表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/173

24 お久しぶりですお姉ちゃん



 ふぃーっ、やっとついたぁ。

 思うんだけどさ、村と街をつなぐ山道、ぜっったいにおかしいよね!?

 そもそも道ですらないし。


 村の外に出ちゃいけないって掟のためなんだろうけど、いくらなんでもやりすぎでは?

 村から出てみて初めて異常に気づいた、とってもにぶい私です。

 それにしても。


「懐かしいなぁ。ぜんぜん変わってないや」


 木組みの家に、ロクに舗装もされてない道。

 森の中にぽっかり空いた空間に、まるで外から隠れるように作られた小さな村。


 田舎ってやっぱり、流れる時間がのんびりしてるのかな。

 目まぐるしく変わる都会とまったくちがう、変化のなさに驚きです。


「えっと、じゃあまず私の家に――ティア? テルマちゃんも、どうかした?」


「あ――い、いえっ。なんでも……ありませんっ」


「……こほん。そうね、ごめんなさい。少しぼんやりしていたみたい」


「山歩きでつかれちゃった? ……って、ティアがあの程度でつかれるわけないか」


 テルマちゃんだって、幽霊だからつかれないだろうし。

 だったらどうしたんだろう。

 二人そろって深刻な顔しちゃってさ。


「あ、あの……、お姉さま? 以前、村を出てから幽霊が見えるようになったと――」


「うん、そうなの。村にいたころは一度も見たことなかったのに不思議だよね」


「一度も、ね……」


「むぅ。なにさ、二人とも。言いたいことあるならハッキリしてよっ」


「……いえ。私たち二人だけの問題だから。気にしないで」


「ですですっ。あっ、それよりお姉さまのご家族にお会いしたいですっ」


 なーんか、うまくはぐらかされた気がします。

 いいけどさ、別に。


「うんっ、こっちだよ!」


 二人を手招きしながらクルリと半回転。

 村のほうへと体をむけて、一歩を踏み出したそのとき。


 村のヒトたちが、私たちの行く手をはばむように立ちはだかっているのに気づきました。


「……っ」


 ちょっとだけ、ほんのちょっとだけビックリします。

 みんな無表情で、すっごく怒ってそうですし。


「トリス」


「戻ったのか?」


「なぜ出ていった」


「禁じておっただろうに」


 ひぃっ、やっぱり怒ってる!

 淡々と問い詰めてくるのが逆にこわくって、若干の涙目です。


「あ、あのねっ、みんな、えーっと……」


 こ、ここはあれこれ言い訳を並べるよりも、素直にあやまるべし。

 判断をくだした瞬間、腰を限界まで曲げて頭を下げます。


「ごめんなさいっ! 私、どうしても冒険者になりたかったのっ!! 誰かを助けたいって気持ちが抑えきれなくって、みんなに黙って出て行っちゃいました!! 許されないかもしれないけど、本当にごめんなさいっ!!」


 今度こそ怒られて、追放までされちゃうかもしれない。

 だから悔いがないように全部の気持ちを伝えて、心の底から謝ります。

 最後になっちゃってもいいように。


「人助けの心……」


「救いたい思い……」


 村のみんなが口々につぶやいたあと、長老さんが進み出てきます。


「トリスよ、ならばよし。『その心』が根付いた結果の行動ならば、ワシらにお主を縛る理由も『役目』も、もうないでな」


「長老さんっ! じゃあ――」


「家族には会ってゆけ。心配しておったでな」


「うんっ!!」


 よかった、ゆるしてくれた。

 なんだか私、心が軽くなった気がします。

 もどってきて本当によかったな、って。


「連れの方々(・・)も、なにもない村ですが、ゆっくりしていきなされ」


「――えぇ。お言葉に甘えて」



 ★☆★



 霊の住む村、ガンピ。

 さいわいにして住民にあからさまな『歪み』の発生は見られない。

 葬霊士である私に対して敵意をむけることもないようね。


「ティアナさん、どうしましょう。お姉さま、ちっとも気づいてないですよ……」


「ひとまず様子見、慎重に対応していきましょう。明らかに異常極まりないこの村の成り立ちや現状。トリスを育てていた目的。それらを突き止めるまで、行動を起こすべきではないわ。あの子を悲しませないためにも、ね」


