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166 みっつの力を束ねれば



 聖霊神を復活させるため、ヤタガラスを取り戻す。

 そのためにまずヒルコをやっつけて、ヤタガラスから引き離す。


 やることは見えました。

 あとは実行するだけです。

 私たち三人なら、簡単にできるよねっ!


「さぁ、いくわよ」


 パチン、パチン、パチンっ。


 ティアがふところから取り出したみっつの赤い棺のフタを、リズミカルに開けていきます。

 中から飛び出すおなじみの、一頭身の鳥さんにたくさん足の生えたトカゲさん、そして腕がたくさんの小人さん。


『我を呼び出したる者よ』


『どんな願いも叶えよう』


『代償に汝が魂差し出せば』


「黙りなさい」


 ザンっ!


『あびょっ』


『びひょっ』


『びょべっ』


 案の定、いつものように雑に斬り捨てちゃいましたね。

 やっぱりちょっとかわいそう……。


「シムル、サラマンドラ、ヘカトンケイル。三位一体力を束ね、燃やし、切り裂き、打ち砕け」


 緑と赤と黄色、三色のモヤモヤが十字架の大剣に宿ります。

 霊力がほとばしり、風と炎と岩石を刃がまとう、ティア最強の奥の手です。


「ブランカインド流憑霊術。私を取り込んでくれたおかえし、三倍にして返してあげるわ」


 切っ先をヒルコにむけて宣言するティア、かっこよくてキュンキュンしちゃいます。

 ですが私、ティアが準備をしているあいだ、ただキュンキュンしてたわけじゃありません。

 サポートの準備、しっかりしておりました。


『ティア、ヒルコの中身が見えたよっ』


「……大丈夫なの?」


 『太陽の瞳』を使っても大丈夫なのか、って聞いてるんだよね。

 正直なところ、かなり消耗しちゃってますが……。


『だいじょうぶっ!!』


 心配かけたくなくって言い切ります。


『そんなことより、私の視界を同期するねっ』


 言いながら私とティアの視界をつなげます。

 これでティアにも見えるはずです。

 ヒルコの体に満ちた闇の沼に浮かぶヒトや魔物、そして『ヤタガラス』の姿が。


「……弱点は全身にくまなく散らばっているわね」


 取りこんだいろんなモノのスキマに光る、小さな星のような点。

 とても一太刀で斬れそうにないほどにバラバラです。

 けど……。


『ティアならできるよねっ』


「当然でしょう? 私を誰だと思っているの?」


『ブランカインドで一番強くて、カッコいい葬霊士さんだよっ』


「……」


 あ、照れてる?

 かわいいところもあるんですよねっ。


「……コホン。テルマ、防御はたのんだわよ」


『お任せあれっ! ティアナさんは攻撃だけに集中してください!』


「たよりにしてるわ。……それじゃあ、いくわよ」


 ヒュンッ!


 視界がものすごい速さで動いて、ヒルコへむかっていきます。

 私の体じゃ考えられないほどの速度、さすがティアです。


 対するヒルコも迎撃のため、影の体から猛スピードで触手を伸ばします。

 普通はアレにつかまったら、抵抗すらできずに体の中へと取り込まれてしまうのでしょう。


「もう二度とソレは喰らわない」


『テルマの衣で、すべて弾き飛ばしますっ!』


 バチィィィッ!!


 光り輝く神護景雲じんごけいうん御衣みころもが、ティアの体に触れる前に影の触手を消し飛ばします。

 そして振るわれる、三体の聖霊を結集した十字架の大剣。


 ヒュンヒュンヒュンッ!


 まるで羽ペンをふるうように軽く、素早く、22回の斬撃が一瞬で繰り出されました。

 取り込まれたヒトのスキマを縫って、中の魔物と『弱点』だけを的確に破壊。

 もちろんすべての弱点を斬れたわけではないのですが、


『……!』


 それでも今のは相当効いたのでしょう。

 ヒルコからうめき声のようなモノが漏れて、一歩後ろに下がります。

 その瞳が、狂気を呼ぶ『月の瞳』へと変わりますが……。


「ムダよ。今の私にソレは通用しない」


 私の太陽の瞳なら、狂気の月をも打ち消せます。


 ティアはヘカトンケイルの力を使って、空中に浮遊する岩石を生成。

 それを踏み台にして、ヒルコのお腹に取り込まれたタントお姉ちゃん――ユウナさんへとまっすぐに飛びます。


「まずはその子を返してもらうわ」


 バチィィッ!!


