談笑
皆さんは、自分を信じれますか?
その日、一日中空気は重く、教室内には沈黙が流れた。
「静かだな」
「まあ、色々あったしね」
あの動画が再生された後、淫売はいつの間にか姿を消した。残された偽善者達は、あまりにもおぞましい光景を見たからか、嘔吐する始末。
「あれは酷かったな」
「その原因が、よく言うよ」
「何のことだ?」
やれやれ、と水瀬は肩を竦める。
「だが、本当にあの女のことを思ってるのなら、この程度のことでは考えを変えない筈だろう?」
「辛辣だね」
「所詮、彼らのやったことは、自分のための正義だったということだ」
「まあ、そんなもんでしょ」
そして、一息おいた後、彼は言った。
「けど、君のやったことは、それと何か違うのかい?」
昨日、何かが変わった時。私はその答えを見つけていた。
「いや、違わない」
「だったら、君に、あの人達を批判する権利はないんじゃない?」
「その通りだ」
「じゃあ、さっきまで偉そうに言ってたことは何だったの?」
にやにやとして、からかうような口調で水瀬は言う。
だがな、
「お前は、最も重要なことを忘れているぞ」
「へ~...。それは何かな?」
「私がいつ、自分が正しいと言った」
「それはたしかに。そういえば言ってないね」
「私は別に、正しくあろうとはしていない。ただ、自分が良いと思ったことをするだけだ」
「いや.....それがまさに、自分のための正義だと思うんだけど......」
「そう、そうなんだ!」
あの時、私は気付いたんだ。
「私は、私が正しいと思う。」
最も大切なこと。
「だから、私は正しい」
この、真理を。
「なんだそれ。全然論理的じゃないじゃん」
呆れたように水瀬は言った。
「しかし、だ。人間とは本来、論理的な生き物ではないと思わないか?そもそも、論理的かどうかを正しさの基準にするのも、個人の好みの問題だとは思わないか?」
「けど、社会的な基準になってるから、個人というより社会の好みなんじゃない?」
「そうは言っても、社会は結局個人の集合だ。それに、人が誰かを好きになるときに、自分が構成する社会は意識しないだろう?」
「なんか洒落た感じで話を纏めないでくれる?」
一瞬の沈黙の後、どこか遠い目をして、彼は言った。
「でもまあ.....。本当に自分を信じれるのなら、それに越した良いことは無いね......」
いつもの明るさを失った彼のことを、不自然に思うが、彼はすぐに表情をいつものように変えて、
「そ·れ·に、君は事実、被害者だしね。多少のことは許されるよ」
いつもよりどこかわざとらしく、言葉を強調して言った。
「それよりさ。君、どうしたの?昨日会った時と随分喋り方が違うけど」
「今更過ぎないか?これだけ話したのだから、もう気にしてないものと思っていたが」
「気になってるに決まってるじゃないか~。僕たち友達だろ?」
皮肉めいた笑みを浮かべて言う彼を見て、やはり掴めない奴だと思う。
「実は、私もよく分かっていない。恐らく、本来の自分に戻っただけだと思うのだが、推測で物を言われるのは嫌いだろう?」
「う~ん.......まあそうだね。それに、今日あったことからなんとなく分かるしね」
何が分かるのかを聞くのはやめておこう。あの女を思い出すだけ煩わしい。
「そういえば。あの噂を広めたのは、先輩なのかな?」
「さあな。私ではないことは確かだ」
そっか...。と考えるような素振りの後、
「部活、辞めた方が良いんじゃない?」
という、彼にしては珍しい、生産的な意見が提示される。
「それもそうだな。わざわざあんな醜い奴と、共に汗を流す必要はないしな」
「そうそう」
一応、中学から続けたサッカーだが、あんな球遊び、現実で役に立つことはないからな。
「では、放課後、顧問に退部届けを出すことにでもしよう」
「それが良いと思うよ~」
とりあえず、無駄なものを清算することにしようか。
あのビデオも含めて。
いつも評価とブクマありがとうございます。
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頑張りますね!
できるだけ........。




