表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

151/173

151 助けを求める声がした



 軽やかに着地するティアナさんとユウナさん。

 地面にあいた穴から聖霊のモヤモヤや食べられた人たちの魂がたくさん飛び出して、お二人の持つ棺に吸い込まれていきました。


 ユウナさんが意識を失っている敵さんを縛り上げる中、吸い込み終わったティアナさんがこちらへやってきます。


「テルマ、よくやったわね。助かったわ」


「お姉さまのお力のおかげです。テルマはなにも……」


「謙遜しないで。ほら、立てる?」


「はい、もちろん――」


 差し伸べられたティアナさんの手を取ろうとした、そのときでした。

 テルマの魂がお姉さまのお体から、するりと抜け出してしまったのです。


「あ、あれ――?」


 おかしいです。

 憑依を解除した覚えもないのに、まるで追い出されるみたいに抜け出てしまいました。

 ともかく倒れそうになるお姉さまをあわてて支えます。


 抜け出ていた魂はテルマと入れ替わりに肉体へ。

 まだ意識はもどらないようですが……。


「ど、どうされたのでしょう、お姉さま……。なにかお体に異常が……?」


「……いえ、トリスに異常は見られないわ。問題はむしろあなたよ、テルマ」


 問題、って。

 幽霊のテルマにどんな問題が……?

 霊体だっていつもどおり、500年間ずっと変わらずに――。


 変わ……、らずに……。


「あ、れ……? テ、テルマの体って、こんなに透けていましたっけ……?」


「どうやらトリスだけじゃないようね。テルマ、二度とトリスの代わりに太陽の瞳を使おうだなんて思わないで。でないと――」


「で、ないと……?」


「ヘタをすれば、消滅するかもしれないわ」



 ★☆★



 足元で燃え盛る、地平線の果てまで続く火の玉。

 足元と表現しましたが、じっさいにはものすごく離れています。


 この光景を見るのは三回目。

 湖底で聖霊像を見つけたときと、聖霊像を全て集めたときに見た映像です。

 なのでさすがにおどろきません。


 足元にあるモノの正体も、なんとなく見当がついてきました。

 おそらく、きっと、たぶんですが、お空で燃えて光ってる、地上を明るく照らしてくれてるアレです。

 『太陽』です。


 太陽の上空に私が突っ立っている理由はさっぱりわかりませんが。


「どうしてまた私、ここにいるんだろう……」


 そもそも今回、私はどうしてこんな映像を見ているのでしょう。

 前とちがって聖霊像にかかわったわけじゃないのですが……。


 そんな感じで首をひねっていると、


 カッ……!


「ひゃぁっ」


 とつぜん目の前で、視界がおおわれるほどのまばゆい光。

 ヘタすりゃ失明級のまぶしさです。

 目をつむった上に、両腕で視界をおおってかばっても、まぶたを貫通してくるレベルですから。


 光がおさまると、そこにはまぶしい光を放つ大きな人影が。

 これも聖霊像を集めたときに見ましたね。


「……えっと。あなたが私を呼んだんですか?」


 なんて、話しかけてみますが、応答なんてあるはずが……。


「――――――」


「え……っ?」


 いま、頭の中に直接、言葉……というか、思考みたいなものが送られてきました。

 は、い……?

 はい、って、つまりイエスと言ったんですか?


「あ、あなたはいったい……」


「――――――――」


 か、ぞく……?

 ゆが、み、し、ぜん……、しゅう、せい……。


 断片的に頭の中にやってくる『思考』。

 正直、なにを意味するのかさっぱりわかりません。

 けれど、大切なことを伝えようとしている、それだけはわかります。

 だって、最後に……。


「――――」


 たす、けて。


 ハッキリと、そう聞こえましたから。


「……うん、まかせてっ。あなたのこと、助けるから!」


 だから私、迷わずうなずきます。


「――」


 光る巨大な誰かさん、微笑んだように見えました。

 そしてまた、光が強くなって――。





「――……んん?」


 あ、あれ……?

 私、いつの間にか地べたに横たわって……?


 さっきまでいた太陽ナゾ空間はどこへ行ったのでしょう。

 というか、ここはどこ?


「気がついたのね、トリス」


「よかったです、お姉さまっ!」


「ユウナ様特性の霊力たっぷり気付け薬、どうやら効いたみたいだね!」


「えぅ? みんな……?」


 なんだか頭がボンヤリしています。

 えっと、私は……。


 ……あ、そうだったっ!

 私、聖霊ノームに食べられて捕まって、眠らされちゃってたんでした!


 見れば知らないヒトがロープでグルグル巻きにされています。

 きっとあのヒトがノームの中で声を聞いたシャルガのヒトなのでしょう。

 よかった、みんなでやっつけられたんだ。


 ということは、さっきのはただの夢?

