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21 ようこそ人形屋敷へ



 ブランカインドに来てから数日がたったある日、大僧正さんから呼び出しを受けました。

 当然ながらついていく、私とテルマちゃん。

 さて用件は……?


「葬霊士ティアナ・ハーディングに命ずる。王都を拠点に活動する『ヤタガラス』なる集団を調査せよ」


 ついに来ました!

 とうとう正式に、調査依頼が来たんです! 


うけたまわった。裁量は?」


「潰すなり理解わからせるなり、ウチらの傘下に加えるなりと、好きにしろ。割いてやる人員などの詳細だが、斥候役数名をすでに当たらせてる。王都周辺で葬霊していた『筆頭』も当たらせることに決めたから、お前は現地で合流しな」


「……筆頭? 私ではないの?」


「あ?」


「筆頭葬霊士。イコール私」


 自分の顔をくいくい指さしてるけど、ティア?

 たぶんね、大僧正さんの口ぶりからするとね?


「なに吹いてんだクソボケが。逐電しやがったその日に剥奪したわボケ」


「――!?!?」


「今のお前、ただのヒラ。一般葬霊士」


「な、んてこと……っ」


 大ショック受けてる……。

 最近思い始めたんだけどさ、ティアって。


「ティアナさん、アホなのでしょうか」


「テルマちゃん、ハッキリ言ってあげないで」


 悪い子カミングアウトしてからお口も悪くなっちゃったのかな?

 でもね、妹さんが亡くなってからずーっと気を張ってたのが、故郷にもどってゆるんじゃっただけかもしれないし。

 そんなとこもかわいいと思います。


「ったく、当たり前だろうが。それと、任務が任務だ。特別に聖霊は持たせといてやる。――あぁ、それともう一件。王都への道すがら、ちと厄介な怪異の除霊依頼があるんだ。お前、腕だけは確かだろ。ついでに祓ってこい」


「な、なぜ私が――」


「懲罰」


「……えぇ、承った、わ」


「詳細はコイツを読んどけ。じゃ、とっとと行ってきな」


 ふだんクールなティアだけど、大僧正さんの前じゃ形無しだね……。

 子どものころから知ってるヒトには、さすがに完璧美人の仮面もかぶれないか。

 投げつけられた資料を顔面で受け止めるティアを見ながら、そんなことを思いました。



 ★☆★



 辺境の町、ノルドール。

 中央都からは北西寄り、霊峰ブランカインドから東に位置するのどかな町です。

 それほど人口も多くなく、のほほんとしたところ、なのですが……。


「ね、ねぇティア。この町に入ってから、すっごい嫌な感じがする……」


「さすが、敏感ね」


 大僧正さんから『ついでに』と依頼された今回の怪異。

 ここまでの道中でティアから詳細を聞いています。


「目的地、あのお屋敷……だよね」


 街の高台、ひときわ目立つところにあるお屋敷を指さします。

 嫌な気配があのお屋敷から町全体に、まるで噴水のようにばらまかれてる。

 あれがこの町の【小迷宮】、『人形屋敷(ドールハウス)』。


「人形好きのとある貴族が建てた、地上三階・地下五階からなる迷路のような貴族屋敷。地下五階に『マナソウル結晶』が生まれ、ダンジョンとなってしまった際、あふれだした魔物たちに家族・従者もろとも一人残らず食い殺された、いわくつきの物件ね」


「うぅっ、ブルっときたぁ。テルマちゃん、つらくない?」


 私でも気分が悪くなるくらいの霊気だもん。

 幽霊のテルマちゃんなら、もっとつらくてもおかしくないよね。


「お優しいのですね、お姉さまっ。ですがご心配なさらず。テルマは元気いっぱいですので!」


「よかったっ。けどムリだけはしないでね? つらくなったらいつでもお姉さまにとりついちゃっていいんだから」


「お姉さま……っ」


 気を使ってムリしちゃうといけないからね。

 悪い子自称しちゃっても、根はとってもいい子な天使ですから。

 そんなテルマちゃんのお姉さまにふさわしいトリスでありたいと、心からそう思うのです。


「さて、怪異が目撃されるのは決まって夜中。まだ日が高いし、宿で休んで夜が更けるまで待ちましょう」


「う、うん……」


 夜中にあのお屋敷へ、かぁ……。

 かなり怖いけど、ティアの手伝いするって決めたんだ。

 これ以上悪霊の被害を出さないためにも、怖い目にあうくらいガマンガマン。

 私の人助け欲、ちょっとやそっとじゃ揺らぎませんよっ!



