148 聖霊包囲網
ビシャァァァァァァン!!!
まるで落雷のような衝撃と光が、聖霊の体内で炸裂します。
『あ あ ぇ ぇ ぇ ぇ ?』
パァァンっ!
聖霊の体が、まるで水泡のように破裂しました。
これで体内から無事に脱出、アンドお姉さまも救出成功です!
「……って、ひゃわっ!」
どすんっ。
いけないいけない、体内からはじき出されてしりもちをついてしまいました。
お姉さまのお体なのですから、壊れ物のように大切にあつかわないと。
バラバラにはじけ飛んだ聖霊ですが、すぐに破片が集まって再生しようとしています。
ずる、ずるっ、と床を這って固まっていくの、とってもとっても不気味です。
弱点を的確に攻撃しないと聖霊は倒せない。
よってテルマにできるのはここまで。
あとはティアナさんかユウナさんに頼みましょう。
「――と、早くお二人を見つけなければ!」
聖霊が再生しきる前に、走ってその場を立ち去ります。
お姉さまの意識は、いまだ戻らぬまま。
だまって使い続けることを、どうかお許しくださいませ……!
★☆★
どうやら敵はシャルガのようだわ。
そしてどうやら本気で、この私を殺しにかかってきているらしい。
この私、『零席』の称号を持つブランカインド最強の葬霊士ティアナ・ハーディングを、聖霊神復活の最大の障害ととらえているみたいね。
光栄の限りだわ。
光栄、なのだけれど、少々やりすぎではないかしら。
だって視界いっぱいよ?
あたりを埋め尽くすほどの聖霊の大群を、ふつう私ひとりに差し向けてくるかしら。
『きゃきゃっ、きょきょきょ』
「――ふんっ」
ズバァッ!
飛びかかってきたトカゲのような聖霊を、すれ違いざまに斬り伏せる。
続けて鳥のような聖霊が天井を走ってくるけれど、これも真っ二つに。
こんな感じでさばけてはいるけれど、弱点を斬らなければ聖霊は倒せない。
私の体力だって無限じゃないわ。
数えきれないほどいる上に再生し続ける聖霊たちを相手に戦い続けたならば、いつかかならず力尽きる。
もう少し数が少なければ弱点の観察ができたのに。
そうさせないためのコレかしら。
考えたわね。
(――トリスはどうしているかしら。テルマは? それに……ユウナ)
トリスとテルマが全力で排除される確率は低い。
けれどユウナは違う。
私とおなじく計画の障害として、大量の聖霊を差し向けられているかもしれない。
もちろんトリスたちも、可能性が低いからって安全とは言い切れないわ。
みんなの無事を確認するためにも、早くこの場を切り抜けなければ……。
(さぁどうしましょう。文字通り切り抜けるのがベストかしらね)
ダンジョンのように入り組んだ場所、というかダンジョンそのものなこの場所。
シムルの力で空気の流れを読めば、なんとか迷わず進めるはず。
そうと決まればさっそくシムルを呼び出して――。
「おやおや、お元気そうですね。頑張っておられる」
「……?」
誰かしら。
聖霊たちの後ろにいきなり男が現れたわ。
中途半端に長い白い髪に、人を見下したような腹の立つ目をした男。
コイツが私たちをこの空間に引きずり込んだ張本人かしら。
「総勢36体。この数の聖霊を相手取って倒れぬとは、さすがブランカインド最強の葬霊士」
「ほめても何も出ないわよ」
絶え間なく襲ってくる聖霊をさばきつつ、男をさらに観察する。
シャルガの服を着ているあたり、シャルガの者で間違いなし。
となればまず、聞いておきたいことがある。
たくさんある中で、最優先で聞きたいことは――。
「……ブランカインドをつつんだ闇。アレがなにかを教えてくれるかしら」
「おやおや、不躾に」
「気になって仕方ないの。答えてくれる?」
トリスやユウナたちも気になるけれど、これが一番聞きたいこと。
まず状況を把握したい。
把握したうえで、この先の立ち回りを決める。
すべてを出し切るか、温存するかを。
もしも『シャルガ』が総攻撃を仕掛けてきたなら、ここで力を使い果たすわけにはいかないものね。
「……まぁいいでしょう。あれは『ヒルコ』さまの放つ闇。シャルガの長にのみ、お力を借りることが許される偉大なる聖霊さま、それが『ヒルコ』さまです」
「知っているわ。やっぱりヒルコだったのね」
霊山にジェイソフが直接攻めてきた。
つまり、ここは『温存』。
聖霊の殲滅はあきらめて、親玉だけを叩くことにしましょうか。
「ヒルコさまをご存じとは……。ブランカインドの情報網をほめたたえるべきでしょうか」
「私の知識をほめたたえなさい」
私たちが『ケイニッヒ』と交戦して、そのときにヒルコを見たことは知らないようね。
『ジェイソフ』の正体につながりかねないから黙っているのかしら。
まぁいいわ。
「答えてくれてありがとう。えっと?」
「カムイ。覚えてくださらずとも結構です」
「なら忘れるわ」
赤い棺から『シムル』を取り出し、斬り捨てて双剣にまとわせる。
なにかほざく前に手早く、ね。
とたんに風の流れが手に取るようにわかったわ。
フロアの両端、上と下に空気が流れている。
そこにのぼりとくだりの階段があるようね。
最短ルートを割り出して、一気に駆け抜けるとしましょうか。
問題はどっちに行くか、だけれど……。
「おや? どこかに行かれるおつもりで?」
「人を探しに行きたいの。止めてもムダよ」
「人探し。なるほど。ですがその必要はありません」
パチンっ。
カムイが指を鳴らすと同時、ヤツの足元になんとユウナが現れたの。
「ユウナっ!?」
横たわって、意識を失っているようね。
生きてはいるよう……だけれど。
「ほうら。探す手間がはぶけたでしょう?」
ヤツはユウナを抱き起こして、ほほをさすりながらニヤリと下卑た笑みを浮かべる。
明らかに挑発。
けれどね、さすがに冷静ではいられないわ……!
