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126 新たなる衣



 悪霊や聖霊の攻撃を弾く力を秘めた、神護の衣。

 現代人にも使えるヒトなら、それなりにいます。


 おもに神官とか聖職者系のヒトに多くて、魔物の物理攻撃をある程度まではじき飛ばしてガードする。

 そんな性能の防御魔法。


 幽霊になったことで、テルマちゃんの神護の衣には変化が起こりました。

 霊的な存在や、その攻撃に特化してはじき飛ばす力として。


 並みの幽霊程度なら、触れただけではじけ飛ぶような威力です。

 私もこれまで何度も何度も助けられてきました。


 けれど、生きた人間をはじき飛ばす力なんて持っていなかったはずなのに。

 いくら人間離れしてるとはいえ、相手はれっきとした生きた人間なのに。


 それに、いま衣の表面をバチバチとはじける電撃みたいな火花はいったい……?


「テルマちゃん、これっていったい?」


『正直、テルマにもよくわかりません。ですがお姉さま、もうご安心を。この力でならお姉さまを護れますから』


 テルマちゃん、すごい自信……。


「ひぃー、ひぃー。痛い痛いなーぁ」


 むくり。


 お、敵さんも起き上がりました。

 痛がってますが、効いているのかいないのかわかりません。


「さわったら痛いんだーなぁ。だったらー、触らなきゃいいんだーなぁ」


 なにをするつもりなのでしょうか。

 あのヒトのまわりに脱ぎ捨てたはずのドロドロが集まって、どんどん体をつつんでいきます。


「へーんしぃん゛」


 ぐちゅんっ。


 しめったような水音を最後に、『変身』が終わったのでしょう。

 その場にもう、毛のない全裸のヒトはいません。

 あのヒトがいた場所に、代わりに立っていたのは……。


「だ、誰……っ?」


 見覚えのない女のヒト。

 初めて会うヒトです。

 知らないヒトに化けて、いったいなにをするつもり……?


「あー、あー。うん。あのねー、トリス。ウチはセニア。キミのお姉さん。わかる?」


「え……?」


 お姉さん……?

 このヒト、いったいなにを言って……。


 私のお姉ちゃんなら二人います。

 レイスお姉ちゃんとタントお姉ちゃん。

 二人とも大好きで、やさしくて、とっても大事なお姉ちゃんで……。


 ……あれ?

 お姉ちゃんが二人なら、三人いても大丈夫なんじゃ?


「……あぁ、うん。そうだよ、あのヒトだってお姉ちゃん。お姉ちゃんなんだ。どうして忘れて――」


 バチィンッ!!


「――あ」


 そのとき、衣がなにかをはじき飛ばしました。

 とたんに意識が鮮明になっていきます。


「あ、れ? な、なんで私、知らないヒトをお姉ちゃんだなんて……っ!?」


「んー? おかしいなー、催眠が効いていない?」


「さ、催眠……っ!」


 そうか、コレがあのヒトの力なんだ。

 ドロドロをまとうことでちがう人間に化けて、ターゲットに大事なヒトだと誤認させる。

 とってもとっても強力な暗示。


「テルマちゃん、あのね。今、衣がなにかを弾いたのっ。テルマちゃんなにかした?」


『いえ、テルマはなにも。ですがおそらく、この衣。「お姉さまに害するあらゆるもの」をはじき飛ばしてしまうのでは……』


 なるほど。

 催眠の力が私にとって害だったから、衣がオートガードしてくれたんだ。


 実体を持たない、催眠なんて『概念』みたいなものすらはじき飛ばす衣。

 テルマちゃん、とんでもない力に目覚めちゃった……?


「あーらあーら、まずいわねー。ティアナたちの催眠解除からだいぶ経ったし、そろそろ来ちゃうころだろうしー……」


『逃げるおつもりですか』


「逃げないよーぉ。ココは『シャルガ』の本拠地だから、ちょっと大騒ぎして大量の増援呼んで、聖霊だって大量に連れてこようとしてるだけー」


 まずいです、そんなことされたらいくらティアだってやられちゃいます!

 あのヒトのこと、ぜったいに行かせるわけにはいきません。


「たまたまねー、あなたたちのこと見つけちゃってー。お手柄だねってほめられたくって誰にも知らせなかったけどー、そうも言ってらんなくなっちゃったからー」


「だめ、逃がさないっ!」


「行かせたくないよねー。でもー、あなたになにができるのかなー? その衣、防御だけしかできないのにー」


 なかなか痛いところを突きますね。

 たしかに襲ってくるモノには無敵かもですが、逃げる相手にどうすれば……。


『テルマに考えがございます』


 テルマちゃん、そう言うやいなや憑依を解除。

 私の体から抜け出しました。

 一方知らないニセお姉ちゃんもどき、背中をむけて走り出しますが……。


「お姉さまっ。衣、お借りしますねっ」


「えぇっ!?」


 私の肩にかかっていた衣が、テルマちゃんの手で引っぺがされます。

 ですが私の体を離れても、バチバチはいっこうに収まりません。

 むしろテルマちゃんの意思に応えるように、強くなっていってるような。


「すーたこらさっさー。行かせてもらうねー」


「行かせません! あなたはテルマが――」


 逃走する敵に素早く追いついたテルマちゃん。

 衣を広げて、


 ガバッ!