 ……ううん、ちがう。

 アレは夢なんかじゃないって、不思議な確信があります。


「トリス、どうかした?」


「毒消し草とにがり草とファントムオニオンの調合液なんて飲んだからねー。気分が悪くなっちゃったとか?」


「あ、ううん、ぜんぜん平気っ!」


 考え事をしていたら、みんなに心配かけちゃったみたい。

 とんでもなくマズそうなモノを飲まされたっぽい事実は、ひとまずスルーしておきましょう。


 見たカンジ、ティアもユウナさんもいたって無傷。

 テルマちゃんは言うまでもなく――。


「……んぅ?」


 なんだかテルマちゃん、いつもより輪郭が薄いような気がします。

 いっつも部分的に透けてますが、なんだか一段と……。


「テルマちゃん、なにかあった?」


「えぇ!? なにもありませんよっ!? 霊力の補充だって済ませましたしっ!」


「霊力の補充……?」


「あ……っ! その、えっと、こ、衣をたくさん使ってしまったので!」


「そ、そっか」


 なんだか妙な態度です。

 明らかになにかをごまかしちゃってます。

 まぁ、そこは改めて聞くとして。


 それよりとっても気になるモノが、さっきから見えちゃってるんですよね。


「ねぇティア、ブランカインドが……」


 霊山ブランカインドが、すっぽりと闇におおわれています。

 ノームに引きずり込まれるときに見えた光景、見間違いであってほしかったのですが……。


「アレってやっぱりヒルコのしわざ?」


「えぇ。正確にはヒルコを操るジェイソフのしわざ、ね」


「シャルガの総攻撃だよ。私らが霊山を出て、ノームに捕まるタイミングを見計らっての襲撃だ」


 ユウナさんがしばられたシャルガのヒトをにらみます。


「ったくさー、ずいぶんとコスい真似するよねー」


「作戦、と言ってもらいましょう。全ては崇高なる目的を達成するために」


「崇高なる目的。聖霊神を復活させることね。あなたの役目は私たちをここにくぎ付けにしておくこと」


「無論。そしてもうひとつの役目が『太陽の瞳』の少女を調べ上げること。全て見させていただきました。太陽の瞳の正体から、聖霊神さま復活のための方法まで」


「あなたのその余裕。すでに情報は漏らされている、と見て間違いなさそうね」


「私は私の役目を全うした。虜囚りょしゅうはずかしめを受けても悔いはありません」


 やりきった感出しちゃってますねー、あのヒト。

 自分に酔いやすいタイプとみました。


「シャルガの襲撃部隊、その人数と戦力となる聖霊たちの情報を渡しなさい」


「それは聞けない頼みです。このカムイ、シャルガの誇り高き戦士として、仲間を売るようなマネなどしない」


「そっかー。ならもういいよ。ここで寝てれば?」


 ドガッ!!


「ぁがっ」


 ユウナさんってば、思いっきり頭を蹴っ飛ばしちゃいました。

 白目をむいて気絶しちゃったカムイさん――って自分で言ってましたっけ。

 死んではいないようですが……。


「……トリス」


 尋問を終えたティアが、私の顔をじっと見つめてきます。

 とっても心配そうな表情です。


「ヒルコの闇はおそらくあなたの『太陽の瞳』でないと晴らせない。だからあなたが目覚めるまで動けなかったわけなのだけれど……」


「テルマ、お姉さまに太陽の瞳を使ってほしくありません……。身に染みてわかったのです、あの力は危険だって」


「ティア、テルマちゃん……」


 ふたりとも、私にチカラを使ってほしくないんだよね。

 わかるよ。

 だけど……。


「それでも、私はやるよ。自分かわいさにブランカインドのみんなを見捨てるなんて、そんなのできるわけないもん」


「……ま、そうだよね」


 ポン、とユウナさんが私の肩をたたきます。

 それから優しい、けれどどこかあきらめたような表情へと変わって……。


「トリスならそう言うに決まっています。もう止めるのはムダですよ」


「タントお姉ちゃん……」


 タントお姉ちゃんだって、ホントは私を止めたいに決まっています。

 けれど、私の決意が揺るがないってわかってるから、気持ちを汲んでくれている。

 きっと『家族』として。


「しかしこれだけは約束してください。決してムチャはしない、と。トリスが犠牲になることで、喜ぶ者など誰もいないのだから」


「……うん、わかってる。最初っから、犠牲になるつもりなんてないよ。ここにいるみんなで、また笑ってご飯を食べて、温泉に入って。そんなあたたかい日常を、ブランカインドで過ごしたいから。だから行くの」


 それに――。


「あのね、寝ているあいだにね、聖霊像をひろったときに見た『光るおっきなヒト』に会ったんだ」


「夢、ではなくて?」


「ちがうよ。夢じゃないってハッキリわかるの。そのヒトね、助けてほしいんだって。自分と、きっと家族を助けてほしいって」


 そのヒトが誰なのか、なんで私に助けをもとめたのか。

 それはまだわかりません。

 けれど不思議な確信があって……。


「そのヒトも、あの闇の中にいる。ブランカインドを覆いつくした、あの闇の中で苦しんでるんだ」


 あのヒトは、私に助けてって言いました。

 助けをもとめられたのなら、助けないわけにはいきません。

 それが私、トリス・カーレットなのですから!


「他にも助けを待ってるヒトが大勢いる! 行こう、みんな!」


「ええ、行きましょう」


「ユウナ様にまかせとけってね!」


「お姉さまはテルマが必ずお護りいたします!」


 みんなそれぞれにうなずいて、私たちは走り出します。

 闇におおわれた、霊峰ブランカインドへ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