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160 テイワズの本音



「お、お姉さま……? いまなんとおっしゃいました??」


 かわいいお目目をぱちくりさせて、あっけに取られるテルマちゃん。

 それはそうです。

 聖霊神を復活させるだなんて、いきなり言い出したら正気をうたがうでしょう。


「テルマの聞き違い……じゃないですよね?」


「うん。聖霊神を復活させることが、『みんな』を助けるために必要なことなんだ」


 とつぜんなにを言い出すのか、と思うよね。

 だってこれまで、『聖霊神』の復活を阻止するためにみんな頑張ってきたんだもん。


 けど、それってなんのため?

 聖霊が危険な存在だから、聖霊神も危ないものだって決めつけちゃってなかったかな。

 もしもその前提から間違っていたとしたら……。


「……わかりましたっ。山頂に急ぎましょう」


「理由は聞かないの?」


「聞く必要を感じません。お姉さまのこと、今さら疑ったりするものですか」


「テルマちゃん……」


 こんなとんでもないことを無条件で信じてくれるなんて。

 この子の寄せてくれる信頼に、胸の奥が熱くなっちゃいます。


「ティアナさん、ユウナさん、聞こえてましたよねっ!」


「……えぇ。目を閉じてる分よく聞こえるわ」


 ふっ飛ばされた先、『影の赤ん坊』を蹴散らして起き上がり、ふたたびヒルコにむかっていくティア。

 おおきなダメージではなさそうです。


「私もバッチリ聞こえてるよー! ビックリしちゃう内容だったけど、聞き間違いじゃないんだよね?」


「けれどユウナ、あなた()異論はないのでしょう」


「まぁねー。他のヤツが言い出したら、頭がおかしくなったのかって疑うけどさ」


「トリス、今回も『勘』かしら」


「えーとね、ちょっと違うかな……。『感じた』の」


「そう。だったらなおさら信じるわ。【感知力SS】のあなたが『感じた』というのなら、疑う理由は微塵もない」


「ってなわけだ。おねーちゃん、トリスを山頂まで守っていって――」


「ユウナ、あなたが行きなさい」


「えぅっ!?」


 ビックリしたユウナさん、すごい声を上げましたね……。

 私を連れてく役目をゆずられたのが、そこまで意外だったのでしょう。


 私も意外です。

 テルマちゃんだって意外そう。


「な、なんで……? ユウナ様なら強いから、ひとりだけでも平気だってば」


「そうね、ユウナ。あなたは強い。だからこそ任せるのよ」


「……まぁ、お姉ちゃんがいいならいいけどさ」


 ユウナさん、了承したみたいですね。

 ヒルコとの攻防から離脱して、私たちをかこむ赤ん坊へと突っ込んできます。


 ズバババババッ!


 開眼しつつ、ものすごい速度で『影の赤ん坊』を殲滅。

 やっぱりこのヒト、とっても強いです。


「……よしっ。こいつらすぐに再生するからさ、急いで行くよ!」


「うんっ!」


 山道を走り出したユウナさん。

 私も衣をまといつつダッシュでついていきます。


「……ったく。お姉ちゃんってば余計な心配ばっかりして」


「えっ?」


「アレね、本音は私ひとりを置いていくのが不安でたまらなかったんだよ。私にもう一度死なれるのを、なにより怖がってるんだ」


「そうだったんだ……」


 チラリと、ティアの方をふり返ります。

 これまでと同じく、危なげなくヒルコと戦っていますが……。


「私だって、お姉ちゃんに死なれたらイヤなのにさ。自分の気持ちばっかり考えて……」


「ユウナさん……」


「……ゴメン、こんなグチグチ言ってる場合じゃないよね。先を急がなきゃ」


 ユウナさん、本音じゃ残りたかったんだろうな。

 私だってあそこにティアをひとりで置いていくの、とってもとってもつらいです。


 だからこそ、急がなきゃ。

 ティアもふくめて、この場所にいる『みんな』を助けるために。



 ★☆★



 ハンネスタ大神殿の地下でブチまけたっていうケイニッヒの――いや、テイワズの本音。

 アレをナリトに聞かせるってのか、この婆さん。

 またややこしいことになるんじゃねぇか……?


