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156 闇の中へと突入です



 ブランカインドの目の前まで戻ってきました私たち。

 ずいぶんお早いお帰りなどと、のんきなことは言っていられません。

 まずはどうにかして、山をおおう『闇』を抜けないと。


「お姉ちゃん、どう?」


「やはりダメね。力でも霊力でも突破できないわ」


「お姉ちゃんもムリかー……」


 あらゆる攻撃が効かない『闇』。

 ティアとユウナさんが剣や聖霊のチカラで頑張ってくれましたが、やっぱりビクともせず。


「もういいよ、二人ともっ。私が穴を開けちゃうから、下がってて」


 二人とも、私が出来るだけ『太陽の瞳』のチカラを使わないように、って頑張ってくれました。

 けれどこれ以上、ここで足止めされるわけにはいきません。


 幽体離脱して『太陽の瞳』を発動です!


「お姉さま……。平気なのですか……?」


「うん。このくらいの『願い』なら、まだまだ平気だと思うよ」


 太陽の瞳とはヤタガラスの心であり、同時に願いを叶える力。

 どんな願いでも叶えられるとのことですが、ホントかどうかはわかりません。

 叶える願いに限界があるのかどうかもわかりません。


 ただ叶える願いの大きさで、消耗しちゃう霊力の量が変わってくるのは確かです。

 『ブランカインドをつつみ込んでいる巨大な闇を丸ごと消して』なんてことを願ったら、きっと私の霊力は一気にすっからかん。

 霊力どころか寿命まで尽き果てて、幽霊さんの仲間入りです。


 けれど人が通れるだけの大きさの穴を作るくらいなら、まだまだ余裕がありそうです。

 この先のことも考えて、叶える願いはひかえめに。


「お願い……、私たちを中に入れて……っ」


 闇を見つめながら願います。

 すると見つめた一点に、うにょぉん、と穴があきました。

 ヒトが一人なんとか通れるくらいの小さな穴です。


「やったっ! これで中に入れるよっ」


「さすがね、トリス。では体に戻りなさい」


「そうですお姉さまっ! お体はこちらですよ!」


「ふ、二人とも心配しすぎだよぉ……」


 急かされるまま体に戻ります。

 ……うん、特に違和感もありません。

 いつも通りの体の感覚です。


「はいっ、大丈夫! ほら、私の心配はいいからさっ。早く行かなきゃ!」


「……えぇ、そうね。けれどトリス、あなたはテルマといっしょにここに――」


「残って、なんてお願い聞けないからねっ! 私もついていくから!!」


「……」


 連れて行ったらまたムチャしちゃう、とか考えてるんだろうなぁ。

 ティアってば、拒否したらどことなく不満そうな顔になっちゃいました。

 そんなティアの肩を、ユウナさん――じゃなくてタントお姉ちゃんがポンと叩きます。


「トリスはこういう子なんです。あなたもよくご存じでしょう?」


「そうね。トリスは止めても止まらない。『人助け』がからんでいたら特に、ね」


 あきらめたように小さく息をはくティア。

 ゴメンね、いっつも心配かけて。


「くれぐれも無茶しないでね。テルマ、あなたもよ」


「……はい」


 んぅ……?

 テルマちゃんの心配までするなんて珍しいね。


 しかもテルマちゃんのこの様子。

 もしかして私の知らないあいだになにかあったのかなぁ。


「――さぁさぁ、では急ぎましょう! いつものようにお姉さまはテルマがお護りしますから、なんのご心配もなく!」


「頼りにしてるねっ」


 気になることもありますが、きっとなんとかなると信じて。

 いざ、ブランカインドの闇の中へと突入です!




 闇のトンネルを抜けると、おびただしい数の聖霊の気配が私を襲いました。

 思わず足がすくんでしまうほどに。


「……ティア、霊山のあちこちに聖霊がいる」


「どのくらいの数かしら」


「えっとね……。にじゅう……ご……?」


「ほへー。いくつか倒された後だとしても、かなりの数だねー」


「その中に覚えのある気配は――ヒルコの気配はあるかしら。ヒルコがいる場所がジェイソフの居場所よ」


「待ってね。今探すからっ」


 感知力をフルに使って捜索です。

 大神殿で出会ったときと同じ、聖霊の中でもとびっきりおぞましくて強力な気配は……。


 ……見つけましたっ。

 山頂の大聖堂の奥に――。


「……っ!?」


 ヒルコの気配を見つけた瞬間、むこうも私を見つけたような、おかしな感覚をおぼえます。

 目を合わせてはいけない怪物と目を合わせてしまったような感覚です。


「お姉さま? いかがされましたかっ!?」


「だ、大丈夫。ヒルコは山頂の大神殿にいるよっ」


「大僧正のところ……かしら。あの人に限って万が一もないでしょうが、急ぎましょう。最短ルートで行くわ」


「え? ひゃわっ!」


 なんと私、ティアにお姫様抱っこされちゃいました。

 なんでぇ!?


