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155 一瞬



「テイワズっていやぁ、たしか――」


 シャルガのトップ『ケイニッヒ』の本当の名前だったよな。

 ユウナたちから聞かされて、ヤツの経緯は知っている。

 今ヤツが『どういう状態』にあるのか、も。


 だったらコイツは?

 他のシャルガの奴らは知っているのか?


「……お前、ケイニッヒの正体知ってたのかよ」


「っ!?」


 ケイニッヒが本物じゃないと、オレが知っていることに驚いたみてぇだな。

 剣を押し込む力がわずかにゆるんだスキに、一気に押し返す。


「お前、なぜ知っている……!?」


 すぐさま距離をとるナリト。

 あきらかにうろたえていやがるな。


「ケイニッヒ様の正体は誰も知らない。俺以外には誰も、アネット様たちですら知らなかったことだ。それをなぜ――」


「ちょっとな。なんでも見通せるヤツと友達でよ。秘密にしてたならすまねぇな」


「……いいや。なぜ知っているか、理由なんざ関係ねぇ。俺の仕事は貴様を殺すことだけだ」


「いいのかよ。お前が知らないことだって知ってるぜ?」


「関係ないっつってんだろうが!」


「今のケイニッヒが、テイワズですらなかったとしても、か?」


「な、に……!?」


 お、あのヤロウ足を止めやがったな。

 ここまで効果てきめんとは思わなかったぜ。

 『テイワズ』の異変に心当たりがあるカンジだな。


「どういう、意味だ……」


「いいぜ、教えてやるよ。ちっと長くなりそうだけどな――」



 ★☆★



 ヒルコの作り出した闇の中で、戦い始めてどれだけ経った?

 目をつむりながら攻撃を弾き続けて、時間の感覚すらなくなってきやがった。


「しぶとい老婆だ。ヒルコ様の攻撃をここまでしのぐとは」


「へっ、大したこたぁねぇな! 老い先短いババアをあの世に送ることすらできねぇたぁよ!」


「しかしこうしている間にも、先の長い命がどんどん散っているぞ? お前が抑え込まれているおかげでな」


「見くびんなよ! ウチの若いモンたちはそこまでヤワじゃねぇさ! お前らの方こそヒルコを抑え込まれて苦しいんじゃねぇか!?」


 悔しいがヒルコの強さは相当だ。

 俺がここでおさえておかなきゃ多大な被害が出るだろう。

 だからこれでいい。


 ここでヒルコを引き受けながら『アイツら』がもどるのを待つ。

 それが大僧正として、今出来る最善の手だ。


「しょせんは年寄りの冷や水よ。カムイが太陽の瞳の少女を連れてきたらば、そちの心も折れるだろうて」


「いつまでも、便器のシミみてぇにこの世にへばりついたタンカスジジィがよく言うぜ。ヒルコより先にお前から祓ってやってもいいんだがなぁ?」


「減らず口を……。ヒルコ様、あなたのお力はこの程度ではないはず! どうか更なるお力を!」


 命令、というよりは懇願こんがんだな。

 見えやしないが、はいつくばって土下座して頼み込んでるんだろうよ。


 攻防が始まってから、ヒルコ本体が俺に直接攻撃してきたことは一度もない。

 というか攻防と呼べるものですらない。

 霊力をこめた弾丸を暗闇から打ち込んでくるだけだからな。


 月の瞳で仕留めきれなかった時点でやる気をなくしたのか、隠し玉がないだけなのか、それとも――。

 ……ま、聖霊の思考なんざ考えるだけムダってモンか。


「お力をお見せ下され、ヒルコ様! さぁ、さぁ、さぁッ!!」


「いくら頼んだところで、聖霊が答えるたぁ思えねぇがなァ?」


「黙れッ! ヒルコ様ならば、きっと――ッ」


『……』


 シュンッ!


「……あえ?」


 ジェイソフの間抜けな声が耳に届くと同時、周囲が明るくなった。

 また『月の瞳』の攻撃か、とも思ったが、どうやらちがうな。

 ヒルコの『気配』そのものが、この部屋から完全に失せてやがる。


 こいつぁまさか……。

 閉じていたまぶたをそっと開けてみると――。


「ヒ、ヒルコ様? どちらへ? どちらへ行かれたのですか?」


 思った通りだ。

 ヒルコの姿がどこにもねぇ。

 照明にてらされた部屋の中、青い顔したジェイソフがただ一人、必死にヒルコを探しているだけだ。


「よぉ、ジジィ。頼みの神様に見放されたみてぇだなぁ」


「……っ、ぐ……っ! ヒ、ヒルコ様はワシを見捨ててなどおらぬ! そうですよな、ヒルコ様!?」


 ジェイソフの呼びかけに返事はねぇ。

 完全にどっか行ったようだな。


 ただしマドの外を見るに、霊山を包囲する闇が晴れたわけではない、と。

 こりゃぁ、厄介なことになるかもな……。


「ヒルコのヤツが何考えてどこに行ったか知らねぇが、お前にかまってるヒマは無くなった。とっとと祓わせてもらうぜ、悪霊ジジィ」


「ひっ……! くっ、来るなぁ!! ジ、ジン様、お助けをぉぉぉぉ!!!」


 破れかぶれで赤い棺を取り出しやがったか。

 現れたのは両手がカマになった異形、風をあやつる聖霊『ジン』。

 『聖霊の墓場』から逃げ出して、ケイニッヒに捕まっていたヤツだな。


「ジ、ジン様もまた偉大なる聖霊! このお方ならば、老いぼれふぜいは一瞬で――」


 シュバッ!!


