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171 仲直り、そして涙の再会です!



 あの戦いから約ひと月が経ったその日。

 中央都ハンネス、『教団ツクヨミ』本部の一室にて、私たちブランカインドとシャルガの和解の儀がとり行われました。

 和解、すなわち仲直りです。


 ふたつの勢力の和解を見守るのは、ツクヨミの聖女ルナ。

 あいだを取り持つ第三者としてはツクヨミが最適だろうと、あちらから役目を引き受けてくれたのです。

 ……どちらとも関係が深いからね、ルナって。


「和解の調印、ツクヨミの聖女ルナがたしかに見届けました」


 大僧正さんとテイワズさんが書類にサインをスラスラ書いて、目を通したルナがそう宣言。

 それを合図にふたりは立ち上がり、固い握手を交わします。


「ようやく終わりやねぇ。ようやっと、肩の荷が降りた気分だわ」


「キヒヒッ、これからよろしくなァ。新たなお得意様としてよぉ」


 ブランカインドとシャルガの長い戦いが終わった瞬間でした。

 見守る私もなんだか感慨かんがい深いです。


 ……それはそうと、ルナとテイワズさん。

 さっきからまったく目を合わそうとしていないんですよね。


 せっかくの親子の再会なのに、事務的な言葉以外に会話もありませんし。

 ここは私がひと肌脱ぐ場面でしょうか。


「……トリス? なにか企んでないかしら」


「むふふ、企んでるよぉ」


 となりに座ってるティアにも手伝ってもらおうかな。

 なんだかワクワクしてきましたっ。



 ★☆★



 式が終わって、私はひとりでルナのお部屋へ。

 中にはレスターさんもいまして、お茶なんか出されちゃいました。


「ルナ、今日はホントにありがとねっ」


「べつに……。名前と場所を貸しただけだから。感謝されることじゃないし……」


 感謝され慣れてないのでしょう。

 視線をそらしてなんでもないふうにふるまう様子がちょっとほほえましいです。


「そ、それに、二大勢力の仲を取り持つことで、教団ツクヨミの名前にもさらなるはくがつく。そのために利用させてもらっただけっ!」


「ふふっ。どちらかの本拠地で行ってはカドが立つんじゃないか、とわたくしに心配そうに相談されたではありませんか」


「ちょっとレスター!!」


 あらら、顔を真っ赤にしちゃってます。

 必死に意地はって憎まれ口をたたいちゃう様子がますますほほえましいです。


「と、ところで! いつもいっしょにいるアイツは!? あの葬霊士!」


 ここでむりやりの話題転換。

 これ以上つっつくのもかわいそうですし、からかうのはここまでにしておきましょう。


「ティアはね、いまちょっと用事があって」


「用事……?」


 ルナが小首をかしげます。

 さてさて、『用事』はうまくいってるでしょうか。

 そろそろ私も動き出さなきゃいけない頃合いです。


「私もね、じつはルナに用事があって呼びにきたの。大僧正さんがお話があるんだって」


「この私に話? なにかしら」


「なーんかむずかしいこと言ってたよぉ。これからのツクヨミとの付き合い方とかじゃないかなぁ」


「なるほどね。……しかしあなた、呼びにきた割りにはやけにのんびりしていない?」


「それはぁ――」


 ティアの『準備』が終わるのを待っていた、のですが……。

 正直に言ったらぜんぶバレちゃうので、ウソをついちゃいます!


「大僧正さんもね、まだテイワズさんに用事があるから、それまでしばらくお話でもして来いって」


「……そう。だったら出向かないわけにはいかないわね。レスター、ついていらっしゃい」


「よろこんで」


 よおぉし、成功!

 あとは予定の部屋にルナを案内するだけです!



 ティアに頼んでおいた応接室の前につきました。

 ルナはなんのうたがいもなく、ノックをしつつドアを開けます。


「大僧正? 話ってどんな――」


 しかし、そのお部屋に大僧正さんはいません。

 いるのはティアと……。


「……ティアナさん? 僕は大僧正さんが来ると聞いてたんやけど?」


「ごめんなさい、ウソをついたわ」


 若干困惑気味のテイワズさん。

 ティア、ナイス作戦通り!


「……トリス、あなた――」


「私もウソついちゃった。てへへ」


「……はぁ」


 ルナもちょっぴり気まずそう。

 だけど無視するわけにもいきません。

 テイワズさんの前につかつか歩いていきます。


「……一対一でお話するの、初めてね。私はツクヨミの聖女ルナ。シャルガの族長さん、お会いできて光栄――」


 ぎゅっ……!


