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14 幽霊の出る砂浜



 青い海、広い砂浜、白い雲。

 本や話で聞いてただけの、生まれてはじめての光景が目の前に広がっています。


 そして私たちは水着!

 肌に照りつける太陽が、なかなかにジリジリです。


「これが、海水浴……っ!」


「素晴らしいですっ。500年の時を経て生まれた、新たな文化なのですねっ」


 感動に打ち震える私とテルマちゃん。

 ちなみに私は上下白のビキニ、そしてテルマちゃんは青い水玉ワンピースタイプ……なんだけど。


「水着着れるんだね、テルマちゃん」


「本物じゃないですよ?」


「そうなのっ!?」


 私の前でくるりと回って見せながら、衝撃的な事実が判明。

 そういえばテルマちゃんの分、たしかに買った覚えがないね。


「幽霊の身に着けているものって、衣服や小物もですが、基本的に生前のもっとも馴染みがある格好を再現してるんですよ。ですから変えようと思えば、自由に変えられます」


「そういうものなんだ」


「そうなんです。脱ごうと思えば……脱げますよ?」


 なるほどっ、またひとつ幽霊にくわしくなりました。

 ところでテルマちゃん、どうして私の胸にチラチラ視線をむけているんだろう。

 母性に飢えているのかな……?


「さーて、思いっきり遊ぶ――前に。ティア、いくつか質問があるんだよねぇ」


「なにかしら」


 砂浜にでっかくした棺桶を置いて、その上に優雅に座るティア。

 黒い水着がとっても似合ってて、みとれてしまいそうになります。

 スタイル良くってキレイだなぁ……じゃなくて。


「ひとつめ、どうして十字架を持ってきてるの?」


「必要だからよ」


「なるほど。じゃあふたつめ。この砂浜、どうして人が誰もいないのかな」


「原因不明の海難事故で死者が続出して、遊泳禁止のお触れが出たからね」


「うん、じゃあ最後のみっつめ。……目的地、この砂浜だったの?」


「答えはノー、ね」


 ノーなんだ。

 つまり坑道のときみたいに、ついでで除霊しに来た、と。


「せっかくだから説明しておくわ。今回の目的地は『グレイコスタ海蝕洞かいしょくどう』。海辺の磯に面した【小迷宮】ね。ここでは月夜の晩に『騎士の亡霊』がさまよい歩くウワサがあるわ」


「月夜の晩……。そっか、今はまだ太陽サンサンだもんね。行っても出てきてくれないか」


「そういうこと。時間つぶしがてら、ここの除霊をと。そんな腹積もりよ」


 なるほどなるほど。

 だけどここの除霊をしたところで、ついでに『マナソウル結晶』を採って旅の資金に、なんてできない。

 ダンジョンじゃないし。


 仇の葬霊士に出くわす可能性だって低いよね。

 なのに除霊をするってことは……。


「人助けだ……」


「……?」


「これって人助けだねっ! ここの除霊をしてやれば、またみんなここで泳げるようになるわけだしっ」


「お姉さまが、燃えてますっ……!」


 そうだよ燃えてるよ!

 やる気がメラメラ燃えてきたぁ!


「よーし、まってろ悪霊すぐに見つけてやるっ!」


 さっそく新技をためすとき。

 眼を閉じて、瞳に魔力を集中させて……開眼!


綺羅星の瞳トゥインクルスター・アイズ!!」


 キラキラ光る星の瞳で、どこに隠れていても見つけちゃうんだから!

 見つけ……、見つ……。


「あ、あれ……?」


 海を見回してみたけれど、どこにも霊の姿がない。

 かわりに海の中、見たことない魚とか生き物とかが元気に泳いでいる様子がとってもよく見えます。

 悪霊特有の『ぞわっ』て気配もさっぱり感じないし、これ本当に霊いるの?


