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154 族長と大僧正



 どうも、メフィです。

 わたしは今アルゲンちゃんの背に乗って、ガルーダと空中戦を繰り広げています。


 無から鉱物を生み出して攻撃に利用する。

 戦ってみて分析した、聖霊としてのガルーダの能力はそんなところですね。


 空の上から見下ろすことで、ブランカインド全体の様子もわかります。

 もちろんじっくり見てる余裕なんてないですが。


 『ヒルコ』の闇で山全体にすっぽりフタをされてしまったブランカインド。

 街灯が照らす里のあちこちで、シャルガの人や聖霊と、葬霊士さんたちが戦っています。


 あちこちです。

 カオスです。

 乱戦と言っていいでしょう。


(大僧正、どうしているのでしょう……)


 あの人が派手に暴れているなら、空からでもすぐにわかりそうですが……。


『キュキィィィィ!!!』


「おわっちょ!!」


 あ、あぶない……!

 メタリックに光る石がたっくさん、メフィをかすめていきました。

 アルゲンちゃんが避けてくれなかったらハチの巣だったかもですよぉ……。


「しゅ、集中しなきゃ……っ。メフィ、まだまだ自分を守るだけで精いっぱいなんだから……!」


 自分と誰かを同時に守れる強さなんて、まだまだ持ち合わせていません。

 大僧正やセレッサさんを助けに行きたいなら、まずは目の前のガルーダから……っ!



 ★☆★



「……ふーぅ。騒々しいなぁ、オイ。礼儀知らずな来客どもだぜ」


 いきなり外が暗くなったと思ったら、わーわーギャーギャーガキンガキンと。


 こううるさくっちゃ、おちおち書類仕事もできねぇやな。

 万年筆をポイと投げ捨て、執務机から立ち上がる。


「なぁ、そこにいるんだろ。入ってこいや。大僧正サマ自らが相手してやる」


 入り口にむかって言い放つと、両開きのトビラがギィ……と音を立てて開いた。

 姿を見せたのはひとりの男。


 聞かされていたケイニッヒの特徴とバッチリ一致するわけだが、コイツはケイニッヒじゃねぇな。

 『中身』が違うんだろ?


「よう。てめぇが『ジェイソフ』か」


「いかにも。そちらはブランカインド大僧正、イータス・レイコールとお見受けする」


 とっくに正体バレてるからか、隠すつもりもないわけか。

 さすがに味方には隠してるんだろうが……。


「まさかそっちから会いにいらしてくださるとはなぁ。探して祓う手間がはぶけたぜ、悪霊ジジィ」


「三大聖霊さまはどこにいらっしゃる? 大人しく引き渡せば、ムダな犠牲は出さないと約束しよう」


「ハッ。渡すわけねぇだろ。頭沸いてんのか? 霊体の方の脳みそまで腐り果ててんのか?」


「ずいぶんと口さがない老婆だな。礼節というものを教えてやらねばなるまい? のう、『ヒルコ』さま」


 『ヒルコ』、三大聖霊に匹敵するって聖霊か。

 ヤツがその名を呼んだ瞬間、ヤツの足元の影が盛り上がる。


 影の中から現れる、細身の手足に細身の体、全身が漆黒でおおわれた聖霊。

 貧相な体つきだが、なるほどな。

 『スサノオ』に負けず劣らずの威圧感してやがる。


「そいつがヒルコ。とんでもねぇバケモノらしいじゃねぇか。ブランカインドを丸ごと闇で包んでおいて、まだ余力を残してやがるな」


「口をつつしめ。ヒルコさまはバケモノなどではない。神に等しい神聖なるお方ぞ」


「バケモノジジィが抜かしても、説得力なんざカケラもねぇよ」


 ヒルコには目もくれずにジェイソフへと突進。

 首をねらってナタを振りぬく。


「愚かな……」


 シュバッ……!


 正確な一撃が頸動脈を切断した、と思いきや。

 ジェイソフの体は黒い泥へと変わり、地面にしみ込んだ。


「チッ……! ニセモノか……」


「その通り。ヒルコ様の『闇』が作った人形よ」


 つまりあのヤロウ、ハナから俺の前に姿を見せていなかった。

 人形を矢面に立たせて、どこか物陰から見てやがるな。


「そして大僧正。そなたがワシの姿を見ることはない。永遠にな」


 ブワッ……!


 ヒルコの体から霧のように闇が放たれ、部屋中を暗黒で満たしやがった。

 これもユウナたちの報告どおり、マジに一寸先も見えねぇ暗闇だ。


 だったらいっそのこと――。


「――ハン! 部屋の明かりを消した程度でこの大僧正を止められるとでも思うのか!?」


「思わぬよ。キサマほどの使い手ならば、暗闇だろうがいささかの戦力も落ちぬだろう」


「わかってんじゃねぇか。全部ムダだってことがよ」


「ムダではないさ。たとえばほれ、こうすれば……」


 パチン。


 指を弾く音がした直後、まわりが明るくなった感じがした(・・・・・)


「局所的に闇を解除した! 貴様を取り囲む闇のカベに浮かび上がる、無数の『月の瞳』! これはどうにもなるまいて!」


「ブランカインド流葬霊術――」


 体を沈め、ナタを逆手に持つ。

 きりもみ回転を加えながら飛び上がり、四方八方に繰り出す斬撃。


輪廻の円転ゼーレンヴァンデルング


 ズバズバズバァッ!!!


