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123 信頼できる増援さん



 第三席のファイカさん、とっても心強い増援ですね。

 なにせ第三席、セレッサさんの次の次にすごい葬霊士さんです。


「キミがトリスちゃんだよね? はじめまして、よろしくねー」


「よろしくです、ファイカさんっ!」


 とっても明るくて人当たりのいい、気持ちのいいヒトですね。

 差し出された手をとって、あくしゅあくしゅ。


「ギリギリのタイミングで追いついたわね。潜入前に出会えて幸運だったわ」


「たよりにしてるよー、ファイカちゃんっ」


 ティアもユウナさんも、このヒトのことを信頼しきっています。

 だったら安心だ。


「合流を喜んだところで、さぁトリス。集落の様子を見てくれる?」


「あ、そうだったねっ」


 ファイカさんが来たことで中断しちゃってました。

 今から偵察するとこだったんだよね。


 改めて瞳を閉じて、魔力を集中させて……開眼!


綺羅星の瞳トゥインクルスター・アイズっ」


 霊視能力を強化するこの瞳、視力も大幅にアップします。

 ただでさえいい眼がさらによくなって、かえって不便なときもありますが、見通しのいい場所なら別。

 まるであの場にいるみたいに、ハッキリクッキリよく見えます。


「えっと、ね。ここからでも見えると思うけど、けっこう規模が大きいよ。民家だけでも100件以上ある」


 村というより、小さめの町くらいの規模がありますね。

 家の造りもかなり独特。

 入り口が階段になっていて、家の床が地面から離れています。

 床下が高床です。


 木製の家を白い建材で補強しているカンジかな。

 まぁ、家のデザインは特に関係のない情報ですね。

 なのでティアたちに言う必要もありません。


「村の様子だけど、子どもが多いみたい。戦えそうな大人のヒト、ほとんどいないんじゃないかな」


「やはり今がチャンスのようね。親玉がいそうな場所は見える?」


「えっとね、村の一番奥に、寺院みたいなおおきな建物。いかにも偉いヒトがいそうかな。寺院と反対がわに他よりおっきい家もある」


「そのどちらかにいそうですねっ」


 偵察完了したところで、綺羅星の瞳トゥインクルスター・アイズを解除。

 村の地図を木の枝で地面に書き書きしつつ、作戦タイムとまいりましょう。


「村のまわり、ぐるりと森でかこまれてる。塀とか堀とか、防護用の施設はナシ」


「簡単に忍び込めそうですね」


「侵入される想定をしていないのでしょう」


「問題は司令塔となるおさがいるのか、いるとしたらどこにいるのか。トリスがふたつ、アタリをつけてくれたわね」


 寺院と一番おっきなお屋敷。

 それぞれ真逆の方向です。


「もうすぐ日が暮れるわ。夜になってから動き出すとして、どちらから先に行く?」


「難しいよねぇ。万が一見つかっちゃって、そこがハズレだったら、もう一か所に忍び込めなくなっちゃいそう」


「警備の強化は避けられないでしょう。最悪、近くに待機していた戦力を呼ばれる可能性も」


「むむむ……」


 難航する作戦会議。

 行き詰まったところでファイカさんが口をひらきます。


「だったらさー、二か所同時に行っちゃえばいいんじゃない?」


「なるほど。さすがファイカね」


「名案です、ファイカさん」


 おぉ、ティアもタントお姉ちゃんもノータイムで賛同ですか。

 よっぽど信頼してるんだろうなぁ。


「それでチーム分けだけどさ。ティアナちゃんとタントちゃん、トリスちゃんテルマちゃんとウチでどうよ。ティアナちゃんたちが寺院、ウチらが屋敷で」


「……トリスたちが、あなたと?」


 と、ここでティア、異議ありでしょうか。

 そうだよね。

 やっぱり私たち、三人いっしょじゃないとダメだよね。


「イヤなの、よーくわかってる。でもね、敵がいる可能性が高いの、家より寺院だと思うんだ。親玉を見つけた場合、戦いになるわけでしょう? 殺すことになるかもしれない。ティアナちゃんが人殺しするところなんて、トリスちゃんに見せたくないじゃん」