 ★☆★



 人形屋敷ドールハウスのウワサ。

 お日様が顔をかくしたら、人形たちが動き出す。

 僕の私の時間がきたと、我が物顔ではしゃぎまわる。


 もしもあなたが人形たちに、遊び相手と気に入られてしまったら。

 ご愁傷様、あなたも人形たちのお友達。

 そこのあなた、仲良くいっしょに遊びましょ?



 ……という感じの町で流れてるウワサ、というか歌を耳にしてしまいました。

 やたらと不気味ですが、私はがんばります。

 人助け欲、負けません。


 夜がどっぷりふけまして、目の前にたたずむ『人形屋敷ドールハウス』もやたらと不気味です。

 頑張ります、怖くない怖くない……。


「お屋敷、ずいぶん荒れ果ててますね。マドが割れてて、壁面もヒビだらけです」


「ダンジョン特有の保全・修復機構がなければ、とっくに原形すらなかったでしょうね」


 その場所が完全にダンジョンになったとき、どういうわけか地形がそのときの状態に固定される現象が起こります。


 地形破壊を無効にするため、冒険者が技や魔法をどれだけハデにブチかましても大丈夫。

 冒険者にはありがたい現象ですが……。


「いっそ消し飛んでくれてよかったのに……」


「……トリス、怖いの?」


「怖くないっ! さぁ行くよっ!」


 ほんとはちょっぴり怖いですが、ついつい強がっちゃいました。

 テルマちゃん、「お姉さまかわいい」みたいな感じの目で見るのやめてくれる……?


「では、突入といきましょう」


 ギィィィィィィィィ……。


 両開きの大きな扉が、さびついた嫌な音を立てて開きます。

 ティアを先頭に、いざダンジョンの内部へ!


 入り口に入ってすぐのところ、まずは三階まで吹き抜けのような玄関ホール。

 見たところ、魔物の影も人形もありません。


「まずは異常なし、ですねっ」


「ものすっごく嫌な霊気、嫌というほど感じるけどねぇ……」


 そりゃもう、いるだけで気が滅入るくらいには。

 とんでもない心霊スポットな気がするよ、ここ。


「で、でもダンジョンなわけだしっ。いつも通り私の出番、いきますっ!」


 このダンジョン、地上三階地下五階ってことは、いきなり上下に分かれ道があるようなもの。

 どっちの方に悪霊がいるのか、まずはハッキリさせなきゃね。

 いつものように瞳を閉じて、魔力を集中させて……開眼っ!


星の(トゥインクル)――えっ?」


 目を開けたら、景色がまったく変わっていた。

 たぶん人形屋敷の中の、どこか別の部屋。

 ティアも、テルマちゃんも、どこにもいない。


 いつもの幽霊の記憶かも、とか一瞬考えたけど、すぐに違うってわかった。

 私の手足、普通に動くし。

 コレはまぎれもなく私の体で、私はたしかにここにいる。


「……どこ、ここ――ひっ!」


 ぐるりと見渡すと、心臓が縮み上がりそうな思いがした。

 部屋のすみにあるたくさんの棚に並べられた、たくさんの人形ドールの首が、みんな私の方へとむいていたから。


「お、落ち着け、落ち着け……。ここの名前を思いだそう? 人形屋敷ドールハウス、人形あるの当たり前……」


 人形なんて怖くない、怖くない……。

 正直かなり苦手なんだけど、大丈夫、私は冷静です。


 そんなことより最大の問題は、私が一人になっちゃったことだよっ。

 戦えるティアがいなくて神護の衣を使えるテルマちゃんもいないんじゃ、モンスターに襲われたらひとたまりもない。


 まず合流をするために、中断しちゃってた星の瞳(トゥインクル・アイズ)でマップを出さなきゃ。


「もう一回、もう一回……」


 瞳を閉じて、魔力を集中させて……開眼!