「バ、バカなッ、すべての瞳を斬り潰しただとぉ!? なぜ月の――忌まわしき狂気の瞳が通じぬのだ……ッ!!」


「おあいにくさま! 光が消えた瞬間から、こっちは目をつむってんだよ!」


「な、なにも見えぬ状態で、無数の瞳を正確に斬り裂いたというのか……」


「ビビっちまったかぁ!? 降参するなら今のうちだぜ!」


「ぬぅぅ……! し、しかしキサマにヒルコ様は倒せない……!」


 周囲がまたも闇につつまれる。

 同じ手は通用しないとわかったか。

 上下左右のあちこちから、なにかが飛んできやがるな……。


 キン、キン、キィンッ!


 ナタではじいた感じ、霊力でつくられた飛び道具のたぐいか。

 遠距離からチマチマ削る方針に切り替えたわけだ。


「ブランカインド最高戦力であるキサマをここにくぎ付けに出来るだけでも、我らが勝利に大きく近づく!」


 褒められることがこんなにしゃくたぁな。

 さて、どうしたもんかね……。


「――んん? これはノーム様の分体……? カムイからの連絡か」


 なんだ……?

 ノーム?

 カムイ?


 ヤロウ、いったい何の話をしてやがる……?


「……くっ、くくくっ。そうか。そうかそうか。聖霊神さまを復活させるには、七つの聖霊像もまた不可欠、と」


「なにッ……!?」


 どうしてその情報が割れた……!

 こちらの最大の情報アドバンテージが崩れたとなると、かなりまずいぜ……!


「くくく……っ。聞け、大僧正よ。すでに『太陽の瞳』の少女は我が手の者が捕らえた。行動を共にしていた葬霊士どもを始末したら、こちらに連れてくる手はずだ。残念だったな」


「……はっ。ははははははっ!!」


「……? なにがおかしい」


「ははははは……っ。これが笑わずにいられるか!」


 ジェイソフはとんだ勘違いをしている。

 たしかに聖霊神の復活に必要なのは、三大聖霊と七つの聖霊像、そして『太陽の瞳』だが……。


「トリスを手に入れたつもりになんのはよぉ、まだ気が早いってモンだぜ? ……いいや、トリスがお前らの手に落ちることは決してない」


「意味がわからんな。すでに捕らえたと言っているだろう」


「アイツらが無事なんだろ? だったら大丈夫だ。――あぁ、勘違いしてるようだから言っておくがな。ブランカインド最高戦力は、とっくに俺じゃねぇんだわ」


 本当の最高戦力は『アイツら』だ。

 ここで俺が『ヒルコ』さえくぎ付けにすれば、きっと『アイツら』が収めてくれる。


 信じてるぜ。

 ティアナ、テルマ、そしてトリス……!


「……フン、まぁいい。ノーム様、シャルガの戦士たちにもお伝えください。七つの聖霊像を探せ、と」



 ★☆★



 激しい打ち合いが続く。

 このナリトってヤツ、強さもそうだが『覚悟』ってヤツを感じるぜ。

 なにより『人間相手』ってのが最高にやりづれぇ……。


「セレッサ、っつったか? さっきから『ここぞ』の踏み込みが甘いなァ」


「そうかね? 鍛錬不足かもな!」


「『覚悟』が足りないんじゃないか?」


「……ハッ、抜かしやがれ!」


 クソ、見透かされてるか……。

 だが殺さなくてもいい。

 上空うえでメフィが持ちこたえてくれてるうちに、『棺』さえ奪っちまえば……。


「――む?」


 な、なんだ……?

 眼がたくさんついた、気味の悪いちっちゃなモグラが地面から湧いて出やがった。

 アイツも聖霊か……?


「ノーム様の分体――こ、これは……!」


 ヤツの眼が光って、空中に浮かび上がる魔力球。

 その中に映し出されたのは、三大聖霊と七つの聖霊像、そして……トリス!?


「……なるほどな。これらが聖霊神復活のため、真に必要なもの」


「クソ、どうしてバレやがった……!」


「この像もまた、ここに隠してあるのだろう?」


「……ノーコメントだ」


「答えずともかまわん。お前を倒して、探すまでッ」


 まただ。

 迷いのない踏み込みからの、気迫のこもった斬撃。

 重い一撃を受け止めるたび、手がビリビリとしびれやがる。

 こっちは対人経験なんざ、ほとんどねぇってのによ……!


「その覚悟……、いったいどこから来てやがる……!」


「知れたこと。我が友テイワズ様――いいや、ケイニッヒ様のため!」


「……あん? テイワズ、だぁ?」



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