王の目覚め
次の話からギャグ入れます。
「私、先輩と付き合うことにしたから」
「え?」
幼稚園からの幼なじみで、ずっと一緒に育ってきた。楽しい時も辛いときも、いつも彼女がいた。
幼いながら、彼女が好きなんだと気付いていた。それは彼女も同じだったようで、結婚の約束をした。
心も体も成長すると、一緒にいるのが気恥ずかしくなった。突き放すよう真似をしたけれど、彼女は優しく微笑んでいた。裏で泣いている彼女を見た時、胸が張り裂けそうになった。やっぱり彼女が好きなんだと、彼女を傷つけてからようやく理解した。
「好きです。付き合ってください」
何様のつもりだ、と自分でも思った。散々泣かされてきた相手からそんなことを言われて、嬉しいはずないではないか。優しい彼女は、きっと苦しんでしまう。こんな最低な僕をも傷つけまいと。
彼女を傷つけることしか、自分にはできないのか。目は、自ずと下を向いてた。
「はいっ!」
はっ!と顔を上げる。彼女は泣いていた。けれど笑っていた。その涙は、とても温かいものだった。
それからは、僕も心を入れ替えた。彼女のためならなんでもしたし、なんでもできた。そんな僕の隣では、やっぱり彼女が微笑んでいた。
けれど最近、僕の部活の先輩と彼女が、頻繁に会うようになった。もちろん妬ましかったが、彼女を傷つけたくなかったから、彼女を信頼していたから、それに僕は間違っているだろうから。僕は何も言わなかった。
そして今である。
「だーかーらー、先輩と付き合うんだってば。ちゃんと聞いてた?」
逞しい男の体にもたれ掛かりながら、僕に言う彼女。あの頃とは違い、髪は金色に染めて、耳にはピアスが空いている彼女。清楚で優しかった微笑みを、下劣で愚かな笑みに変えて、他の男に向ける彼女。
分かっていた。彼女の心がもう僕に向いていないということは。はっきりと明言されるまで気づかない振りをしていたのは、君から離れたくない僕のエゴ。
ただ、せめて、強がらせてほしいな。
「それで、僕はどうすればいいのかな」
分かりきったことを聞いた。こんなに愚かな質問はあるだろうか。けど、僕はもう泣きそうなんだ。最後だから許してほしいな。
「私と別れて。それで全部解決だから」
そんな無機な言葉で、僕たちは終わるんだね。だったら、
「うん、分かった」
僕も最後まで強がろう。
「あいつ、マジでキモかったなww。あの泣き顔、マジで写真撮っときゃよかったわーw」
「も~。そんなこと言わないであげてくださいよ~。あれでも一応、私の幼なじみなんですよw」
「あんなヘタレだから、俺に寝取られるんだろうが。さっさと手出しゃよかったのによ、な!淫乱クソビッチ!」
「先輩がこんな体にしたんでしょ~。そ·れ·に、アイツ粗チンなんで、どうせ先輩に寝取られちゃいますよw」
彼女は、変わってしまった。いや、変えられてしまったのか。僕は............僕はなんて無力なんだろうな。虚空に向かって泣くことしかできない。
だがなぜだろ、おかしい。全然悲しくない。あんなに好きだった彼女を寝取られたのに。あれ?どうして彼女のことが好きだったんだ?あんなに気持ち悪くて浅ましい女のことを、どうして私は好きだったんだ?
その日私は、本当の自分を見つけた。




