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162 最後の任務



 聖霊神の封印を解く、って聞いたときのみんなの表情は、まさにあ然。

 セレッサさんたちはもちろん、なぜかこの場にいるテイワズさんや知らないシャルガのヒトまであ然です。


「あー……、わりぃ。メフィ、オレ耳がおかしくなったかな。なんか聖霊神を復活させる、みたいなことが聞こえたんだが」


「メ、メフィの聞き間違いでもなかったことがたったいま発覚しましたぁ……」


 そりゃ困るよね、みんな。

 大僧正さん、ちょっと怖めな真面目顔で私の前まで歩いてきます。


「トリス。お前がこんなときに冗談を言う子でも、トチ狂ってシャルガの味方に回る子でもないことはわかっている」


「……まぁ、そうだろうな」


「な、なにか意味のあること、なんですかぁ……?」


「うん。とっても、とっても意味のあることなんです。ただ『ヒルコ』を倒すだけじゃ、なんの解決にもならないの。全部を本当に終わらせるには、聖霊神の復活が必要なんです」


「終わらせる……ってぇのは、『世界を終わらせる』って意味じゃぁねぇよな?」


「もちろんですっ。この事件に、この騒動に……ううん。ブランカインドとシャルガ、そして聖霊の問題すべてを解決するためには、聖霊神を復活させないといけないのっ」


 ……いえ、そこまでは言われていませんが。

 けれど、私のカンがそう叫んでいるのです。


「ほかのヤツがおんなじことをほざいたら、その場でブン殴ってるところだ」


「ひぅっ」


「その上で、たとえトリス。お前がそう言うのだとしても、だ。ブランカインドどころか世界の存亡がかかってるかもしれねぇ問題に、立場上おいそれと首を縦にふるわけにはいかねぇんだ」


「で、でも……っ」


「だから、だ。トリス、俺を納得させてみろ。若者の未来をはばむ頑固な婆さんを、どうにかして動かしてみな」


「……っ!」


「『任務の報告』は必須。いつもそうしてるだろ?」


 そっか、このヒトは私を信じてないわけじゃない。

 むしろ心の底から信じてくれているんだ。

 だったら私もそれに答えなきゃ。


「……私、見たんです。それも二回、です。ひとつは山の外で敵に襲われて、気を失っちゃったとき。おっきくてあたたかい大きな『光るヒト』が、私に助けを求めたんです。湖底で宝玉を手に入れたときに視たヒトと、まったくおんなじでした」


「ほう。それで?」


「もうひとつはさっき、ティアたちのピンチを救うために『太陽の瞳』を使おうとしたとき。そのヒトが私に言ったんです。ヒルコを倒しても、なんの解決にもならない。『みんな』を助けたいなら、私を目覚めさせて、って」


「……なるほどな」


「その『光るヒト』が聖霊神だって、私は確信しています。何度も会って、お話もしました。怖い存在じゃないってわかっています」


「――おい、シャルガの族長さんよ。聖霊神を復活させたら、具体的にはなにが起こるんだっけ?」


 え、えらく気軽に話をふりますね、大僧正さん。

 当のテイワズさんもすっかり毒気を抜かれたカンジになっていますが。


「なんや復習か? 聖霊神が復活したとき、この世は再び聖霊の統べる世界となる……って、そんくらい知ってるっしょ?」


「聖霊の統べる世界となる、ねぇ……。ずいぶんと抽象的ちゅうしょうてきな表現だな。俺ぁ『具体的になにが起こるか』って聞いてんだぜ?」


「残念ながらわからんのよ。極東から来たご先祖さまが持ってきた言い伝えには、それ以上のことはなーんにも」


 そうなんですよね。

 はるか昔に極東から、シャルガのご先祖といっしょに渡ってきた三大聖霊が『聖霊神』復活のカギ。


 そして聖霊神が目覚めたとき、聖霊の統べる世界がよみがえる。

 『具体的になにが起こるのか』誰も知らないのです。

 けれど……。


「解放したとき、なにが起こるのかまったくわからない。それでもトリス、お前は本気で聖霊神を解放すると?」


「はいっ!」


 けれど、迷わず答えます。

 ティアもテルマちゃんもユウナさんも信じてくれた、私を信じてうなずきます。


「聖霊神を解放することで、世界がメチャクチャになるかもしれねぇ。それでも責任を取れるのか?」


「取ります! ……というか、メチャクチャになんてなりません!」


「……そうか」


 大僧正さん、静かに目を閉じます。

 じっくりと考えをまとめているのでしょう。


「わかった。トリス、それからテルマ」


「はい」


「テルマもですかっ!? は、はいっ!」


「ブランカインドの大僧正として、新たな任務を言い渡す。『聖霊神』の復活を解き、この状況を打開せよ」


「に、任務……?」


「あぁ、任務だ。『聖霊神』の解放は、任務としてこの俺がいま、お前らに命令したことだ。よって全責任はこの俺が負う。だからトリス、心置きなくやりたいことをやってきな」


