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131 ルナのお父さん



 ルナのお父さんと思われる、この男のヒト。

 テルマちゃんの着物と少し似た、シャルガの着物を着ているあたり、間違いなくシャルガのヒトですね。


 ルナがシャルガ族の出身だったっていう私のカン、当たっていたみたいです。

 ただ、このヒトは誰なのか……。


(ルナの体から抜け出せたり、自由に時間を切り替えられたりできないのかなぁ……)


 そうしたら便利なのですが。

 ……とか思っていたら。


(あ、あれっ?)


 ふわりと、意識がルナから離れました。

 私、いま浮いてます。

 しかも自分の意思で自由に動けます。


「お、おぉ……。さすが『太陽の瞳』……」


 星の瞳よりずっと高性能みたいです。

 これならもしかして、知りたいことをぜんぶ知ることができるかも。


 自由に場面を飛ばすことだって可能かもしれません。

 さっそくやってみます!


「えっと、えっと……。ルナのお父さんが誰なのか知りたいっ!」


 口に出して念じたとたん、あたりの景色がパッと変わりました。



 ここは……ニセファイカさんといっしょに忍び込んだお屋敷みたいですね。

 廊下の景色がそっくり同じです。


 ……と、誰かが歩いてきましたよ。

 あれは……ケイニッヒさん?

 ちょっと若いですが、変装解いたときの顔と、そっくり同じです。


 うん、おそらくケイニッヒさんで間違いないでしょう。

 お部屋の前で立ち止まって、コンコンとノックをします。


「テイムズ、いるか?」


「おー。おるで、兄さん。入ってー」


「では失礼する」


 中から聞こえたルナのパパさんの声。

 会話の内容からして、パパさん――テイムズさんのお兄さんがケイニッヒさん?

 ですが口調が、あんまりケイニッヒさんじゃないですね。


 うーん……?

 なんだかおかしなカンジですが、首をひねってても仕方ありません。

 ケイニッヒさんのうしろについて入室です。


 テーブルにすわって、むかい合って。

 兄弟、なのでしょうが、なんだかピリピリした雰囲気です。


「どしたー、兄さん。出産祝いならもうもらったっしょ。追加でくれるってんなら喜んで――」


「お前の娘、『異能』が発現する兆しがあるそうだな」


「……。……そうなんよ。一族の誇りっしょ?」


「俺にも双子の娘が産まれたばかりだが、『異能』発現の兆しがない」


「――それで?」


「わかるだろう。次期頭領が俺に決まっていることを。そして、長となる運命さだめの者には聖霊に愛された証――『異能』が宿っていることを」


「もちろん。だから異能を持たない僕が選ばれず、異能を持った兄さんが頭領に――」


「異能を持たぬ親から、異能を持つ子が産まれたことなど、シャルガの歴史のなかで一度たりとてなかったのだ!」


 おだやかな口調から一転、声を荒げるケイニッヒさん。

 バン、と机が叩かれますが、テイワズさんはピクリとも表情を動かしません。

 私なんてビクッとしちゃったのに。


「シャルガに伝わる伝承、お前も知っているだろう。ことわりから外れた異能の子が一族に災いを成す、と。あの子は呪われた子だ。ただちににえとする」


「贄――って。ちょい待ち、兄さん。あの子な、産まれたばっかなんよ?」


「だからこそ、だ。ことわりの外にある力、成長してしまって発現すれば、とてつもなく危険なものとなるに違いない」


「ならないかもしれんだろ? それこそほら、ちまたで話題のお菓子、なんだったっけな……。そうそう、カスティーラを無限に出す力とか――」


「決定事項だ」


「……。……んでよ」


「父さん――頭領もすでに了承済み。儀式は明日の夜、執り行われる。俺はただ、この決定をお前に伝えにきただけだ」


「なんで……ッ! 兄さんも人の親だろ!」


「一族のためだ、割り切ってくれ……ッ」


 ケイニッヒさんのにぎりしめた拳から、血がしたたります。

 あのヒトだって、きっとホントはこんなこと言いたくない、伝えたくないのでしょう。


「納得できん……。できるわけがないッ!!」


「……そうか。わかった、もういい」


 そう言って、ケイニッヒさんは部屋を立ち去っていきます。

 残されたテイワズさん、頭をかかえてうずくまってしまいました。


「クソっ……、どうしたらいいん……!」


 これからこのヒト、どう動いたのでしょう。

 少なくとも、私はルナがここで殺されないと知っています。

 11まで生きたことを知っています。


(助けられた、ってことだよね……)


 また時間を飛ばしてみましょうか。

 そう思った矢先、またドアがノックされます。


「テイワズさん、いる?」


「――あぁ、サクヤか。おるよ」


 女のヒトの声。

 入ってきたのは赤い髪の女性でした。


 なんとなく私――というかルナに雰囲気とかが似ています。

 このヒトがルナのお母さんで間違いないでしょう。


「あの話、聞いたかしら」


「聞いたよ。なんとしてでも止めなきゃな」


「えぇ……。私たちの大事な娘だものね。――顔色悪いわ、お水飲む?」


「頼む……」


 ほんと、顔色悪いですね。

 サクヤさん、部屋から小走りで出ていって、すぐにお水の入ったコップを持ってきました。


「どうぞ……。これを飲んで落ち着いてね」


「ありがとうな」


 冷えたお水をぐびぐび飲み干すテイワズさんでしたが、


「――っぐ!」


 カランっ。


 とつぜんコップを取り落として、その場に倒れ込んでしまいます。

 どういうこと!?

