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129 ルナの記憶を見せてもらおう



 シャルガのヒトたちに見つからないまま、無事に脱出成功しました。

 どんな騒ぎになっているのでしょう。

 聖霊を奪われたって情報が、中心部に出てきてる主力になんらかの手段で伝えられてしまったでしょうか。


 私たちに知るすべなどありません。

 ひとつだけ確かなことは、北へとむかう道中、とくに追っ手と出会わなかったことくらい。


 こうして数日間の旅の末、はるばるやってきました、『中央都ハンネス』です。

 ずっと自然の中にいたので、文明の香りがなつかしく感じます。


「もどってきたねぇ……」


「もどってきましたねぇ」


「しみじみしている場合じゃないわよ」


「『ツクヨミ』本部に急ぎましょう」


「そうでしたっ」


 『ツクヨミ』の聖女ルナ。

 私の体の元の持ち主で、つまり私の『異能』である『瞳』の本来の持ち主。


 シャルガのおさに代々『異能』が受け継がれているのなら、もしかしてシャルガとルナに関係があるんじゃないか。

 ちょっぴり飛躍しすぎな発想ですが、たしかめるすべならあります。

 たとえ本人が覚えていなくとも、私の力なら『見る』ことが可能なのです。



 そんなわけで『ツクヨミ』本部にやってきました。

 中央都の中心部、一等地に立つこの建物。

 あいかわらずのご立派です。


「ルナ、いるかな……」


「いると思うわ。むしろレスターの不在を心配しましょう。彼がいないと話が進まない気がするもの」


「あのヒト、忙しそうなイメージあるよねぇ」


 教団のために、人助けのために、いろんなところをいそがしく飛び回っていそうです。

 さて、『ツクヨミ』の様子はいかがでしょう。


 入り口ドアをあけて中に入ってみると、以前とあまり変わらないようです。

 熱心な信者さんたちが、礼拝堂で祈りをささげています。

 おそらく『聖女ルナ』への祈りを。


 表向き、前からずっと慈善事業をしてきた団体ですから、なにも知らない信者さんたちにとっては、なんにも変わっていないのでしょう。


「えぇっと……」


 キョロキョロあたりを見回すと、見覚えのある顔を発見です。

 たしか公園での炊き出しのときにいた職員のおじさんだ。

 すかさずささっと声をかけにいきます。


「こんにちはっ。お久しぶりです!」


「んん? おぉ、トリスさんですか。ティアナさんと、お連れの方もご一緒に。今日はいかがされました?」


「えぇっと。話せば長くなるのでとりあえず、レスターさんっていますか?」


「レスターさんですか。あいにくと王都へ出ておりまして……」


「そうですかー……」


 うわー、どうしよっかなー。

 私たちの事情を知らないヒトに、頼んで会わせてもらえるのかなぁ。


「……こほん。『聖女ルナ』に会いにきたんですっ。会えたりします?」


「ル、ルナ様、ですと!? わ、わたくし恥ずかしながら、会ったことすらありませんので……。取り次げる人員に確認を取ってまいります、少々お待ちを」


 取り次ぎができるヒト、つまり『見えるヒト』ってことか。

 ひとまずこの調子ならルナに会えそうかな?


「いやー、トリスってこういうとき頼りになるねー。人当たりがいいから」


「そうね。私が出ていくと、心なしかオロオロする人が多いもの」


 それはティア、格好のせいだと思うなぁ……。

 黒ずくめで背中にでっかい十字架背負ってるし。


「ティアナさん、表情が硬いのです。お姉さまみたくふにゃふにゃになれば怖がられませんよ」


「硬いかしら。この方がクールでかっこいいじゃない」


「その発言が、すでにクールでもかっこよくもありません!」


 うーん、そうかなぁ。

 ふだんのティアもかっこいいと思っちゃうのは、私がずっといっしょにいたからでしょうか。

 それともやっぱり、好きな相手だから……?

 ……なーんて。


 ティアたちの会話に耳をかたむけつつ、そんなことを考えていると、さっきのおじさんが奥から走ってきました。


「お、お待たせしましたっ。ルナ様が面会してくださるそうです。こちらにどうぞ」


「やったっ。ありがとうございますっ!」


 ぺこりと頭を下げてお礼をします。

 それからおじさんについて、礼拝堂から奥へと続く通路へと。


「いやはや、しかしあなた方。もしやどこかの要人なのでは?」


「要人、って、偉いヒト? いやいやぜんぜんちがいますっ。私なんかただの村娘で……」


「私はブランカインド流最強の葬霊士よ」


「ブランカインドの。して、葬霊士とはいったい……」


 ティア、たぶんちがう。

 ブランカインドの要人だってアピールしたいんだろうけど、ソレなんとなくちがうと思うの。


 要人ってもっと貴族とか王族とか、そういうのを指してるんだと思うの、この場合。

 そして霊の見えないヒトに、葬霊士のすごさって伝わらないの。


「き、気にしないでくださいっ。ところで、どうして急にそんな?」


「この教団自体、立ち上がって間もないですが、わたくしそれでも立ち上げ当初から付き従っています。いわば古参です。そのわたくしも、ルナ様には一度もお目通りが叶ったことがありませんので……」


