目。

 そぎ落とされた鼻。

 目を覆いたくなるような容姿の悪霊が、そこにいました。


「ティアってぶぁぁ、だぁれぇぇ?」


「ひぃっ!」


 思わず腰を抜かしてその場にへたり込む。

 なんで、どうして悪霊がティアの姿を真似て……!


「不用意ですよ、トリスさん」


 すかさず飛び込んできたタントさん。

 十字架の剣閃が悪霊を斬り刻み、黒いモヤへと変えました。

 よ、よかったぁ……。


「マップがない以上、慎重に行動していきましょう」


『ですよ、おねえさまっ。ビックリさせられただけだったからよかったもののっ』


 棺にモヤを吸い込みながらタントさんが、私の中ではテルマちゃんがお説教。

 はい、骨身に染みました。

 ……だって、ティアの姿を見ただけでうれしくなっちゃったんだもん。


「悪霊のいるフロアまであと少しです。ここまであふれ出している霊もいるわけだ」


「どこから襲ってきてもおかしくないんだね……」


「えぇ。――と、言ってるそばから。ほら、来ましたよ」


「へ?」


 タントさんが指さす先に目をやると。

 えぇ見えました、バッチリ見えました。

 見えてるだけで18体。

 悪霊たちが大挙して、私たちのほうに来ています。


「わわっ、あんなにたくさん!」


「ものの数ではないですよ、あの程度なら」


 強気なセリフとともに悪霊を迎えうつタントさん。

 頼りになるけど、このフロアにはティアもいるはずだよね。

 もしかしたら今ごろあのヒトのところにも……。



 ★☆★



 迷路を抜けて階段を降りて、さらにもうひとつの階段を降りた先。

 見渡す限り一面の悪霊が、私たちの姿を見るなり我先にと押し寄せてきた。


 その数ざっと百体以上。

 ここ、もう最下層だったかしら?

 記憶どおりなら違うはずだけれど。


「弔い甲斐がありそうね」


「斬り放題葬送(おく)り放題ってな!」


 双剣を抜く私のかたわら、セレッサが背中に背負った武器を手にする。

 見た感じ、十字架をかたどった『十文字槍』かしら。


「先陣、切らせてもらうぜ! ブランカインド流葬霊術――」


 悪霊の群れの中に飛び込んだセレッサ。

 肩にかついだヤリとともに体を回転させて、


嵐戟葬槍シュトルム・シュピース!!」


 複数体の悪霊をまとめて黒いモヤに変えたわ。

 続けて襲いかかる悪霊も、軽々と突き、払い、祓っていく。


 なるほど。

 筆頭の称号、伊達ではないようね。


 まぁでもやっぱり、私の方が強いわね。

 だってこうしてセレッサの戦闘を観察しつつ、片手間であの子以上の数の霊を斬り祓っているもの。

 ふふん。


「……それにしても、妙だわね」


「あ? なにが?」


「この悪霊たち。大勢で真正面からやってきて、なにをするでもなくただ斬られていく。反撃もせず、まるでカカシのように。からめ手を好む悪霊らしくない」


「おー、そういや手ごたえねーなー」


 まるで私たち葬霊士を見つけて、祓ってもらいたがっているみたい。

 我先にと、斬られるために順番待ちでもしているかのよう。


 ――まさか、本当にそうだとしたら?

 悪霊たちが恐れおののくような、一秒でも早く祓ってもらいたがるような『存在』が、最下層にいるのだとしたら?


 これならすべてに納得がいく。

 『葬霊士を呼びつけた憑依霊』にも、『葬霊士の進行を妨害する人間』にも。

 と、すると……。


「……トリスが危ない、かもしれないわね」


「なーに一人で納得してんだ!?」


「説明はあと。今はともかく悪霊たちを片付けて、一刻も早く最下層まで行きましょう……!」



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