「捕まえます!!」


 頭からかぶせました!


 バチバチバチバチバチバチバチッ!!!


「ぎいいぃぃぃぃぃぃぃいああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 まるで雷魔法でも浴びせられたみたいな音と光、そして悲鳴。

 全身を衣につつまれて、擬態のためのドロドロがどんどん蒸発していきます。


「あぎゃっ、ひぎああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 とうとう元の姿がむき出しになって、


 バサッ。


 テルマちゃんが衣から解放すると同時、力なくその場に倒れ込みました。

 し、死んじゃって、ないよね……?


「あ゛っ、ま゜っ」


 雷に打たれたみたいにビクンビクンしてるけど……、うん。

 なんとか大丈夫そうです。


「ふぅ……。お姉さまっ、テルマやりましたっ」


「すごいよ、テルマちゃんっ」


 満面の笑顔で私の胸にとびこんできたテルマちゃんを抱きとめます。

 不安だった気持ちが一気に溶けていくのを感じました。


「最後のあれってどうなってるの? 私に取り憑いてなくても使えてたよね」


「あ、そういえば使えてましたね……。必死になってて気づきませんでした」


 基本的に幽霊さんたち、誰かに取り憑かないと生前の技だったりは使えません。

 フレンちゃんだってそうでしたし。


 ただ、ドライクという例外も存在しましたから、そこまでの驚きはありませんでしたが……。

 それにしても、急にすごくなっちゃいました。

 新しい衣の力に目覚めちゃうだなんて。


「きっと、お姉さまを護りたくて必死だったからです。テルマの愛の力ですねっ」


「えへへっ」


 ストレートに好意をぶつけてくるテルマちゃん。

 照れくさくって、でも嬉しいです。

 やっぱり私、この子のことが大好きなんだなぁ。


「――こっち! こっちですよティアナさん!」


「え、えぇ……。ホントに雷じゃなかったの?」


 おや、遠くから声が聞こえます。

 ティアとタントお姉ちゃん、二人の声だ。

 テルマちゃんにはまだ聞こえてないみたいです。


「テルマちゃん、ティアたちも来たみたいだよっ」


「やっとですかっ。今回、間に合ってないですよっ!」


「まぁまぁ」


 さて、変身機能持ちの名無しさん、まだ倒れたまま動きません。

 逃げないようにじっと見張りつつ、ティアたちの到着を待つこと数十秒。


「トリス、テルマ! 無事かしら!」


「ティア、来てくれてありがとっ。このとおり、もう終わってるよっ」


「なんと……。無事でなによりですが、しかしいったい誰が?」


「テルマです。えっへんっ」


「テルマが? どういうことかしら。それにさっきの落雷のような音と光は……」


「えーっとね――」


 かくかくしかじか、テルマちゃんの新たなチカラについておおざっぱに説明です。


「……驚きね。幽霊が力を成長させるだなんて」


「レアケースなの?」


「基本的に、霊になった時点で成長は止まるものよ。外見的にも、能力的にも、ね。しかし今回、テルマは力を成長させた」


「愛の力なのですよ!」


「……本当に愛の力なのかもね」


 おぉっと、ティアがテルマちゃんの頭をなでました!

 コレは珍しい。


「ありがとう、テルマ。トリスを護ってくれて」


「あ、当たり前ですっ!」


 テルマちゃん、照れてる。

 ふふっ、かわいい。


「ティアナさんにばっかり負けていられませんからっ」


「負け……? 勝負なんてしていたかしら……」


 そして不思議そうなティア。

 私、なんとなく意味合いわかるよ。

 テルマちゃんだって、私のピンチを助けたかったんだよね。


「……さて、問題はこっちのヤツね。なにがファイカよ、知らないヤツに成りすまして仲間面するだなんて。覚悟、出来ているのでしょうね?」


「あばっ……」


「この敵、どうします?」


「しばって吊るしておくわ」


「ま、待ってティア!」


 テルマちゃんの新たなチカラ以外、なんにも事情を知らない二人。

 ですがこの敵、もし情報を聞き出せるならチャンスかもしれません。


 シャルガの頭領、ケイニッヒさんの持つ変身能力。

 その秘密にこのヒトが関係している。

 私のカンがそう告げています!



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