 おぉー、なるほど。

 『聖女ルナ』って教団員でも会ったことないヒト多いだろうし。

 っていうかそもそも見えないヒトがほとんどだもんね、会いたくても会えません。


「私たち、ルナと面識があるのよ」


「なんと……! どこでお会いになられたのです?」


「ブランカインドね」


「あの友好をむすんだ会談のときでしょうか。そのような席に出席しておられたとは。『ソウレイシ』、ブランカインドにおいて相当に重要な役職のようですね……」


「ふふん。重要よ。とっても重要なの」


 鼻高々なティアかわいい。

 テルマちゃんとユウナさんの視線はすっごい冷めてますが。

 かわいくってほほえましくならないのかな。


 そんな感じでルナの部屋の前まで案内されました。

 そそくさと去っていくおじさんを見送りつつ、ノックをコンコン。


「入りなさい」


 私そっくり、けれど少し幼い声が返ってきました。

 間違いありません。

 ささっとドアを開けまして、みんなを入れてささっと閉めます。


「ごきげんよう、トリス・カーレット。それにティアナ・ランスター。タント・リージアン」


「ごきげんよう、ルナ」


「ひさしぶりだね。元気そうでなによりっ」


 なんて、幽霊にかける言葉としてはちょっぴりおかしいかも。


「あなたねぇ。幽霊に元気もなにもないでしょう」


 案の定ツッコミ入れられました。

 カーテンが風にたなびく窓辺に腰かけるルナ。

 あの子の表情に、昔みたいなトゲはもうありません。


「よく来たわね。とつぜんの来訪でおどろいた。大勢でいったい何の用?」


「えっとね。単刀直入に言います。記憶を見せて!」


「……はぁ? なんて?」


「記憶を見せて!」


「聞こえてるわよ。どういう意味か、と聞いてるの」


 まぁ、いきなり記憶を見せてと頼まれて、はいどうぞって言ってくれるヒトなんかいないよね。

 ルナに教えていいものか、ほんの少しだけ迷いましたが、ティアもタントお姉ちゃんもうなずいてくれました。

 なので説明です。


「――なるほど、ね。私に『シャルガ』の血が流れていた、かもしれないと」


「そうなの。だから私の流星の瞳シューティングスター・アイズで、もし本人でも覚えていない赤ん坊のころの記憶を見ることができたなら……」


 効果があまりに怖すぎて、ずーっと封印していた流星の瞳シューティングスター・アイズ

 精神汚染、トラウマ発症、死の感覚。

 その他あらゆる面で危険きわまりない、霊の記憶をのぞき見できるこの瞳。


 あまりに危ないため、ずっと使わずにいた力ですが、ルナの記憶なら見られます。

 だって私の――この体がたどってきた記憶だから。

 見なきゃいけない、とすら思うのです。


「……かまわないわ」


「ホントっ!?」


「ソレで『シャルガ族』をなんとかする手助けができるなら、手を貸してあげるわよ。私もアイツらにはかなりムカついているところだし」


 結果的に、アネットさんたちに利用されちゃってたわけだし、ね。

 ルナにも思うところがあるようです。


「それに……。聖霊のせいであちこちダンジョンになって、みんな困っているんだもの。レスターだって難民とかの対応であちこち飛び回っていて、ちっとも会えないし……」


「ん? レスターさん?」


「……聖霊をなんとかできるブランカインドがやられたら、ツクヨミ(こっち)的にもいろいろとまずいってこと! わかったらさっさとやりなさい」


 ど、怒鳴られちゃいました。

 突っ込んじゃいけないところだったかな?

 ともかく、久しぶりにやりましょう。


「ティア、テルマちゃん、タントお姉ちゃん。いってきます!」


「気をつけて」


「辛くなったらすぐに解除してください!」


「……ボクらの父――ドライクの姿も視るかもしれません。覚悟はよろしいですか?」


「もっちろんっ!」


 覚悟ならとっくにできてるよ。

 だからきっと、だいじょうぶ。


 ではいきます。

 ルナの前で瞳を閉じて、瞳に魔力を集中させて、集中させて、もういっちょ集中させて……開眼!


「いきます! 流星の瞳シューティングスター・アイズっ!」



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