 ……開眼、したら。


 『人形』たちが目の前で、私の顔をのぞきこんでいた。


「キレイ! キレイ! お星の瞳っ!」


「とってもキレイ! チョーだい? チョーだい?」


「わたしのおめめとつけかえましょぉぉぉ?? なぁんちゃってぇぇぇえ」


「「「「えひゃひゃひゃひゃひゃっ」」」」」


「ひっ……」


 ぺたん、って。

 腰が抜けて座り込んだのなんか、いつぶりだろう。


 どうしよう、怖くて息もうまくできない。

 涙がにじんで、視界がゆがんじゃってる……。


「おねえさん、おねえさん。いっしょに遊びましょ? いっしょにおままごとぉぉぉ!」


「アタシがママでっ」


「ボクがパパぁ」


「あなたはそうね、愛娘ぇ。いい配役だと思わないっ??」


 思わない、ぜんっぜん思わない。

 早く逃げなきゃ、でも逃げるってどうやって?

 逃げきれなかったら、私いったいどうなるの?


「でもでもでもでもちょぉっと待ってぇ? わたしたちのお友達にするためには、なにかが足りなくないかしらぁ?」


「なーにかなにかっ、なにかってなんだろなっ♪」


「そうだっ、このおねえさん『人形じゃない』んだぁっ!」


「せいかーいっ。じゃぁあ、さいしょにすることはぁ??」


「「「「「人形になってもらおー」」」」」」


 ジャキンっ。


 たくさんの人形たちが、いっせいにハサミやメス、ナタをどこからともなく取り出した。


「や、やめて……っ。そ、それで、そんなものでなにをするつもり……っ?」


「これからおねえさんを『人形』にしまーす」


「球体関節、シルク詰めぇ」


「永遠に年を取らない素敵な魔法、かけちゃおうねぇ??」


「い……っ、いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 命の危険を感じて、体が動いた。

 悲鳴で恐怖をまぎらわしたのもあるかもだけど。

 走って走って、ドアノブにあと一歩、というところで。


 ピンっ。


「な、なにっ!!?」


 手首に、糸が巻きついていた。

 操り人形に使う糸。

 ピンと張って、これ以上腕が進まない。


「なんでっ!? いつの間に――」


 ぐいっ。


 今度はすごい力で後ろに引っ張られる。

 いつの間にか両手両足ぜんぶに糸がグルグルに巻きついていて。


 ダンっ!


「か……っ、けほ……っ!」


 部屋の真ん中の机に背中から叩きつけられ、動けなくなってしまった。


「や、やだ……! 逃げなきゃ、逃げなきゃ……!」


「にげちゃダメぇぇぇ」


「つかまえちゃうよっ、つかまえるぅ」


「ぼくらのトモダチに、してあげるよぉ?」


「いや、いや……っ」


 ジャキン、ジャキンとハサミを開閉させながら。

 ナタをブンブン振り回しながら。

 メスの切れ味を確かめながら。

 じわじわと迫ってくる人形たち。


 刃物が肌に触れそうになって、もうダメだってなったとき。

 人形のひとりが、おかしなことを口にした。


「……あれぇ? このお姉さん、もう『人形』だぁ」


「えっ? ……ほんとうだぁ、にんぎょー!」


「お仲間、お仲間! もうおともだちだったんだねぇ!!」


 なに?

 なんなの?

 なにを言っているの?


 もう意味がわかんないよ……。

 助けて、ティア、テルマちゃん……!



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― 新着の感想 ―
[良い点] ホラーとシリアスな展開に適度にほのぼのシーンが挟まっていて癒されます。助かります。 [一言] 人形とホラーは相性バッチリですね…… 毎話楽しみにしてます!
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