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133 まだまだ未知数の力



 私が見てきたすべてをルナに、それからみんなにも話します。

 ショッキングな内容だったでしょうに、ルナはずっと瞳を閉じたまま、黙って耳をかたむけてくれていました。


「……えっと。ショック、だよね。やっぱり」


 さすがのルナも落ち込んだり、なにか思うところがあったりするんじゃないでしょうか。

 そう思って、おそるおそる聞いてみます。


「べつに。そうでもない」


 ところがです、涼しい顔でこの返事。

 表情を見るかぎりでも、強がってたりしてないみたい。

 むしろティアたちの方がショックが大きいくらいです。


「これまで生きてきて、親や家族のことなんて一度も考えなかった。考える余裕もなかった。顔も知らないどこかのだれかが今さら親だと知らされたところで、べつになんとも思わない」


「そ、そっか……」


 ケイニッヒさんと直接顔を合わせていないから、っていうのもあるのかな。

 私たちはみんな、あのヒトを知ってるから。


 ……あれ?

 タントお姉ちゃんとユウナさんってあのヒトと会ったっけ。

 まぁいいや。


「自分がシャルガの末裔だった、なんて事実も幽霊となった今ではあまりピンとこないわね。むしろコレって、あなたの方の問題じゃない?」


「そ、そうなんだよねぇ……」


 ルナがシャルガの末裔。

 それってつまり、私の魂が宿ったこの体にシャルガの血が流れてるってこと。


 シャルガ族を滅びに追いやる呪いの子。

 まさにそれ、今の私のことなんです。

 当事者、私の方なんです。


「かといって、奴らがトリスを積極的に狙ってくるってわけでもないわ。肝心の『呪いの子が持つ異能』がなんなのか、むこうもくわしく知らないのでしょう?」


「ティアナさんの言う通りですっ。ドロドロさんだってお姉さまの力が珍しいから捕まえようとしていただけでしたし」


「アドバンテージはこちらにあるわけですね。トリス、この情報をうまく使えばケイニッヒを捕らえられるかもしれません」


「たしかに……!」


 いっつも飄々(ひょうひょう)として、不利と見れば即逃げしちゃうケイニッヒさん。

 ですが私のこの体が、娘のルナのものだと知れば、もしかしたら……。


「冷静さを失っちゃったり、逃げを打つのをやめちゃったりするかも」


「ほのめかすだけでも効果的でしょうね」


「もともとボクらが奴らの本拠に行った目的は、シャルガのトップを倒すことでしたからね。あとはヤツを見つけて倒すだけ」


 見つけるのもまた、大変そうですけどね。

 ……それと、私があのヒトに同情しちゃわないか。

 ちょっとだけ不安です。


「見つけてるヒマあるの? あなたたち、というかブランカインド、聞けば大変そうじゃない」


「葬霊士狩り、ですね……」


「今現在、ブランカインドの葬霊士たちは、二人一組以上で行動するように指令が出ているの。そう簡単にやられないでしょうが、それでも早くトップを倒して終わらせたいものね」


 ケイニッヒさんを捕まえて、もうやめてって頼めばやめてくれるのでしょうか。

 死なせることに……ならないといいな。


 さて、方針が固まったところで、次の課題はどうやってケイニッヒさんを見つけるか、ですね……。


「あのヒト、どこにいるんだろうね……」


「安全のため、斥候たちはみんな本山に戻っていますので、ブランカインドの情報網は頼れませんが――」


「聖霊のいる場所をかたっぱしから当たってみるとか、どうかしら」


「いやいやおねーちゃん、ケイニッヒを探すために聖霊を探すの? じゃあ聖霊を探すにはどーするのさ……」


 ユウナさん、思わず出てきてツッコミ入れましたね。

 ところで私、ピンときました。


「あのねっ、みんな。前に私、デュラハンの居場所を遠隔視できてたでしょ?」


「できてたわね」


「すごかったですよお姉さまっ」


「ありがと。……私ね、あのチカラ、ずっと霊視の延長線上にあるものだって思ってた。霊だからわかったんだ、って。でも、勝手に限界を決めてたのかも」


 今回、流星の瞳シューティングスター・アイズのかわりに『太陽の瞳』を使ってみて、よーくわかりました。

 私、この力のことをぜんぜん知らない。

 まだちっとも使いこなせていないんです。


「記憶の中で自由に動けたり、本人の記憶にないことまで見られたり。想像もしなかったことばかりできたんだ。だからね、遠隔視でケイニッヒさんを見つける……なんてことだって、できるかもしれない」


