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127 シャルガの異能



 おもむろにロープを取り出したティア。

 敵を縛り上げながら、待ったをかけられて不思議そうに私を見ます。


「どうしたのかしら、トリス」


「あ、あのねっ。お屋敷でいろいろと情報をつかんでね。まずこの日記を見てほしいんだけど――」


 大事な大事な情報共有のお時間です。

 シャルガのトップがケイニッヒさんだったこと。

 アネットさんたち姉妹がその親族で、いっしょに暮らしていたこと。

 そしてなにより、そこに転がってる名無しさんが、ケイニッヒさんの変身能力と関係あるかもしれないこと。


「もともとシャルガのトップを叩くのが目的だったでしょ? トップがケイニッヒさんだった以上、作戦は失敗なんだけど、もしかしたらケイニッヒさんの弱点とか秘密がわかるかもっ」


「一理あるわね。ではさっそく聞き出しましょう」


「話が早いですね……。ボク、けっこう驚いているのですけど……」


「行動は迅速に、だわ。ほら、起きなさい」


 スパぁんッ!


「あがっ! あ、あれーぇ?」


 気づけばティアとタントさんににらまれながらグルグル巻き。

 絶望的な目覚めです。

 さすがに青ざめてますね……。


「おはよう。いい夢見られたかしら?」


「ボクらは最悪の寝覚めでしたよ。知らない相手にニセの信頼植え付けられて、大事な妹をまかせてしまうだなんて。最悪な夢でした」


「覚悟、できているのでしょうね……?」


「ひ、ひぃぃー……」


 そして二人もとっても怖い。

 それだけ大事に思われてるってことで、嬉しくもあります。


「さぁ、まずは『どこ』かしら。希望があるなら聞いてあげるわ」


「き、希望ーぉ……?」


「『折る』場所よ」


「どこでも選ばせてあげますよ?」


「それが嫌なら、知ってることを洗いざらい――」


「しゃ、しゃべるっ、しゃべりまーすぅーぅ!!」


 あ、案外あっさりと折れましたね。

 一本も折られないまま心が折られました。


「ではまず――」


 チラリ、とティアが私に視線を飛ばします。

 そっか、そもそもいろいろ聞きたいって言ったの私だし、私に質問させてくれるんだ。


「えっとねっ。変身に使ってたドロドロ、アレはいったいなんですかっ?」


「お姉さま、敵の尋問にしては優しすぎますね。女神ですか?」


 や、優しすぎたかなぁ。

 もうちょっと怖いカンジを出さないと。


「言わないと、ヒドイですよぉ……! むんっ」


「トリス、凄んでるつもりなのかしら。かわいいだけだからやめておきなさい」


「はい……」


 怖くなかったみたいです。

 なれないことはやめておきます。


「ドロドローぉ……。『肉魂魄にくこんぱく』のことだーねぇー」


「にくこんぱく……?」


「ウチの肉体からそぎ落とした肉という肉をーぉ、百人の魂魄と混ぜ合わせ、よーくなじませたモノーぉ」


「……っ」


 あまりにおぞましいドロドロの正体に、ゾクッ、と寒気が走ります。


「百人分の人間のーぉ、情報が入ってるからーぁ、百人分の顔に化けられるーぅ。自分の肉だしぃ、操るのだって簡単ー」


「だ、だからそんな姿に……っ?」


 全身の肉をそいで変装のための道具にするだなんて、考えられません。

 しかもたくさんの幽霊さんを犠牲にして……。


「その能力、あなたの意思で?」


「いんやぁーぁ、ウチは生け贄ーぇ」


「生け贄、ですって……?」


「『ケイニッヒ』さまのための生け贄ーぇ。ウチのデータのおかげでーぇ、ケイニッヒ様はあの力を手に入れられたーんだぁ。ぜーんぶ、ウチのおかげーえぇ。きひっ、きひひひっ」


 生け贄……。

 シャルガのヒトたち、よく言ってます。

 「自分たちは聖霊様のための生け贄だ」って。

 けど、誰かちがう人間のための生け贄まで用意してるだなんて思わなかった。


 それに、です。

 ケイニッヒさんが自分の意思で、人体実験をしてまで『あのチカラ』を手に入れたとは思えない。

 なんとなく、根拠なんてないのですが……。


「……見事な変身能力よね。ケイニッヒにも何度もだまされたわ」


「でっしょーぉ? けひひひっ」


「けれど、せないわ。聖霊信仰と変身能力、どう関係があるのかしら」


「あー、とねーぇ。これ、言っていいのかなーぁ。……言ってもいいかーぁ」


 悩んでる時間少なかったですね。

 このヒト、とことん口が軽いようです。


「シャルガのおさにはねぇー、代々『異能』が宿っていたのさーぁ」


「『異能』……。他人とはちがう力、ということかしら。魔法やスキルとは違うものなの?」


「ちがうねーぇ、ぜんっぜんちがう。『聖霊様』に愛された者だけが持てる力、それが『異能』ーぅ。けれど、けれど『ケイニッヒ様』には、異能がなかったのさーぁ。なかったからーぁ、後付けしたのさーぁ」


「なるほどね。おさとしてはくをつけるため……」


「トリスちゃん、トリスちゃんー、キミのも、『異能』だよねーえぇ」


「えっ、私っ?」


 い、いきなり話を振られてビックリしました。

 私の、って、私の『眼』のことかな……?


