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152 シャルガ強襲



 ユウナたち、もう霊山を出たころだよな。

 ちゃんと見送りに出ておけばよかったかね。

 もう一度会えるって保証、どこにもねぇんだから。


「……いやいや、アイツにかぎってそりゃねぇか」


 アイツのことだ、油断して命を落とすヘマを二度もするとは思えねぇ。

 それにティアナやトリスにテルマ、なによりタントもついてるしな。

 『なにか』ある確率なら、オレのほうがずっと高けぇか。


 つっても、オレはこのとおり留守の番。

 敵が直接この場に攻めてこないかぎり、『なにか』なんて起こりようがねぇけどな。


「あ、あのぉ……。セレッサさん、な、なにかありました? も、も、もしかして異変でも……っ!?」


「なんでもねぇよ、気にすんな」


 オレの独り言で、不安にさせちまったみてぇだな。

 メフィがオドオドしながら気づかってくれている。


「それより頼りにしているぜ、『第五席』のメフィさん?」


「い、いえいえ『筆頭』さんに頼られるほどの者ではございません! 繰り上がりに繰り上がりを重ねての『五席』なのでして!」


「死人欠員関係なく、生きてるヤツもすっ飛ばしての出世だろ? もっと自信持てって」


「あうぅぅ、そうなのですかね……?」


 本人的にはこのとおりピンと来てねぇようだが、シャルガが大きく動きはじめて以降、大僧正がメフィをずっと手元に置いていたのは、それだけ期待しているからだ。

 大僧正(あの人)はコイツの将来性に誰より期待を寄せている。


 だからこそずっと手元に置いて、こうしてオレとともに三体の『大聖霊』と『聖霊像』の警備の任につかせているんだ。


(こりゃ、オレもうかうかしてられねぇな)


 ユウナに誓ったんだ、アイツの次にすごい葬霊士になるって。

 ティアナには上を行かれちまってるが、他のヤツには追い抜かせねぇ。


 いや、ティアナも越えるつもりでいかねぇと。

 でないと恥ずかしくって、ユウナのとなりに並べねぇぜ。


「よし! 今日も張り切って任務をこなすとしようぜ!」


「はいっ、それはもう! と言っても毎日宝物殿(ここ)で待機しているだけなのですけどね……」


 ベンチに腰掛けたメフィが足をぶらぶらさせながらため息混じりにぼやいた。


 オレとメフィがいる場所は、本殿から少し離れた宝物殿ほうもつでんの前。

 小さな民家程度の大きさの建物の中には、聖霊神復活のカギとなる三大聖霊と聖霊像が厳重におさめられている。


 本来は開山以来の宝物ほうもつとか、墓場から逃げてとっ捕まった聖霊とかも入れてあったんだけどな。

 リスク分散のためにそっちは本殿にうつされている。

 今や完全に聖霊神絡みのブツ専用ってわけだ。


「待機っつってもな。やれることなら山ほどあるぜ? 鍛錬とか研究とか」


 かく言うオレもヤリをぶん回して演武の真っ最中。

 宝物殿には結界や侵入者防止の仕掛けが山としかけてあるから、オレらも中には入れねぇ。


 外で待機しているしかないわけで、広々とした空間とあり余る時間をムダにしたくはないからな。

 もちろん警戒を怠っているわけじゃねぇが、少しでも強くなりたいんだ。


「セレッサさんは努力家ですねー。メフィ、とてもマネできません」


「メフィだってよく手持ちの動物霊たちと『対話』してるだろ? それだって立派な鍛錬じゃねぇか。互いを知れば能力を効果的に引き出せる。より深く『同調』できる。連携もうまくなる。ぜんぶ強くなるために必要なことだ」


