辞める勇気
評価、ブクマありがとうございます。
「では、私はこれで」
「ちょ、ちょっと待て、大村!」
いつもは仏頂面の顧問が、あり得ないほど取り乱している。
「なんでしょうか、先生」
「お前とアイツの間にあったことは知ってる!だが、だからといって、お前が辞めることはないだろ!」
「では、先生はあの男を辞めさせられますか?」
「そ..それは無理だが.....というか、そもそも、アイツは退学になるんじゃないのか?」
これだから、無知な人間のお節介は嫌だ。
「なるわけないでしょう。どこに証拠があるんですか?」
「はあ?それは、お前が持ってるっていう動画が.......」
「なんですか、それ?」
「はあ!?おい、ふざけるのも大概にしろよ。俺はお前のことが心配で....」
「そうですか」
勝手に心配して、勝手に他人を強制して。
「動画は消しました。あと、心配してもらわないで結構です」
「な....お前、なにやってんだ!!!」
「なにと言われましても、別に、必要なかったので」
「馬鹿野郎!!アイツが残ってお前が辞める!そんな馬鹿なことがあって良いわけないだろ!」
まったく。困ったものだ。
「そんなことはどうでも良いので、退部させて頂きたいのですが」
「ふざけるな!お前は何もしてないんだ。もっと堂々としろ!」
それなりに堂々としているつもりなんだが。
「お気遣いありがとうございます。しかし、退部するのは私の意思であって、先生には関係ないと思いますが」
「そんな風に、自分の殼の中に閉じこもるな。俺はお前の味方なんだぞ」
やはり、言葉が通じていないようだ。耳障りの良い言葉を吐いてはいるが、彼は私のことを見ていない。
「心配していただいても、味方になってくれても良いですが、そろそろ私の話を聞いてくれませんか?」
「なんだ、その言い方は!それが、自分のことを考えてくれる人に対する態度か!」
別に、貴方が自分の言語で喋るのは構わないが、私の話は聞いて貰おう。
「考えて「くれる」?ですか。先程から思っていたのですが、先生の言っていることは、少々主観的に過ぎませんか?」
「なに!?」
「自己満足なさるのは結構ですし、人間誰しも、主観的なものです。しかしながら、貴方のそれは、余りに見苦しい」
一拍空ける。とりあえず、主導権は取った。
「自己満足なら、一人でもできる筈です。それをわざわざ、他者にそれらしいことを言って、自分に酔う必要がありますか?」
「貴方は善人ぶっていますが、何故、自分の欲望を隠すような真似をするのですか?貴方こそ、堂々となさってはどうですか、エゴイストらしく」
「俺がエゴイスト?そんな訳ない!俺はただ、お前のことを思って....」
もういいだろう。
「はっきり言って、貴方は中途半端なんですよ、何もかも。自分を剥き出しで押し付けるような強さもなく、「お前のため~」であるとか、人に責任を押し付けてしまう。だから貴方は薄っぺらい。貴方には、偽善者が見せてくれるような幻想すらない」
「他の人がいないと自分を満たせないエゴなんて、醜いだけですよ」
「おい、ちょっと待て!」
この人を見ていると、昨日までの自分を思い出す。一方通行の思いで自分を支えていた自分。
[おい美香、あいつのことは良いのかw?]
[今は、先輩といる時間が大事なんです~]
いかんな。嫌なものを思い出した。
教師の左手の薬指を見ながら、私は言う。
「最後に。忠告しておきます、先生。せめて、もう少し相手のことを見ておかないと、本当に大事なものを失いますよ」
私のように。
だが、それで自分を見つめられるのなら、悪くないのかもしれないな。
そんなことを考えながら、私はその場を立ち去った。
部活は?