「ユウナから……離れなさいッ!」
逃げの手は頭から吹き飛んだ。
ヤツを仕留めるため、風の刃をふるって飛ばす。
「あつかいやすい人だ……」
ところがなんと、ヤツとユウナがその場から、まるで溶けるように消えたの。
現れたのはその真反対。
ワープの魔法でも使ったのかしら。
それとも……。
「第一、私にかまっている余裕があなたにあるのですかねぇ」
……あまりない、というのが正直なところね。
待っていましたとばかりに、次々と聖霊が襲いかかってくる。
爪をかわし、牙をよけ、よくわからない粘液をはじき飛ばして。
カムイに対して攻撃をするスキが、完全になくなってしまったわ。
逃げるタイミングも完全に失ってしまった。
けれどね、ここで折れてたまるものですか。
「ユウナ……! 必ず私が助けるから……!」
「気丈ですねぇ。冷静さこそ失っているようですが、ちっとも心が揺らいでいない」
赤い棺を取り出した……?
追加で強力な聖霊を呼び出すつもりなのかしら。
「ならば、こうすればいかがでしょう」
呼び出したのはカエルのような聖霊。
私をかこんでいる聖霊たちと、力にそれほど差はなさそうだけれど……。
「やりなさい」
『おっひょ』
カエルの聖霊が口をあけて、舌をのばし――。
ドシュッ……!
――鋭くとがった先端が、ユウナの心臓をつらぬいた。
「ユウナッ!!!」
「あははははっ! どうです? 心はポッキリ折れましたか?」
ズボッ……。
舌が引き抜かれ、動かなくなったユウナの体をヤツはゴミのように投げ捨てる。
その瞬間、目の前が怒りで赤くそまった。
「――殺す。殺す殺す殺す殺す殺すッ」
聖霊から攻撃を受けても関係ない。
この体がどうなろうが関係ない。
たとえ霊体になったとしても、取り憑いて呪い殺してやる。
「よくも……、よくもユウナをッ!」
「いいですねぇ。心こそ折れませんでしたが、完全に冷静さを失っている」
ヤツにむかって一直線に駆け出すも、聖霊が進路をブロックしてくる。
数が多すぎて進めない。
斬っても斬っても再生して……!
「そこをどきなさい……ッ! 邪魔をされたらユウナの、ユウナの仇が討てないじゃない!!」
「いい表情だ。ではそろそろ、締めと参りましょうか」
パチンっ。
またもヤツが指を鳴らした。
直後、私の真上からするどい三本の爪を持ったイタチのような聖霊が降ってくる。
するどい切っ先を私の脳天にむけて、真っ逆さまに。
(ダメ、不意をつかれた……!)
目の前の聖霊たちへの攻撃に必死になってた私には、これをかわす術がない。
ごめんなさいユウナ、あなたの仇、討てなかっ――。
「だーれの仇を討つって? おねーちゃんっ」
ズバァッ!!
縦回転しながらの双剣の斬撃が、イタチの聖霊を真っ二つに斬り捨てる。
すたっ、と着地して双剣をかまえる、不敵に笑う青髪の少女。
あなたは、さっき殺されたはずじゃ……。
「そんなニセモノを私と勘違いするだなんて。妹として傷つくよ?」
「ユウナ……! 生きていたのね……!」
「こんな相手にやられるわけないじゃん。サイキョーのユウナ様が、さ」