「テイワズ様の本音……だと? 貴様ら、なにを言って――」


「……ま、この期におよんで隠すこともないっしょ。親父殿が立てやがった作戦、見事に失敗したみたいだしなぁ。もうどうしようもない、全部おしまいやん」


 闇につつまれたブランカインドに、すべてを飲み込んで増殖し続ける赤ん坊。

 シャルガの戦力はみんな逃げ出して、あるいは赤ん坊に飲み込まれて、もうほとんどのこっちゃいねぇ。

 たしかにもう、作戦どころじゃなくなってるわな。


「ヒルコ様は『禁忌』。聖霊様の中でも特に恐ろしい、人知をこえた存在。だからこそ誰よりも聖霊を敬い、おそれるシャルガの長に伝えられてきた。その意味を親父殿は理解できていなかった。ハッ、族長失格やん、あのクソ親父が……!」


「あァ、舐めすぎたな。アイツぁ明らかにヤバすぎる。危険度だけならスサノオにも匹敵するかもしれねぇ。そんなヤツを軽々しく持ち出してくるべきじゃなかったな」


 直接『ヒルコ』と戦った大僧正がそこまで言うんだ、マジでやべぇヤツなんだろうな。

 そんなヤツと戦ってるユウナたち、ホントに大丈夫かよ……。


「ナリト、悪かったな。こんなことに付き合わせて」


「な、なにをおっしゃいます……! 今回の作戦は先代が立て、実行したものなのでしょう。テイワズ様の責任では……!」


「いいや、僕の責任。僕の『私怨』に一族まるごと巻き込んで、ブランカインドと全面戦争なんておっぱじめたのは全部僕の責任なんよ」


「『私怨』……?」


「そう、私怨。ただの私怨よ。妻を、娘を失った男のむなしいさ晴らし。聖霊神を復活させて、『ブチ殺してやろう』だなんてくだらない復讐を考えた、くだらない男の、な」


「せ、聖霊神さまを……!? 笑えないご冗談はおやめください、テイワズ様!!」


 あー、やっぱり目の色が変わったな。

 困惑と、あとは少しの怒り、かな……?

 トリスじゃねぇから正確な感情は読み取れねぇが。


「冗談とちゃうよ。本気も本気。……思えば、ただの八つ当たりだったのかもしれんけどな」


「八つ当たり……。どういう意味でしょうか」


 自嘲混じりの笑みを浮かべるテイワズに、ナリトは冷静に問いかける。

 思ったよりも取り乱さないな、アイツ。


「家族が死んだのは、親父殿が聖霊神を復活させようだなんて考えたせい。聖霊神さえいなければ僕の家族は死なずに済んだ、なんてな。ホントに殺したいのは親父殿だってのに、とっくに死んであの世に逝って、怒りをむける先すら無くなって。その結果の八つ当たりに一族みんなを巻き込んだ。ほんっと、くっだらない男としか言いようがない」


「……おっしゃる通りだ。本当にくだらない」


「ハハッ、失望したやろ? わかったらホラ、こんなヤツ放ってお前も逃げ――」


「そのいじけた態度がくだらないと言っている! テイワズッ!!」


 グイっ、と首根っこをつかみ上げ、声を荒げるナリト。

 赤ん坊と戦いながらビクッとするメフィが、視界のはしに映った気がした。


「ナリト……」


「そうしてうずくまり、何もせずに泣き言を吐くだけか! そのような男を親友と思い、主君と慕い、ここまで忠誠を誓ってきた俺への! そしてこの俺の親友へのこれ以上の侮辱は、たとえお前自身でも許さない!!」


「……けどな。だったらなにすればいいん」


「『悲願』を……、達成すればいい。そのための助けならば、俺は我が身を惜しみません」


「聖霊もない、武器もない。ヒルコ様は制御不能。こんな状況で、どうやって悲願達成なんて出来るん?」


「『聖霊神』の復活はムリかもなぁ、ヒヒっ」


 お、おっと、妖怪ババアが口出ししてきやがった。

 しかもとっても楽しそうに。


「……婆さん、なに言っとるん」


「お前、自分の親父に復讐したいんだろ? 手伝ってやるって言ってんだ」


 ヒヒヒっ、と笑いつつ、婆さんがドスをかまえる。

 ま、まさかあの世に逝って復讐してこいだなんて言うつもりじゃ……。


「お、おい婆さん……。殺すのはさすがに……」


「セレッサ、なぁに勘違いしてんだ? じつはな、俺ぁまだ『除霊』をしてないんだよ」


 婆さんのナタに霊力が満ちていく。

 アレってまさか、タントたち元ヤタガラスから奪……コホン、伝授してもらった――。


「ブランカインド流葬霊術――魂削りの刃(ソウル・イレイザー)


 ズバッ!!


 太い刃がケイニッヒの背中を深々と斬り裂いた。

 だがヤツの肉体に、ダメージはなにひとつ残らない。

 血の代わりに飛び出してくるのが……。


『いっ、ぎやあぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!』


 苦痛に顔を歪ませた、ジェイソフの幽霊だ。

 アレが憑依霊を祓うタントたちの得意技、魂削りの刃(ソウル・イレイザー)

 つーか婆さん、ちゃっかり自分とこの流派の技にしてやがったな……。


「親父……! 婆さん、まだコイツのこと祓ってなかったんか」


「残しといた方が面白いと思ってよぉ。さ、どうする? 煮るなり焼くなり好きにしな。キヒヒ……ッ!」



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