 もしも出来たら、それこそ千里眼。

 この世に視れないものなんて、もうなんにもなくなっちゃうかも。

 さすがにムチャクチャ言ってるかなぁ……。


「えと、どうだろう……」


「いいじゃないの。やってみなさいよ」


 なんと、真っ先に賛成してくれたのはルナでした。

 テルマちゃんが来るかと思ってた。


「ですがルナ、そこまでのことをすればトリスに負担がかかるかもしれません」


「あら。姉の分際で妹を信じてやれないのかしら」


「そういうわけでは……」


 タントお姉ちゃん、私の体を心配してくれるんだ。

 けっして信じてないわけじゃないって、わかってるからね。


「私はね、生まれ持った『月の瞳』を誇りに思っていたの。なにも持っていない自分が天からさずかった、誰にも負けないたったひとつだけのモノ。それをあなたは越えていったの」


「ルナ……」


「だからね。それくらいやってくれなきゃ困るのよ。でないと負けた私がみじめになるじゃない」


「信じてくれるんだね」


「な、なにを聞いていたの……!」


 ふふ、照れてる照れてる。


「タントお姉ちゃん、私は平気だよ。使ってる間は霊体だからかな、疲れちゃったりなんてことも全然ないんだ」


「そう、なんですね」


「うん、だから平気。ちょちょいとやってくるねっ」


 お姉ちゃんの手をぎゅっとにぎってあげます。

 これでちょっとは安心できるかな。


 ちなみにティアとテルマちゃん、私が可能かどうかについてはちっとも心配していません。

 体調についても、いまので安心してくれたみたい。


「……それじゃあ、いきます! ティア、テルマちゃん。体をお願いね」


「お任せください! ぜひテルマのひざまくらで!」


「私のひざまくらの方がいいのではないかしら」


 ふ、二人で私をひざまくらする権利を争ってる……?

 ですが私、ふたりのどちらも大好きです。

 なので……。


「ふたりいっしょにお願いしようかなっ」


「ふたり……」


「いっしょに、ですか……!?」


 というわけで、となりあって正座した二人のふとももに頭をのせて横たわります。

 うん、いい気持ち。


「……タント・リージアン。あれはなに?」


「日常風景です」


 では『太陽の瞳』を発動、体から抜け出します。

 霊体の状態でそっと瞳を閉じ、思い浮かべるのはもちろん、ケイニッヒさん――テイワズさんの姿。

 あのヒトが今どこにいるのか、強く強く心に念じて『願い』ます。


(お願い……! お願い、見せて! あのヒトの居場所を、私に見せて……っ!)


「……えいっ!」


 気合いとともに、開眼!

 するとデュラハンのときと同じく、目の前に私だけにしか見えない映像が浮かび上がりました。


 これは……見覚えがあります。

 とってもとっても思い出深い、あの場所です。

 しかもここからとっても近いです。


「――大迷宮【ハンネスタ大神殿】の最下層。そこにケイニッヒさんがいる」


「……! 見えたのですね……!」


「さすがですお姉さまっ!」


「当然よ、トリスだもの」


 みんなにほめられながら、体の中にもどります。

 予感のとおり、これが太陽の瞳の本当の力。

 ……ううん、もっともっとすごいことができる予感がします。


 達成感でいっぱいになりながら、勢いよく立ち上がって、


「よーし! さっそく大神殿に――」


 くらっ。


「あ、あれ――?」


 ほんのちょっぴり、立ちくらみがしました。


「お姉さまっ! だ、だいじょうぶですか!?」


「う、うん。もう全然平気。いきなり立ち上がったからかなっ」


 よくあることです、気にしないでいきましょう。

 そんなことよりハンネスタ大神殿ですっ。


「なんであそこにいるのか、わかんないけどたしかに見えたんだ。あのヒトひとりだけだった」


「好都合ね。決着をつけにいきましょう」


「あのヒトをやっつけて、シャルガの人たちに悪さをやめさせて、それで一件落着ですねっ」


「…………」


「……タントお姉ちゃん?」


「あぁ、いえ。なんでもありません」


 どうしたんだろ。

 さっきので心配かけちゃったのかな。

 ただの立ちくらみなのに。


「ルナ、協力してくれてありがとね」


「いいわよ、お礼なんて。それより私の協力を台無しにしないこと。ほら、さっさと行きなさい」


「うんっ。ホントにありがと。全部片付いたらまた、遊びにくるからねっ」


「いいって言ってるのに……」


 またまた照れてる。

 わりとかわいいトコあるんですよね、ルナって。


 さぁ、切り札となる情報も居場所もぜんぶ丸裸。

 決戦をいどみに【ハンネスタ大神殿】に突撃です!



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― 新着の感想 ―
[一言] トリスちゃんはほんとに大丈夫なのかな? 作者様の納得のいくクライマックスをじっくり練ってください。 楽しみにしてます!
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