 ジンの横を駆け抜けつつ、ヤツの右腕へとナタをふるう。

 一瞬で正確に108回、すべての斬撃が別々の目玉を斬り裂いた。


「あ……?」


「一瞬で、なんだって?」


 緑色のモヤへと変わるジンを赤い棺に吸い込んでやる。

 悪霊ジジィへと見せつけるように。


「な、なぜ……っ、ジン様が、一瞬で……っ」


「墓場に封じられてた聖霊ってなぁ、すべて一度は討伐された聖霊よ。当然、すべてのデータが俺の頭に入っている。弱点の位置だってバレバレだぜ?」


「し、知られていようが、動く相手の弱点をすべて、すれ違いざまに斬るなど、出来るはずが……ッ」


「出来るんだよ。俺を誰だと思ってやがる」


「う、うぅぅ……っ、うおおぉぉぉああぁぁあああぁぁぁぁぁッ!!!」


 ヤケになったヤロウが殴りかかってくるが、


「しばらく眠ってな」


 ドゴォ……!!


「が……ッ」


「次起きた時にゃ葬送中だ」


 みぞおちに拳をめり込ませて、一撃で眠らせてやった。

 ジェイソフがドサリ、と倒れてこれで一件落着、とはならねぇんだよなァ。


「『ヒルコ』のヤツどこ行きやがった……? クソ、面倒なことにならなきゃいいが――」


 ゴゴゴゴゴゴゴ……!!


「こ、今度はなんだ……っ!?」


 地面が上下に大きく揺さぶられる。

 地震か?

 それとも……。


 ともかくコイツを放ってはいけねぇ。

 『テイワズ』の体を担ぎ上げ、本殿の外へと走る。

 礼拝堂から山頂へと抜け出して、


「オ、オイ……。いったい、なんだぁありゃぁ……」


 そこで信じられねぇモノを目にしちまったんだ。

 この世のものとは思えねぇ、信じられねぇ『現象』を……。



 ★☆★



「テイワズ様が、テイワズ様ではない……だと……ッ!?」


「あぁ、そうさ。説明したとおり、今のアイツは先代族長――ジェイソフってジジイが取り憑いている。完全に乗っ取って操っているんだ」


「そ、そのようなことが……ッ! 敵の口から出た言葉を、そのまま鵜呑みにできるわけが――」


「にしては、すっげぇ動揺してるぜ。心当たりがあるんじゃねぇのか?」


「……っ」


 こりゃ、入れ替わりに感づいていやがったな。

 それを『気のせい』と押しとどめて命令に従っていたわけか。


「し……っ、しかし……! しかし、それでも俺たちがシャルガのために戦うことになんら変わりはない!」


「テイワズの意思じゃないとしても、か?」


「なん、だと……?」


「言ったろ? 乗っ取って操っている、って。そこにテイワズの意思なんざ介在しちゃいねぇ」


「……っ、ぐ……ッ」


 言葉に詰まっちまったか。

 思った通り、コイツは『シャルガ』ではなく『テイワズ』に忠誠をちかっているタイプ。


 くわえてオレが、誰も知らないはずのテイワズの過去まで知っていたからだろう。

 話の内容を否定しきれないんだ。


「知ってるか? ジェイソフがヤツの妻子を奪ったことを」


「そ、れは……ッ、う、うたがったことも、あったが……」


「トリスがハッキリ聞いた――いや、視たんだぜ。テイワズはジェイソフを憎んでいる。お前、そんなヤツの命令に従って、命をかけて戦えるのか?」


「……っ、く……、俺は……ッ」


 よし、もう一歩だ。

 あと一押しでコイツの『覚悟』は、戦意は折れる。

 そうすれば――。


「セ、セレッサさぁぁん!! た、たいへんですぅぅぅぅぅ!!!」


「ぅわっ、ど、どうした!?」


 頭の上からいきなりの、悲鳴が混じったメフィの絶叫。

 心臓が飛び出すかと思ったぜ。


「い、今っ、本殿からなにかが飛び出してっ! あ、あれは……っ」


「あん? 本殿から?」


 あまりの剣幕に、本殿の方へと目をむける。

 オレだけじゃなくナリトもいっしょに。

 まぁ、気になるよな、あんなに騒がれちゃ。


 と、いったいなにが飛び出したんだ?

 よーく目をこらして見ると……。


「……うん? ありゃぁ、黒い人影……か?」


 そうとしか見えねぇシロモノだな。

 空中に浮かぶシルエットだ。

 ソイツが両手を大きく広げたかと思うと……。


 ゴゴゴゴゴゴゴ……!!


「ぬぅっ、地震か……!?」


「い、いや、ちげぇ……。これは……!」


 黒い人影の下からなにかがせり上がってきやがる。

 こいつは……!


「ウソ、だろ……。巨大な『マナソウル結晶』が……ッ!」


 岩山のように巨大な『マナソウル結晶』。

 そいつがブランカインドの山頂に出現して、まがまがしい霊気が満ちていく。


「『スサノオ』が出した時とは様子がちがう……。こいつぁまさか……!」


 頭によぎった悪い予感は的中した。

 結晶の周囲の地面から波紋が広がっていくように、黒い影が。

 『魔物』が出現し始めたんだ。


 もう間違いねぇ。

 こいつは……。


「ダ、『ダンジョン化』だ……!!」



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