「たとえあなたでも、今回ばかりは見えないでしょうね」


「なにゆえ」


「海と陸、それは『あちら』と『こちら』の境界でもあるわ。陸にいる限り、『あちら』は別の世界なの。概念的な問題だから、ピンとこないかもしれないけれど」


「わかんない、わかりやすく」


「海に入りなさい。おそらくすぐに出てくるわ」


「わかりやすい……っ!」


 泣けるほどわかりやすい説明。

 早くも私、涙目です。


「わ、私、もしかして釣り餌なんですかぁ……?」


「その身ひとつで悪霊まみれの海に突撃してこいだなんて、さすがに言えないわよ……」


 あ、よかった。

 そんなひどい指示出すわけないもんね。


 ティアはすっ、と立ち上がって棺を縮小し、胸元にはさみ込む。

 すごい、アレ私だったら……簡単にできそう。

 そしていつものように、砂浜に突き立ててある十字架から二本の剣を引き抜いた。


「私が行くわ」


 凛として素敵なたたずまい。

 白銀の双刃が陽光を反射してきらめいて、黒い長髪が潮風になびく。

 ほんと、素敵なヒトだよねぇ。


 海に足を踏み入れて、一歩、二歩と進んでいく。

 さぁ、悪霊が出るぞ……。

 今に悪霊が……。


「……出ないね」


「……出ませんね」


 ひざくらいまで海につかって、それでもなんにも起こらない。

 そのまま数分。


「……………………」


 あぁっ、ティアが助けを求める子犬のような目で私のことを見てるよぉ……。


「い、いたたまれない……。よ、よーし。私たちもいくよ、テルマちゃん」


「了解です、お姉さまっ」


 見かねて私も海に突撃。

 釣り餌が二人いるのなら、隠れ上手な悪霊たちもさすがに顔を出すでしょ。


 パチャパチャと、ほんのり冷たい水の感触。

 波にさらわれて動く砂が足の裏をくすぐって、とっても変な感じです。


「ティア、私も手伝う――」


「お姉さま、危ない!」


「えっ」


 テルマちゃんの声と同時に、足が止まる。

 私が止めたんじゃない、勝手に止まったんだ。

 ティアと同じひざくらいの水深まできたときに、何かにつかまれたみたいに。

 おそるおそる、視線を落として見てみると……。


『えぎゃあっ、えぎゃっ』


『ままぁ……』


『きゃっきゃぁ』


 たくさんの赤ん坊が、私の足に抱きついていた。

 海の中で、ざっと十人くらい。

 その全員が同時に、私の顔を少しの遅れもズレも無くいっせいに見上げる。


「っきゅ……!」


 引きつったような悲鳴がのどから漏れる。

 次に白い大量の手が、私の体中にまとわりついてきて、そのまますごい力で海中へ引きずり込もうとしてきた。


「い、いや……、離して、離し――」


「離しなさい」


「それ以上、お姉さまに触れないで」


 そのとき、体に広がる暖かい感覚。

 私のまわりを神護の衣がおおって悪霊たちをはじき飛ばすのと、ティアの剣舞が悪霊たちを斬り刻むのはほとんど同時のことだった。



「……これで、全員を葬送したわね」


 砂浜に立てられた十字架を中心に展開した魔法陣から、天までのぼる光の道。

 すべての霊を葬送おくり終えて、私たちは一息つきます。


「赤ちゃんの霊、ばかりでしたね」


「うん。それになんだか触られたとき、さみしさ……みたいなものが伝わってきた」


「――おそらく、水子の霊でしょう」


「水子って、生まれてくる前に死んじゃった……?」


「両親にすら出会えなかった寂しさを、水子同士で集まって紛らわせていたのかもね。それでもさみしくて、『母親』を求めて女性を海に引きずり込んでいた……」


「私のこと、お母さんだと思ったのかな……」


 なんだか、悲しいです。

 生まれてくる前に死んじゃって、あんな風に『歪』んじゃって……。


「あの世で、来世で救われるよう祈りましょう。葬送おくったあとに出来ることなんて、その程度よ」


「そうだね。せめて安らかに……」


 十字を切って、手を重ねて祈ります。

 ほんの少しでも救いがありますように……。



「――さて、まだ日没まで時間があるわね」


「おぉっ、ということはっ」


「たっぷり遊べる、ってことですねっ」


 しかも貸し切り、霊が出てくる心配だってナシ!

 思う存分楽しむしかないよねっ!


「よーし。たっくさん泳ぐぞーっ」


 全力ダッシュで駆けだす私。

 ティアは来ずに、テルマちゃんだけがついてきてくれたんだけど……。


「……なるほど道理で赤ちゃんたちが。お姉さまの母性の主張、すさまじいですね」


「えっ……?」


 胸元ガン見……?

 っていうか、そんなに揺れてました……?



 ★☆★



 月が輝く夜の海。

 波打ち寄せる荒磯にぽっかりと口を開けた洞窟が、今回の目的のダンジョン。

 『グレイコスタ海蝕洞かいしょくどう』。

 街からは明かりが見える程度の距離ですが、なかなか雰囲気出ています。


「どうかしら、トリス。悪霊の気配、感じる?」


「……うん。けど、禍々しいだけじゃなくて、神聖さも混ざってるような。今までにない感じかな」


 『歪みきった』今までの悪霊とは、なにかちがう。

 表現しにくいんだけど、テルマちゃんみたいなものも感じるんだ。


「――そう。ではなおさら、気を引きしめていきましょうか」


「うんっ」


「今回もお守りしますよ、お姉さまっ」


 頼もしい二人の頼もしさに勇気づけられて、いざダンジョンの中へ。

 一歩を踏み出した、そのとき。


「た、助けてくださいっ!」


 ダンジョンの中から、女のヒトが血相を変えて飛び出してきました。

 上品な顔立ちをしてますが、格好は冒険者によくあるレザーアーマー。

 特に不自然な点は見当たりません。


「ど、どうしたんですか!?」


「騎士が、騎士の亡霊が……っ。ずっと……っ、ずっと、追いかけてくるんですっ!」





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