「しっかり捕まっていなさい。ユウナ、行きましょう」


「見せつけてくれるねー」


 わけもわからず、ティアの首に腕をまわしてギュっと捕まります。

 するとティア、ユウナさんといっしょに崖をジャンプで登って山道をショートカットしはじめました。

 最短ルートってこういうことなのね……。


 ティアの腕に収まりながら、山のあちこちへと目をむけますと、葬霊士さんとシャルガのヒトたち、そして聖霊たちがあちこちで戦っているのが見えます。

 数の上では葬霊士さんたちの方が有利、かな。


 けれどシャルガのヒトたち、死ぬのをまったく恐れていないカンジです。

 なんていうか、覚悟が違うっていうか……。


 心の底から聖霊を信奉していて、聖霊を粗末にあつかうブランカインドが許せない。

 信念、執念、そういうものをビシビシ感じるのです。


 ゴゴゴゴゴゴゴ……!!


「わわわっ、今度はなにっ!?」


 いきなりの地響き!

 びっくりして思わずティアに思いっきりしがみついちゃいます。


「地震……かしら?」


「た、ただの地震じゃないみたいっ! 揺れが山頂の方から来てるもん!」


「ま、まさか、ヒルコがなにかしているのでしょうか……」


「……なおさら急がなきゃいけないようね」


 なんだかとっても胸騒ぎ。

 悪いことが起きなきゃいいのですが……。


「いやあぁぁぁぁあああぁぁぁ!!!」


「……っ!」


 聞こえた悲鳴に、とっさに目をむけます。

 叫びは山の中腹、広場になっている公園から。


 一般の参拝客さんでしょうか。

 おそらく避難のために逃げ込んだだろう女のヒトに迫る毛むくじゃらのシルエット。

 アレは……。


「ティア、魔物! モンスターがいる!」


「なんですって……!?」


 見ればあちこちの地面から、魔物がわき出してきています。

 これってもしかしなくても……。


「ダンジョン化……!? そんなことって……!」


「お姉ちゃん、どうするの!?」


「……見捨ててはいけないでしょう」


 私がお願いする前に、ティアが方向転換。

 私を抱えたまま、片手で長剣を引き抜きます。


「いやっ、助けてぇェェェ!!」


「グルゥァァ……」


 よだれを垂らしながら迫るモンスター、ウェアウルフ。

 山岳地帯のダンジョンに多く住んでる二足歩行のオオカミです。

 参拝客の女のヒトに今にも襲いかかろうとしているところ、


 ザンッ!!


 ティアの一刀で真っ二つとなりました。


「……ケガはないかしら」


「は、はい……っ」


「ここは危険よ。どういうわけかダンジョン化が始まってる。屋内にでも隠れて――」


「お姉さま! 斬られたモンスターが……!」


「……?」


 テルマちゃん、どうしたんだろ。

 ティアといっしょに魔物の死体へ目をむけると、信じられない光景が目に飛び込んできます。


 なんと死体を真っ黒な影が包み込んで、まったく違う姿へと変貌していったのです。


「な、なに……? ティア、なにこれ……」


「わからないわ。こんなもの、見たコトもない……」


 死体をつつみ込んだ影は、まるまるとしたシルエットにみるみる巨大化。

 ティアの身長みっつぶんくらいはある、おっきな『影』の赤ん坊へと変わってしまいました。


『だぁだぁ、きゃっきゃ』


 影そのものの真っ黒、というよりは『真っ暗』な肌に、なにもついていないつるりとした顔。

 口もないのにいったいどこから声を出しているのでしょう。


 しかもです、この一体だけじゃありません。

 他の生きているモンスターたちも、どんどん影に飲まれて『真っ暗な赤ん坊』へと変わっていくのです。


『ばぁぶっ。だぁぁぁ』


『えきゃっ、えきゃっ』


 異様な光景に、思わず言葉を失ってしまいます。

 カラカラになった喉が、ゴクリと音を立てたその瞬間。


 ぐりんっ。


 全ての『真っ暗な赤ん坊』がこっちを――私の方をむきました。

 そして『きゃっきゃ』と無邪気に笑いながら、いっせいにこちらへとハイハイしてきます。


 その瞬間、私は気づいてしまいます。

 『赤ん坊』たちの狙いは私だという、気づきたくもない最悪の事実に。



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