「……っ!!」


「……大きくなったなぁ、ルナ」


 テイワズさんが、ルナを抱きしめました。

 あくまでもツクヨミの聖女として、シャルガの長に接しようとしたルナ。

 ですがテイワズさん、娘への思いが抑えきれなかったようです。


「ルナは僕の顔すら覚えとらんよね。でもな、僕はルナのこと、一日だって忘れたことないから」


「な……っ、なによ……。いまさらそんな、顔も知らない相手なのに、父親面なんて……!」


「そう、よな……。僕ぁキミになにひとつ、父親らしいことしてやれんかった。ごめんな、ルナ。ごめんなぁ……」


「……っ、う、ぐず……っ。お父……、さん……っ」


 せきをきったようにあふれ出す涙。

 親子水入らずの対面に、これ以上私たちが立ち会ってたら野暮やぼってモンです。


「ティア、行こっか」


「えぇ」


「……わたくしも、退席するといたしましょう」


 レスターさんもいっしょに、三人で部屋を出ます。

 わんわんと子供らしく泣くルナの声を、閉じるトビラでそっとフタしてあげながら。


「いやー、いいことしたねっ。これもまた人助け!」


「大変だったわ。テイワズと二人きりで、会話の間とかが」


 ティア、大変だったんだ。

 ……ちょっと見てみたかったかも。

 そんな意地悪なことを考えつつ歩いていると……。


「あぁっ、いましたいましたレスターさんですよねぇぇっ!」


 おや、ろうかのむこうから走ってくるあの葬霊士さんは……。


「第二席のメフィさんじゃない」


「やめてくださぁぁい!! メフィが第二席なんて恐れ多いですぅぅ!!」


 先のシャルガ戦で大活躍して、その功績で第二席にまでスピード出世したメフィちゃん。

 なにやらレスターさんに用事があるようですが?


「って、そんなことはどうでもよくって! レスターさん、大僧正さんがお呼びですっ。なんだか難しいこと言っていました、これからのツクヨミとシャルガとの付き合いかたとかっ」


 ど、どっかで聞いたような呼び出し文句ですね。

 ですが今度はホントにホントの呼び出しな様子。


「ルナさんやテイワズさんも探しているのですが、どこにいるのでしょうかっ。……あそこの部屋とか気配感じます、怪しいですっ!」


「待って待って待って!!」


 その部屋の中では親子水入らずの対面がぁ!

 押し入ろうとするメフィちゃんをなんとか押しとどめます。


「――ルナ様たちは後ほど来られます。先にわたくしだけでも案内してくださいますか?」


「あ、は、はいっ、喜んで!」


 レスターさんの機転でなんとか事なきを得ました……。

 メフィちゃんに連れられて歩いていくレスターさん。

 そうして私はティアとふたりだけに。


「……ありがとね、協力してくれて」


「当たり前のことをしたまでよ。トリスの『人助け』なら、どんなときでも手伝ってあげたいの」


「ティア……」


 当たり前、って言ってくれるティアが愛しくて、手をつなぎにいっちゃいます。

 恥ずかしがりもせずに受け入れてくれるティアのこと、ますます好きになっちゃう。


「……でもね、すこし心配なの」


「心配? なにが?」


「近ごろのあなた、いつにもまして人助けに積極的じゃない? そのへんを歩いてる奥さんの、今夜の献立になやむ表情を見抜いて首を突っ込みにいったり」


「あ、あはは……。ほら、奥さん方にとっては死活問題だから」


「お菓子を前に悩んでる子どもを見つけて、いっしょに小一時間悩んだりとか」


「お、お子様にとっては死活問題だもん」


「……まるで『なにか』を失ってしまった心の穴から、必死に目を逸らそうとしているように見えるのよ」


「し……っ、心配しすぎだってば! そんな、私は別に――」


「お姉さまっ!!」


「なぁにテルマちゃ――」


 ……ふりむいた先、おそらくツクヨミの信者の子でしょうか。

 10歳くらいの女の子が、前を走る女の子を追いかけています。


「まってお姉さま、おいてかないでぇ!!」


「ほら、早く来なさいなっ!」


 ……鬼ごっこ、でしょうか。

 いつもならほほえましい気持ちで見られる光景なのに、なぜだか視界がうるんできます。


「…………」


「トリス……。ムリだけは、しないでね?」


「……う、うん……っ。平気、だいじょうぶだよっ……。だって、約束してくれたんだもん……。テルマちゃんと、『またね』って……」


「トリス、いいのよ。つらいときは泣いていいの。私がずっと、そばにいるから……」


「うん……っ。ずっと、ずっとそばにいて、ティア……!」


 ティアの胸に顔をうずめて、声を殺して泣きます。

 いなくなってしまった『あの子』のことをおもいながら。


「……うっ、うぅ……っ。テルマちゃん……っ」


 きっと、いつかまた会える。

 そのとき、テルマちゃんはきっと私のことをおぼえていません。


 名前も顔も声も変わって、私のことをお姉さまとは呼んでくれないでしょう。

 私にだってテルマちゃんだってわかんないかもしれない。


 けど、それでもまた、きっと会えるから。

 『テルマちゃん』には二度と会えなくても、あの子の魂と、きっとまた巡り合えるから。



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