 衣の力は私たちに害なすものだけをはじき飛ばします。

 ティアのタックルで影だけが消し飛んで、ユウナさんの姿があらわに。


 おそらくすぐに再生して、また取り込まれてしまうでしょう。

 そうなる前にユウナさんを抱き上げて素早く離脱します。


「う……、うぅ、ん……」


「ユウナ、二度とあなたを死なせはしないわ……」


 気を失ったユウナさんに語りかけるティア。

 軽やかに着地した場所は、私の体が横たわってるところ。

 私のとなりにユウナさんをそっと優しく横たえます。


「セレッサ、もうひとり守れるかしら?」


「あぁ!? 当たり前だろ、オレを誰だと思ってやがる!」


 セレッサさん、大量の赤ん坊と戦っていてもまったく危なげありません。

 ティアの方を見る余裕すらあります。


「ユウナはオレが守る。お前は安心してアイツをやってきな」


「トリスも、ね」


「わーってるっつーの!!」


「……えぇ、ユウナをまかせたわ、セレッサ」


 おぉ、ティアがユウナさんをまかせる、だなんて。

 これはセレッサさん、やりましたか……?


 さて、ふたたび『ヒルコ』にむかっていくティアですが、対するヒルコがなんだかヘンです。

 『ヤタガラス』の胸の部分にあたるところが盛り上がって、何やら黒いオーラがうずまいています。


『ティア、なんだか危なそうな雰囲気だよっ』


「問題ないわ。そうよね、テルマ」


『はい、問題ありませんっ!』


 もうイケイケどんどんですね。

 一切かまわず一直線に突っ込んでいくティア。


 ヒルコのチャージする黒いオーラが臨界まで高まった瞬間、ティアは高く飛び上がります。

 ヒルコもつられて上をむき、ティアを照準から逃さないまま、


 ズドォォォォォォォォッ……!!


 極太の闇のビームを発射しました。


 視界が真っ暗闇に覆われますが、ティアは一切ひるみません。

 テルマちゃんもひるみません。

 私だけですよ、ひゃぁぁぁぁ、とか言ってるの。


 ブワッ……!


 ともあれ、テルマちゃんの衣のおかげで無事にビームを通り抜けられました。

 次に狙うのは『ヤタガラス』とヒルコの境目。


『ティア、見えてるよね。あそこだよっ』


「えぇ、あなたの瞳はよく『見える』」


 私の視界にハッキリ見える、闇に埋もれた『ヤタガラス』。

 私に見えているものは、そっくりそのままティアにも見えます。


「もうひとつ返してもらうわね。『ソレ』はトリスに必要なものなのよ」


 ヤタガラスの輪郭を型抜きするように剣が振るわれます。

 ヒルコの体内から斬り出したところで、衣をまとった手で触れる。


 とたんに影がはじけ飛びます。

 ヤタガラスの摘出、成功です!


『…………っ!!』


 またもひるんだヒルコ。

 ヤタガラスを取り出されたぶん、かなりしぼんでしまいました。


『……』


 今度はなにを考えたのか、宝物殿を飛び越えて、玄関前の広場の方へと逃げていきます。


『逃げたよっ!』


「逃がさないわ」


 私たちもヒルコを追いかけて広場へ飛びます。

 こっちでもたくさんの『影の赤ん坊』と、大僧正さんやメフィちゃんが戦っていました。

 ふたりともお庭に来る赤ん坊の数をおさえていてくれてたみたいです。


 そんな戦場で、ひときわ目を引くものがふたつ。

 真っ白い巨人『ネフィリム』と、やけにおっきな赤ん坊。

 私の眼で見るかぎり、中に鳥のような聖霊が取り込まれています。


『あの影、聖霊すら取り込めるんだ……』


『ヒルコもヤタガラスを取り込みました。不可能ではない、かと思います』


 分身みたいな『赤ん坊』にすら、そんな力があるなんて。

 今さらながら、ちょっと戦慄してしまいます。


 さて、当のヒルコが着地したのはそのネフィリムと『聖霊赤ん坊』の前。

 戦う二体のあいだに入って、触手を大量に伸ばします。


『あばぁぁぁぁぁっ』


『あっ、なんなのぉ!? やめでぇぇぇぇぇぇ!!』


 どぷんっ。


 に、二体の聖霊を、あっという間に飲み込んじゃった。

 これがヒルコの狙いだったみたいです。


『……っ!!』


 自分も含めて三体もの聖霊の力を結集したヒルコの体は膨れ上がり、ものすごい筋肉質に。

 両の拳に闇の霊気をほとばしらせて、着地前の私たちを狙って襲いかかってきます。


「……それだけ?」


 が、やっぱり今の私たちの敵じゃありませんでした。

 中に取り込まれた聖霊とネフィリム相手に、配慮する理由も一切ありません。


 聖霊の『弱点』とネフィリムの巨体が一瞬にして斬り刻まれ、ヒルコは二体を吐き出しながら地面に叩きつけられました。


「悪あがきだったみたいね。ではそろそろ、終わりにしましょうか」



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