 いったいなにが――。


「お、おま……っ、サクヤ、じゃ……、ない……な……ッ!」


「――そうだ、テイワズ」


 サクヤさんが『仮面』を取ります。

 すると顔も体型も、服装すらもケイニッヒさんに。


「邪魔をされると厄介なのでな。贄の儀式が終わるまで、大人しくしていてもらう」


「クソ……っ! そんなに……っ、一族が、大事なん、か……ッ」


「あぁ、大切だ。自分の家族とお前の家族を天秤てんびんにかけた結果さ。すまない……」


「あ、あやまるくらいなら……、だまってやれや……! そんなら、まだ、おもいっきり、憎めるのに……――っ」


 テイワズさん、意識を失いました。

 これ以上、ここではなにも見られなさそう。

 次の日の夜、なにが起きたのか確かめましょう。


「この次の夜、この次の夜……。……えいっ」



 ……成功です。

 どうやら満月がかがやく夜。


 目の前には三角形のおっきな――ピラミッドっていうんでしたっけ。

 段々になっていて真ん中に階段がついているソレのてっぺんに、台座があります。


 台座に寝かされているルナ。

 ケイニッヒさんが短剣をもって、かたわらにたたずんでいます。


 そのむかいに、赤い髪の女のヒト。

 サクヤさんではありません、誰でしょうか。


 ピラミッドの根本にはおひげの長いおじいさん。

 あのヒトが頭領――ケイニッヒさんとテイワズさんのお父さんでしょう。


 他にまわりには誰もいません。

 ヒミツの儀式……なのかな。


「これより、天昇の儀をはじめる。産まれたばかりの赤子の純粋な魂、聖霊様の贄として、極上のものとなるだろう」


 おじいさんの宣言で、ケイニッヒさんが短剣をかまえます。

 むかいの女のヒトの手には、バケツみたいな形の入れ物。

 なんとなく、血を受け止めて溜めるためのモノだってわかりました。


「すまないな。お前とて産後すぐだというのに、これから赤子が死ぬ場面を見せることになる」


「かまいません。聖霊様に尽くすことこそ『シャルガ』に産まれた者の本懐」


 逆手に持った短剣を、高々と振りかぶるケイニッヒさん。

 ルナの喉元に狙いを定めて……。


「……許せ」


 突き下ろした、そのときでした。

 ルナの瞳に『月』が映って、反射して――。


 ……いいえ、ちがいます。

 映ってるんじゃない、瞳が月になっている。

 狂気をもたらすルナの『月の瞳(ルナティック・アイズ)』。


「……う、うぅっ!? あ、あぁぁぁ」


 カラン……っ。


「な、なんなの、これは――う、うぅうぅ、うぁぁぁぁ」


 狂気の瞳に触れたふたりが、その場に倒れて悶えはじめます。

 私みたいに『太陽の瞳』をもっていないかぎり、その狂気から逃れることは不可能です。


「な、なにが起きたのだ……!」


 下にいるおじいさん、なにが起きたのかわかっていません。

 ただ台座の上で、ケイニッヒさん夫婦が絶叫しながら悶絶しているのを見守るだけ。


「あぁぁぁっぁぁあぁあぁ!! うああぁぁぁぁぁぁあああぁぁ!!!」


「うぅぅぅぅぅうぅ!! おああぁあああおおぉぁぁおぁあお!!!!」


 まるで獣のように悶え狂って、苦しみ抜いた末に。


「あ――が……っ」


「お、ぼぉ……」


 唾液がのどにつまっての窒息死。

 ふたりとも、ビクンと大きく痙攣して、動かなくなりました……っ!


 どういうことなの!?

 ケイニッヒさん、死んじゃいましたよ……!


「おぉ……っ、おぉぉぉ、なんたる……っ。まさに呪いの、災いの子……!」


 恐怖におののくおじいさん。

 そのわきを、赤い髪の女のヒトが走り抜けていきました。


(あれ、サクヤさんだ……。ルナのお母さん。本物の方、初めて見るけど……)


 階段を駆け上がってルナを抱き上げます。

 ルナの瞳にもう、月なんて宿っていません。


「ルナ……! よく無事で……っ。逃げましょう、いっしょに……! シャルガから離れて、遠いどこかで暮らしましょう」


「ま、待たぬか……っ」


 走り出すサクヤさんを、追おうとするおじいさん。

 ですがご老体に追いつけるはずもなく、ルナを抱えたサクヤさんは森の中へと消えていってしまいました……。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] これで異能を後付けした《ケイニッヒ》が誰なのかはわかったけど目的がわからないなあ。 この流れだとアネットのように聖霊を盲信してるとは思えないけど。 [一言] 悲劇は得てしてそういうもの…
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