彼の正義
ギャグが一杯だ~(棒)
恋という枷を外されたエゴが、自分の中を駆け巡るのを感じる。閉ざされた世界が開かれ、肌に触れる空気の感覚すら、鋭敏なものになる。
「愚かしいにもほどがあるな。私も、貴様らも」
「あ~ん!?」
今まで抑圧されていた自己が、過去の時間を取り戻すかのように、言葉となって迸る。
「どうして、そんなに醜い女を愛していたのだろうな。私もまた、その女のように肉欲に溺れ、真実が見えなくなっていたのかもしれないな」
「はっ!何かと思えば負け惜しみかよw寝取られたからって女責めて、自分だけ被害者面してんじゃねえよ、負け犬がよぉw」
「も~。先輩が加害者なのに、なに偉そうなこと言ってんですかwwでも、私を被害者と思ってくれてるとこ好き~」
「ま、堕ちちまったから、今はただのメスブタなんだけどなw」
「先輩のイジワル~」
楽しそうに話す彼らに対して、私はなにを感じているのだろうか。嫌悪感?嫉妬?あるいは一種の興奮?
いや、違う。これは...........
「いや、たしかに。よく考えると、貴様らは愚かではないのか。下等な淫売と猿畜生はお似合いだものな」
憐れみだ。本能に溺れ人としての尊厳を失った彼らと、理性的で圧倒的に優位な立場にいる自分を比べて、同族である彼らに対して、尊い慈しみをおこすことを禁じ得なかった。
「んだと、ゴルァ!!!てめぇ、舐めてんじゃねえぞ、負け犬の癖してよぉ!!!」
「は?わたしに振られたくせに、なに調子乗ってんの?馬鹿なんじゃない?」
やはり、彼らは可哀想だ。
「む?貴様らを最大限褒めたつもりだったんだが。怒らせてしまったならすまない」
自分に向けられる優しさすら理解できないとは、なんて可哀想なんだろうか。
「ぶっ殺してやらぁ!!!」
男が殴りかかってくる。せっかく会話を試みてやったのに、なんとそれすらできないとは....。いや、人間の主観的な考えを、他の動物に押し付けてしまったのがいけなかったのか。これは、私が悪いな。
「すまなかった!」
私は正直に、誠実に頭を下げる。彼らを理解した気になって、無駄なお節介を焼いてしまった。そうして、彼らを不必要に傷つけてしまった。
「許すと思ってんのか、あぁん!!!!?」
男は止まらない。何故だ?仮にも自分より上の存在が頭を下げているのに、なんの感謝の言葉もないどころか、暴力をふるおうとするとは。まさか.....いや、まさかな....。
「貴様は、自分の立場を分かっていないのか???」
「はぁ?立場分かってないのはどっちだよw馬鹿かお前?」
男は笑いながらも、額に青筋を浮かべて言う。そうか。まさかのまさかとはな......。
「いや、気づいてないのか?」
「てめぇこそ、目付いてねえのか、よ!!!!!」
拳が眼前に現れる。
「ここまでとはな....」
瞬間、大気が震える。
「自分の実力すら分からないとは。私の情けを返してほしいものだ」
一発蹴りを入れただけで、男は伸びてしまった。
「え?え、え、え?」
「どうした、アバズレ?そこに伸びてるお前の棒きれを、拾ってやらんでいいのか?」
やはり私は優しすぎる。人間様に歯向かってきた畜生を、殺処分せずに生かしておいてやるなんて。動物愛護運動の旗印として祭り上げてほしいくらいだ。
「あ、あんた、何してくれてんのよ!?!?」
「ただの躾ではないか。何か問題あったか?」
どうやら、下等な知能ではそんなことも理解できないらしく、未知のものに対する恐れを抱いた表情を、女は浮かべる。
まあ、最後の情けだ。
「別に、私は貴様らに恨みを抱いていないから、安心して暮らすといい」
優しい言葉をかけて、私はその場を立ち去った。