「……ティアナさん。ボクも彼女の意見に賛成です」


 おっと、タントお姉ちゃん。

 ファイカさんの意見に同意ですか。


「あ、あのねっ。私、平気だよっ。覚悟だってできてるからっ」


「それでも……。それでも妹に――トリスに酷い場面を見せたくない。姉としてのわがままですが、どうか聞き入れてください」


「そ、そこまで言われちゃったら……」


 私、もうなんにも言えません。

 あとはティアが折れるだけ。


「……はぁ。わかったわ。トリス、ファイカがいっしょなら問題ないでしょうけど、しっかり守ってもらいなさい。テルマも、いつも通り頼んだわよ」


「まかせときなー」


「……お姉さま」


「ん? どうかした、テルマちゃん」


「い、いえ、気にしないでください。こんなこと考えるなんて、テルマ悪い子です……」


 ど、どうしたんだろ……。

 まぁいいか。

 ともかくこれで決定ですね。


 私とテルマちゃんとファイカさん。

 この三人でお屋敷へ。

 そしてティアとタントお姉ちゃん&ユウナさんで寺院へ潜入。


 ファイカさんが無理やりにでもまとめてくれたから、あっさり決定できました。

 あとは日が暮れてから、作戦開始といきましょう。



 ★☆★



 暗いわね。

 夜の森の中、とっても暗いわ。


 暗いからって怖くないの。

 怖いモノなんて雷だけ。

 雷が鳴っていなければなんにも怖くない。


 ……ウソ、他にも怖いものがあるわ。

 トリスを失うこと。

 ユウナをもういちど失うこと。


 喪失の絶望、もう二度と味わいたくないものね。


「お姉ちゃん、なーにぼんやりしてるの」


「……ぼんやりしてないわ」


 暗くてヒマだから、考え事をしていただけよ。

 頭をグルグル回していたからボンヤリしていない。

 客観的に見れば、ボンヤリしていたのかもしれないけれど。


「してました。証拠にほら、気づいてないでしょ。もう寺院、すぐそこ」


「あら、本当ね」


 入り口に並んだふたつのたいまつ、炎が煌々(こうこう)とあたりを照らしているわ。

 気づかなかったわね、ボンヤリしていなかったのに。


「しっかりしてよー。いつまでも妹にお世話させるんじゃありません」


「しっかりしてるわ」


 クールな美人だとよく言われるもの。

 トリスにだってたまに言われるもの。

 出会ったばかりのころなんて、よく言われてたもの。


 ……いえ、そんなことどうでもいいの。

 今大事なことは寺院よね。


「この中にシャルガの長が……いると思う?」


「それをこれから確かめるんだよ。気を引き締めていくよ、お姉ちゃん!」


「誰にものを言っているのかしら」


 他の民家や建物ともまたちがうようね、この寺院の造り。

 苔むした石の建材でつくられているわ。

 彫刻なんかも彫られている。


 かなり古い時代のもののようね。

 テルマのいた『ハンネスタ大神殿』によく似ているかも。


 まず正面入り口のほかに出入り口がないか、そこから始めることになっているわ。


「さぁ、探しましょう。秘密の出入り口。私が先に見つけるわ」


「競争してるんじゃないんだから……。あるかどうかもわかんないし」


「あると信じて探すのよ。いくわよ」


 姿勢を低くして夜闇にまぎれて、まず外周を探っていく。

 こういうとき、葬霊士の黒づくめな服装って便利よね。


「カベから地面まで、念入りに調べていこうねー」


「えぇ、見落としの無いように」


 感知力SSのトリスなら、出入り口のあるなしだって簡単に突き止められたでしょうけど。

 私たちの場合、見落としの可能性だってじゅうぶんにあるわ。


 それにしてもトリスと別行動だなんて。

 少し前の私なら考えられないことね。


 ザンテルベルムで別行動をとって、あの子が聖霊やケイニッヒに襲われてから、離れたくないと強く思うようになったわ。

 よっぽど信頼している相手じゃないと、それこそタントやユウナくらいじゃないと、トリスのことをまかせられない。


 今回、タントがあの子の姉として強く願ったから聞き入れたけれど。

 その上ファイカがいたから――。


「……ファイカ?」


 待って。

 ちょっと待って。


 頭の中の霧が晴れたような感覚。

 戸惑いの中、思わず足がとまってしまう。

 まったく同じタイミングでユウナの足も止まって、人格がタントに入れ替わった……ようね。


「ねぇ、タント? ひとつ、ありえない質問をしてもいいかしら」


「……えぇ。ちょうど今ボクも、ありえない疑問を抱いたんです。そして今、どうしてあんな提案をしてしまったのか、不思議でたまらない。ティアナさん、あなたの抱いた疑問、聞かせてください」



「……『ファイカ』って、だれなの?」



 ブランカインド流の葬霊士にそんな女、いないはず。

 だって、三席の名はバルファリコ。

 ベテランのおじさん葬霊士。

 ファイカなんかじゃない。


 どうして私たち、知らない人間を当たり前のように受け入れていたの……?

 あっさりと、大事なトリスをたくしてしまったの……?


 いえ、そんなことよりも、今大事なことは……!


「――いそいでトリスのところにむかいましょう」


「全速力で、ですね……!」



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