「で、ですね。どんなときでもお姉さまファースト、ですっ」


 トリスに聞こえないよう、テルマと耳打ちし合っての相談で方針決定。

 村の景色を懐かしみながら歩くあの子の、愛らしい笑顔を奪うマネだけはしたくないもの。


「とうちゃーく!」


 あら、トリスが立ち止まったわね。


「ここが私の実家です」


 手でさし示す、一階建ての一軒家。

 一見しておかしなところも見当たらない一軒ね。


「お姉さまの生まれ育った家……っ。きっととんでもないお宝が眠っているはず……っ!」


「あ、あんまりあさったりしないでね……?」


「……ひとまず、お邪魔させてもらいましょう」


「う、うんっ。長老さんが許してくれたなら、きっと怒られない……よね?」


 あまりにも霊感が強すぎるため、逆に死者と生者の区別がつかないトリス。

 村から降りてきて急に見えるようになったと思い込んでいるようだけれど、『最初』から見えていたのね。

 果たして家族は、生きているのかいないのか。


「た、ただいま帰りましたぁ……」


 おそるおそる、といった様子でトビラを開けた瞬間。


「トリスちゅわぁぁぁぁぁん!!!!」


「にょわぁぁぁぁぁぁっ!!」


 すごい勢いで飛び出してきた女性に、トリスが抱きつかれ、押し倒されたわ。

 赤毛のロングヘア、トリスに容姿がよくにているけれど。

 なんなのかしら、いきなり。


「トリスちゃんトリスちゃんトリスちゃぁぁぁぁん!! 会いたかったよおぉぉ!! ちゅっちゅっちゅっ」


「やめて離してうっとうしいのぉ!!」


「愛しい妹が帰ってきたのよ!? 喜びを爆発させずにどうするの!!?」


「だからってぇ! いいから離れて、っていうかなんで帰ってきたの知ってるのぉ!?」


「ニオイでわかった!」


「いやぁ、変態っ!!」


 本当になんなのかしらね……。


「お、お姉さまに、お姉さまに触れすぎです……っ! 引き離さねば……!」


「テルマ、神護の衣はやめなさい?」


 私の見立てじゃ、悲しいことに彼女も霊。

 神護の衣に弾かれては、ハデに吹き飛んでしまうでしょうから。

 ヘタしたら形を崩してモヤになるわ。


 テルマとのやり取りの間に、トリスもなんとかお姉さんを引き離したようね。

 ため息まじりに立ち上がって、紹介してくれるみたい。


「えーっと、こちら私のお姉ちゃん。とってもお見苦しい場面、お見せしました……」


「レイス・カーレットといいます! お二人とも、どうかお見知りおきを!」


 横ピースにウィンク……。

 この人のテンション、なかなかになかなかね……。


「もー、お姉ちゃん真面目に自己紹介してよっ! ……あれ、二人?」


 そしてなかなかに迂闊うかつな様子。

 テルマが見えると、うっかり自白してしまったわ。


「――あ」


「お姉ちゃん、もしかして――」


「い、や、これは……」


「お姉ちゃんも、見えるヒトだったんだねっ!!」


「えっ、あ、あーっ、じ、じつはそうだったのよー」


 ……まぁ、普通そう考えるでしょう。

 よかったわね、自分が霊だとバレなくて。


「というわけでっ、よろしくね。幽霊のお嬢さん!」


「はい、お義姉ねえさん。テルマと申しますっ」


「テルマちゃん! いいねぇ、かわいいねぇ。食べちゃいたいくらい」


「むむむ。果たしてあなたと仲良くなれますでしょうか……」


「えぇぇ、にらまれてるぅ」


「自業自得だよぉ……」


 テルマにフラれ、次は私のほうへ。

 心なしか、彼女の目つきが鋭く変わった気がするわね。

 私の格好のせいかしら?


「はっじめましてー、トリスの姉だよー」


「ティアナ・ハーディング。霊をあの世に送る者よ」


「そうなんだ。私もあなたに送られちゃうのかな?」


「安心なさい。まだそのときではないわ」


「へぇ……」


 やはり、少々警戒されているみたい。

 敵意をむけられるほどではないけれど。


「そうだよ、お姉ちゃん。お世話になるの、死んじゃってからだから」


「あははっ、その通りだ。トリスちゃんはホントにかわいいねー」


「やめてくしゃくしゃなでないでー! 髪のセットが崩れちゃうからぁ!!」


 わしゃわしゃと頭を撫でまわす様子、長い時間を過ごした姉妹といった感じね。


 ――ただ。

 果たして、本当に血がつながっているのかしら。

 本当に、あなたはトリスの血を分けたお姉さんなのかしらね。



 ★☆★



 トリスちゃん、私のかわいいかわいい妹。

 あなたと初めて出会った『五年前』のあの日のことを、お姉ちゃん一日たりとも忘れたことなんてないよ。


 五十年前、盗賊の焼き討ちにあって全滅したガンピの村。

 『三本足のカラス』の紋章をつけたあの中年の葬霊士に、村人全員が召霊術で呼び出されたとき、どういうわけか村は以前の姿で完璧に再現されていた。


 呼び出され、さらに操霊術で縛られた私たちに課せられた使命。

 それは、彼が連れてきた『記憶をなくした赤髪の少女』を育てること。

 生者として彼女に接し、『救世の心』が芽生えるその日まで。


 私以外の人たちは、初めはいやいや従わされていたようだけど。

 でもね、お姉ちゃんだけは違うよ?


 あなたを一目見た瞬間から、あなたのお姉ちゃんになりたくてしかたなかった。

 なりたくてなりたくてなりたくてなりたくてなりたくてなりたくてなりたくてなりたくてなりたくてなりたくてなりたくてなりたくてなりたくてなりたくてなりたくてなりたくてなりたくてなりたくてなりたくてなりたくてなりたくてなりたくてなりたくてなりたくてなりたくてなりたくてなりたくてなりたくてなりたくてなりたくてなりたくてなりたくてなりたくて、しかたなかったのっ。


 トリスちゃんがいなくなって、とっても悲しかった。

 帰ってきてくれてとってもうれしい。

 もうずーっと離れたくない。


 トリスちゃん、あぁトリスちゃん。

 トリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃんトリスちゃん。


 だ ぁ い す き 。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] トリスちゃんは女の子たらしってことですね!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