 ポンっ。


 大僧正さん、とっても優しいカオで私の肩をポンと叩きます。

 思わず目頭めがしらが熱くなっちゃいますが、泣いてる場合じゃありません。


「……っ! 任務、うけたまわりましたっ!」


「テルマも、承りました!」


「よし! 行ってこい!」


「はい、行ってきますっ!」


 これ以上、なんにも言葉はいりません。

 テルマちゃんと手を取り合って、私たちふたりは三大聖霊と聖霊像が納められた宝物殿の中へと飛び込みました。



 ★☆★



 館の中も当然、ダンジョン化に巻き込まれています。

 ですが魔物や『影の赤ん坊』はどこにも見当たりません。

 なんらかの防護機能が働いているのでしょうか。


「ね、テルマちゃん。魔物が出るかな、くらいは覚悟してたけど、なんにもいないね」


「ですねっ。ところでお姉さま、肩に黄色いお札がついていますが……?」


「ほぇ?」


 テルマちゃんの指摘で、肩を見てみます。

 ……ホントだ、お札が貼ってある。


「これ、『聖霊の墓場』に入るときに必要なお札、だよね」


「持っていないとネフィリムに襲われるっていうアレですね」


「そ、そういえば、さっきは気にする余裕なかったけど……」


 た、たしかネフィリムによく似た怪物が、でっかい赤ん坊とケンカしてたような……。

 もしかしてこの別館、ネフィリムに守らせてたの……?


「コレがなかったらテルマたち、ネフィリムに襲われてたってことですかぁ……?」


「だ、だと思う……」


 これって多分、さっき大僧正さんが肩をポンと叩いたときに貼ってくれたんだよね?

 大僧正さんの心くばりにとことん感謝しつつ、別館をどんどん進む私たちです。



 さて、マップを出さなくても『三大聖霊』の位置はだいたいわかります。

 棺の中に封印されていたとしても、とんでもないプレッシャーが漏れ出ていますから。


 まがまがしい気配をたどって、保管部屋の前まで簡単にたどり着きました。


「こ、この中ですねっ」


「う、うん……」


 気分が悪くなりそうなほどのプレッシャー。

 私の手が本能レベルでドアノブをまわすことを拒否しますが、なんとかこらえて入室です。


 部屋の中には家具もなにもありませんでした。

 ただカベや天井一面にお札が貼ってあって、部屋の真ん中に無骨な木箱が置いてあるだけ。


 その木箱のフタをよいしょっ、とズラすと……ありましたっ。

 ななつの聖霊像とみっつの棺。

 聖霊神復活のために必要な全部です。


「これでいけるよ、テルマちゃん!」


「はい、お姉さまっ。……あのぉ、ところで具体的にどうやって復活させるのですか?」


「んーとね、なんとなくわかるんだ。とりあえず、どこか広いところに持っていこう。ここ、たしかお庭があったよねっ」


 この館、裏にお庭があったはず。

 けっこう広めになっていたので、ひとまずそこまで運んでいきましょう。



「はひっ、はひっ……」


「お、お姉さま、大丈夫ですか……?」


「はひっ、だ、だいじょうっ、ぶ……! よいしょぉ!!」


 ずんっ。


 地面に木箱を置いて、重さから解放された両腕の自由を噛みしめます。


 えぇ、木箱、思ったよりも重かったです。

 よたよたしながらなんとかお庭まで運んでこられました。


 お庭にも魔物の姿はなし。

 ここも宝物殿の中って判定のようです。


「よぉし、テルマちゃん。始めるよ……!」


「は、はい……」


 緊張しつつ、聖霊像を一体一体順番に並べていきます。

 いつか見た映像と同じように、魔法陣を作るように円形に、一定の間隔で規則正しく。


「これでよしっ、並べ終えたよ!」


「そ、そうしたらなにが起きるんでしたっけ」


「聖霊神を封印している、『アマノイワト』が現れるの」


 聖霊を封印する『赤い棺』の強化版みたいな『アマノイワト』。

 どこかに存在しているソレを呼び出すための霊具が聖霊像です。


「ですけどお姉さま、なにも出てきませんよ?」


 そう、テルマちゃんの言う通り。

 並べただけではなにも起こりません。

 あのとき見た映像では……。


「まだ足りないの。『星の瞳』と『月の瞳』、それから『太陽の瞳』。全部がそろったとき、『アマノイワト』は現れるんだ」


 『月の瞳』はツクヨミが持っています。

 『星の瞳』なら私が持っていますが、映像によればスサノオも持っています。

 そして『太陽の瞳』は本来、ヤタガラスが持っていたものなのですが、今は私が持っています。


「と、とうとう三大聖霊を解放しちゃうわけですね……!」


「うん、ちょっと怖いけど……。でも、みんなが信じてくれたから、大丈夫」


 まずは『ツクヨミ』から。

 棺のフタを……解放です!



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