「わたし、ただ動物さんたちと楽しくおしゃべりしていただけなのですが。これって鍛錬になってたのですか……」


 まったく自覚がなかったみてぇだな。

 無自覚に鍛錬ができるだなんて、伸びるはずだぜ、まったく……。


「よぉし、それではメフィも鍛錬しましょう! みんなー、出ておいでー」


 コートから棺を取り出して、動物や古代生物の霊を次々に飛び出させるメフィ。

 幸せそうに動物たちとたわむれるアイツの顔をしり目に、ヤリを振るう手をいったん止める。


「ふぅ……」


 額の汗をぬぐって、天をあおぎながら一息入れた。

 空に近い霊山の山頂、天気は雲一つない快晴だ。

 本日も異常なし、ってか――。


「――おい、なんだありゃ」


「ほへ? どうかしました?」


「あぁ、どうかした。異常事態発生だ……!」


 ふもとから霊山をつつみ込むように広がっていく深い闇。

 アレが異常事態じゃなかったら、なにが異常だってんだ。


「話に聞いてた『ヒルコの闇』……か? ってこたぁ、クソッタレ! メフィ、来やがったぜ。『シャルガ』の襲撃だ……!」



 ★☆★



「なんと素晴らしきヒルコ様。闇をつかさどるその力、ブランカインド全土を闇につつむほどとは……」


 感嘆の声を出さずにはいられなかった。

 闇のとばりが山をひとつ、まるごと飲み込む様。

 聖霊さまの偉大さをあらためて実感する。


「当然だ、ナリトよ。三大聖霊さまに匹敵するとされるヒルコ様のお力、まだまだこんなものではない」


 ケイニッヒ様も感慨深げだ。

 当然だろう、先代――本物(・・)のケイニッヒ様から継いだ悲願がいよいよ果たされようとしているのだから。


 そう、俺は知っている。

 本人から明言されたことこそないものの、ケイニッヒ様が死んだことを、弟のテイワズ様が入れ替わったことを確信している。


 テイワズ様とは幼いころより親友の間柄だった。

 実際のケイニッヒ様の人となりも、把握しているつもりだ。

 それにケイニッヒ様――テイワズ様も、俺にだけは自分の正体を隠そうというそぶりも見られない。


 テイワズ様は、遠い昔に先祖が使っていたという独特の『なまり』を愛用していた。

 今現在のように『ケイニッヒ様』としてふるまう場合は絶対に出さないその『なまり』を、俺とふたりのときには自然と口に出す。


 互いに口には出さない、二人だけの公然の秘密。

 しかし、ここ数日の『テイワズ様』はまたどこか様子がおかしい。

 どこか、どこか違和感があるような……。


「どうかしたか?」


「……いえ、なんでも」


 気のせい、だろう。

 悲願達成を間近にして、気が張っているのかもしれない。

 二人だけで顔を突き合わせる機会が得られず、『テイワズ様』を見る機会がなくなったからそう感じるだけなのだろう、と。

 そう自分に言い聞かせる。


 ここ、ブランカインドのふもとに集ったシャルガの戦士たちにも、もちろんケイニッヒ様にも、迷いはなにひとつ感じない。

 ならば俺も迷わず、シャルガの戦士として力をふるうだけだ。


「聞け、皆の者!」


 ヒルコ様をかたわらに、ケイニッヒ様が戦士たちへと号令をかける。


「ヒルコ様の『闇の結界』によって、ブランカインドは外界と断絶された! 外部からの侵入を許さず、外部への脱出も拒む絶対の防壁だ!」


 グレイコーストで俺も対峙した『ブランカインド最強の葬霊士』二人を外部に隔離し、内部から『三大聖霊』を持ち出すことも許さない布陣。

 しかし、逆を返せばこちらの退路も断たれているということだ。


「古来より、ブランカインドの者どもは聖霊様の尊厳を踏みにじり、道具のように扱ってきた!」


 それでもシャルガの戦士たちに恐怖はない。

 ここで命を散らしても、聖霊様が自由を謳歌おうかしていたいにしえの時代を取り戻すいしずえとなるならば悔いはない、という思いなのだろう。


「あまつさえ三大聖霊様をひとところに封じ、聖霊神様を永遠に葬り去ろうとしている!」


 俺も同じだ。

 同じなのだ。

 聖霊様のために、そして我が親友テイワズ様のために命を散らすことに、なんの恐れが、迷いがあろうか……!


「これを許せるか! 許せるだろうか! いな、断じていな!!」


 だから迷うな、疑うな。

 迷わず進み、命尽きるまで戦い続けろ……!


「これより我らは本殿へと攻め入り、三大聖霊様の身柄を確保する! みなの者、進めぇぇぇぇッ!!!」


「「「うおおおぉぉぉぉぉぉおぉぉぉっ!!!」」」


 意気高く叫び、駆け出していくシャルガの戦士たち、総勢28名。

 その先陣を俺は切る。

 迷いを吹き飛ばすように、誰よりも大きな雄たけびを上げながら。



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