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132 テイワズからケイニッヒへ



 次に場面を進めると、地下牢に飛びました。

 テイワズさんが閉じ込められてる地下牢です。

 コツ、コツとひびく足音に、テイワズさんが顔を上げます。


「……親父か。どうした? 娘を聖霊様にささげ終わったか?」


「ケイニッヒが死んだ。ミーマともども」


「っ!? 兄さんが……!? どうして――」


「呪いの子だ。どんな異能かわからぬが、ともかく『異能』が発現した。そしてふたりは命を落とした」


「な……っ。そ、それで、娘は……」


「死んだ。サクヤが連れて逃げたのだが、追っ手に討たれてともども、な」


「っ!!」


 ウソです。

 おじいさん、ウソを言っています。


 サクヤさんはルナを連れて逃げきりました。

 捕まってなんかいませんし、殺されてもいません。

 けれどテイワズさんには、ウソだと見抜ける力も気力もありません。


 ただ愕然とした顔で、うずくまりながら絶望するしかできない。

 このヒトの胸の痛みが、悲しみが、私にまで伝わってきそうです。


「この事実、まだ一族の誰にも知られておらん。ケイニッヒが死んだことを、誰も知らぬ」


「親父、なにが言いたい……」


「テイワズ。お前が『ケイニッヒ』となれ」


「……? 意味が……、わからん……」


 私にはなんとなくわかりました。

 ケイニッヒさんになる、って、じゃあもしかして。

 私の知ってる『ケイニッヒさん』って……。


「ケイニッヒが死に、ワシも老い先短い。あと数年の命だろう。しかしお前は異能を持たぬ。お前が新たに子をもうけ、万が一その子に『異能』があったとしても、それはやはり『呪いの子』。予言の通り、一族に不幸をもたらすだろう。今回のように、な」


「だから僕が兄さんのフリして、頭領を演じろ、と? なにをアホな……。第一、僕と兄さん双子でもなんでもない。顔だってぜんっぜん似とらんのに……」


「我が異能、『傀儡魂魄くぐつこんぱく』ならば可能だ」


 おじいさんが肉のカタマリと、白い人魂を取り出しました。

 肉塊にその魂が封じこめられると、なんとケイニッヒさんの顔が浮かび上がったじゃありませんか。


『あぁぁぁぁっ、うぅぅぅああぁぁぁあぁ!!』


 赤黒い肉塊から顔を浮き上がらせて、狂気の叫びを上げ続けるケイニッヒさん。

 あまりのおぞましさに私、目をそむけちゃいました……。


「肉塊に魂を封じ、同化させて操るこの力。応用すればケイニッヒの『異能』を再現し、ヤツに成り代われよう。この魂の自我は消さねばならぬだろうが、な」


 肉の塊に自分の息子を封印して、そのうえ自我まで消す……?

 このヒト、平然となにを言って……。


「……確かにそれで今の代ならだませるだろうが、次代の頭領どうするん?」


「お前の代で一族の悲願を果たせ。『かの者たち』とたもとわかって500余年、受け継がれてきた悲願を、なんとしてでも、いかなる犠牲を払ってでも。お前の代で『聖霊神』さまを復活させるのだ」


「メチャクチャ言っとる。おかしいて……」


「聖霊神さまさえ復活なされれば、シャルガの存続する意味もなくなる。後継がいなくとも問題ない。なにもおかしくないではないか」


 いいえメチャクチャです。

 あのおじいさん、狂ってます。

 月の瞳を見ていないのに、狂気に支配されちゃってる……。


「変化の異能の再現には、かなりの時間がかかるだろう。調整も必要だ。一族の者からひとり、生け贄を見繕みつくろって実験させてもらうか……。テイワズ、お前はしばらくここで自分を見つめ直すがいい。じきに自分ではなくなるのだから、な……」


 おじいさん、立ち去っていきました。

 きっとこのあと、名無しさんを名無しさんにして変身能力を他人に与える研究をはじめるのでしょう。

 そして、残されたテイワズさんは……。


「は、はは……っ。そっか、僕、すべてを失ったんか……。自分すらも、これから、失うんか……」


「テイワズさん……」


 うずくまるテイワズさん――ケイニッヒさんの肩にそっと触れようとします。

 ですが『私』はここにいません。

 ただ過去の映像を見てるだけ。

 スッ、とすり抜けてしまいました。


「兄さんの娘たち……。父親として接してやれるんかなぁ……。……無理かなぁ。……どうしても無理だったら、姪っ子ってことにしてもらうかぁ。そのくらいのワガママだったら、通してくれるかなぁ……」


 涙すら出ない、そんなカンジでした。

 ただただ力無く、薄暗い地下牢にうずくまって小さく笑いながら、つぶやき続けるテイワズさん。

 ズキズキ胸が痛んで、もう見ていられませんでした。


 これから先、このヒトはどんな人生を歩んで、私の知ってる『ケイニッヒ』さんになったのでしょう。

 いま、なにを思って使命を果たそうとしているのでしょう……。


(……これ以上ここにいてもしかたないよね。そろそろ戻る――前に、ルナはいったいどうなったんだろう)


 といいますか、そもそもココってルナの記憶の中なはず。

 どうして私、ルナがいない場所の記憶まで見れているのでしょう。


 ケイニッヒさんが、ルナのお父さんだから?