「星の瞳、太陽の瞳ーぃ。どっちも聖霊様の持つ『瞳の力』それそのものーぉ。キミってキミってもしかしてーえぇ、『シャルガ』となにか関係あったりするーぅ?」


「か、関係ないよっ! ぜんぜん関係ない!」


 だって私のお父さんって、その、ドライクなわけでして。

 ドライクがシャルガの出身なわけもなく。


 ……あれ?

 ちょっと待って。

 私の『この体』、つまり私の『瞳』って、もともとあの子のものだよね。


「……っ、ね、ねぇ! 大事な質問! ぜったい答えて!!」


「んー? いぃよーぉ、今さらーぁ。知ってる範囲ならーぁ」


「族長の血統の中で『捨て子』とか、さらわれた子っていたりする!?」


「えーえぇっと、それはねーぇ。――ぇあ?」


 ど、どうしたのでしょう。

 名無しさんの動きがピタリと止まります。


「あ、ぁぇ? どうして? どうしてーぇ?」


 しかもです、あのヒトのまわりからドロドロの肉が湧き出てきたんです。

 本人の意思とは無関係に。

 どんどん湧き出すドロドロが、だんだんと体をつつみ込んでいって……。


「ウチ、こんな操作してないーぃ。どうして、勝手に、どうし、おぼっ」


 とうとう顔まで覆ってしまいます……!

 い、いったいこれって……っ。


「こ、これ、いったいなにが……っ」


「……わからないけれど、『殺そうとしている』ことだけは間違いないわね」


 ドロドロが、自分の本体を殺そうとしてる!?

 どうして突然そんなことを――。


「――あ」


 まさか、『秘密』をたくさんしゃべったから?

 それでなにか『スイッチ』みたいなものが反応して、口封じを行おうとしてる……?


「た、助けなきゃ……っ」


「ダメです、お姉さま。もう手遅れです……」


 テルマちゃんの、言う通りでした。

 ドロドロの肉の中でもがいていたのも、ほんの数秒足らずのこと。

 すぐにぐったり、動かなくなって――。


『っどぉぉぉぉぉじて、ウチ゛っ、どうじでぇぇぇ゛ぇぇぇ゛ぇえぇ゛』


 魂が、抜け出てきました。

 ですが魂すらもドロドロに捕まります。

 つかまって、どんどんと溶かされていってしまいます。


『あ゛、消え゛る゛っ、ウチが、消え゛ていく゛っ、消えだくな゛ぁ』


「トリス、見ないでください」


「うぅ……っ」


 タントお姉ちゃんに視界をさえぎられながら、耳に届くのは無念の声。


『ウチ゛、消えるなら゛っ、消える前゛っ、おじえで、ほじっ。ウチ、いっだい、だれ……ぇぇ゛』


 最期にあのヒトが問いかけたのは、自分の正体についてでした。

 変身を繰り返して、たくさんのヒトになりきって、自分という存在すらわからなくなってしまったのでしょう。


 魂が『ドロドロ』と完全に同化したのを最後に、『ドロドロ』も地面に溶けて消えていきます。

 材料となった魂ともども、完全に消滅してしまったのでしょうか。

 それとも地面に溶け込んだまま、永遠に……?


「消えて、しまいましたね」


「これ以上情報を引き出させないための口封じ、でしょうね。魂にすら尋問を許さないとは。徹底してるわ」


「ひどいよ、こんなの……。こんなの、あんまりだよ……っ」


「お姉さま……」


 私を追いかけ回して、たくさん怖い思いをさせた敵さんです。

 けれど、こんな末路ひどすぎます。


「せめて、せめて死んだらあの世に逝けるように、って。それすら許さないだなんて、ひどすぎる……」


「……ホント、胸糞わるいよね」


 あ、ユウナさんに変わってる……。

 私を抱きしめたままだけど、すっごく怒ってる。


「聖霊も『シャルガ』も、ぜんぶ胸糞。ムカつく」


「えぇ、そうね。叩き潰してやりましょう……!」


 そして、ティアも。

 『死した魂はあるべき場所へ』。

 よくティアが話してるこの世とあの世のことわり、それすらも冒涜する行い。

 こんなの、許せるわけないよね……っ。



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