 肉親のつながり的な……。


 と、ともかく、ココで考えてても仕方ありません。

 どうしてルナのお母さんまでいなくなってしまったのか、そこまで見ておきましょう。

 ルナとお母さんの様子を見たい、と念じて……ジャンプ!



 ……っと。

 パッと景色が変わりました。

 ここは……王都のスラム街、でしょうか?

 とっても小さなボロボロのおうちの中です。


「ルナ。お母さん、今日も行ってくるわね」


「……」


 ルナ、2歳くらいでしょうか。

 みずぼらしい格好です、髪もボサボサです。

 それと、無口で不愛想ですね。


 お母さん、サクヤさんっていいましたっけ。

 おうちを出てどこかへむかいます。

 どんなお仕事しているのでしょう。

 おや、道行く男のヒトに声をかけまして……。


「そこのヒト、お花を買いませんか……?」


 花売りさんをしているみたいですね。

 ……でも、お花なんて持っていませんよ?

 どこかに置いてあるのでしょうか。


「触んな! 薄汚ねぇっ!」


 バシッ!


「あうっ!」


 む、ヒドいです!

 力まかせに払いのけるだなんて!


 倒れたサクヤさんを置いて去っていく男のヒト。

 道行くヒトたちも、誰も見向きもしません。

 ですがサクヤさん、よろめきつつ立ち上がって、またフラフラと歩き出しました。


「……あんな生活してたら、もしかして身体を壊しちゃうんじゃ」


 その予感、当たっていたみたいです。

 お母さんとルナの死に別れる場面、を念じてジャンプすると……。



「ごほ、ごほっ……! あぁ、ルナ……、ごめん、ごめんね……」


 もうサクヤさん、死相が出ていました。

 なにかの病気なのでしょう。

 横になったまま、げっそりとやせ細っています。


「ルナ……。あなたを置いていって、しまう……。本当に……、本当に、ごめん、なさい……――っ」


「……」


 サクヤさん、それっきり動かなくなりました。

 2歳のルナ、お母さんが死んでしまったと理解できているのでしょうか。

 なんにも言わずに、表情も動きません。


 しばらくそうしていると、ルナのお腹がぐぅ~っ、と鳴りました。

 お母さんが動かないのを見て、ルナは無言で立ち上がり、おうちを出ていきます。

 きっともう、二度とここには戻らなかったのでしょう。


 これが、ルナが孤児になった経緯。

 こんなことがあって、それでも必死に生きてきて、最期はドライクに……。


 やりきれなさをいだきながら、瞳を閉じて強く願います。

 現実世界に戻りたい、と強く、強く……。



 ★☆★



「――あ」


 目の前には半透明のルナ。

 もといたツクヨミ本部、ルナの部屋です。

 現実にもどってこられました。


「……戻ったわね。正直、ずーっと見つめられてて居心地悪かった」


 ルナの声を聞いたとたん、これまで見てきたことを思い起こしてしまいます。


「……っふ、ぐすっ」


「ちょ……! なにいきなり泣いてるの……!?」


「お姉さま、どこか痛いのですか!?」


「痛くないでしょう、幽体だもの。どこか苦しいのかしら?」


「長く体を開けすぎたのかもしれませんね……」


 みんないっせいに心配してくれてる。

 なんだか申し訳なくなってしまいました。


「え、えっとね、ちが、ちがくて……」


「ひとまず体にもどりなさい。落ち着いて、それから話を聞かせてくれる?」


「う、うん……」


 ティアの提案にしたがって、もとの体――といいますか、ルナの体といいますか、数奇な運命をたどってきた体に入ります。


「……えっと。どこから話そっかな」


 かなりショックの大きいかもしれない内容です。

 1から10まで話したものでしょうか。


「悩んでいるようだから、ズバリ言ってあげる。1から10まで話しなさい」


「えっ……。ルナ、ホントにそれでいいの?」


「私のことは、私が誰より知る権利がある。あなただけ知っているとかムカつくの。いいから話しなさい」


「わ、わかった……。まずはね――」



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