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「なぜ、私達は呼ばれたんだ? それに侍女達も。それに捕まったはずのメリーがどうしてここに?」
「ええ、そうよ。メリー、あなた捕まったんじゃなかったの?」
そして、そう尋ねてくる両親に肩をすくめながら説明も。
「勝手に人を犯罪者扱いしないで下さい。それにあの時の状況……まあ、いいか。これであなた達が私をどう思っているのかよくわかりましたし手を抜かずにすみますので。今からするあなた達の断罪ショーを」
「我々の断罪ショーだと? どういうことだ?」
「それに親に向かって断罪なんて不謹慎な言葉を言うものではありません!」
「ああ、そうそう。親と言えばもう私はロルイド伯爵家の席から抜けていますので娘扱いしないでくださいね」
「はっ、どういうことだ?」
「言葉通りの意味ですよ」
私はそう言いながら驚くロルイド伯爵家の面々から背を向ける。沢山の先生に生徒が中庭に集まってきたので挨拶をするために。
「お集まりの皆様、こんにちは。これからロルイド伯爵家の断罪ショーを行いますので見ていってくださいね。では、早速……」
そして気合いを入れ、真っ直ぐにアレッサに向き直り、劇の始まり始まりと……
「アレッサ、私を長いこと虐げてくれたわね。今日はあなたが散々やった事をみんなに知ってもらおうと思ってるのよ」
「……何のことかしら? それに私のことはお姉様でしょう?」
「ふーーん、まだ、そういう態度なんだ。困ったわね、ナタリア」
するとナタリアはアレッサの方に這っていきながら懇願しだす。
「アレッサお嬢様、言ってしまって謝りましょう! 私達がしたことを!」
ただ、アレッサは頬をひくつかせながらもまるでわからないという表情を浮かべてきたが。
「……何を言ってるの? それにあなたのその様子、ずいぶん疲れているみたいじゃないの。もう帰って休みなさい。私の大切な大切な侍女ナタリア」
そして、二人はいつものように手を取り合って……とはならず、ナタリアは這いながら近づいていたはずのアレッサから急に距離を取り出してしまう。怯えた目をこちらに向けながら。
「メリーお嬢様……」
まあ、だからこそ仕方ないなあ、と私は助け船を出してあげたが。
「ナタリア、いつもみたいにアレッサと手を取り合ったらどう?」
「い、いや、そ、それは……」
「あら、私は良いのよ」
だって、やらなければこれを皆に見せればいいだけだしね……と、ナタリアが部屋のものを盗んでいる映像が入った魔導具を手のひらに載せて転がす。
更にはボタンを軽く撫でて……
「あ、指がっ……」と、呟いた瞬間、ナタリアは頭を勢いよく地面にこすりつけ、滝の様な汗を流し「アレッサお嬢様、あれを見られたら私はもう終わりなんです! どこにも働けなくなるんです! お願いしますからメリーお嬢様を虐げたことを認めて謝って下さい!」と言ってくる。
まあ、アレッサはそれでも認めることはなかったが。「な、何を言ってるのかさっぱりわからないのよ? わ、私、なんだか調子が……あああっ」と、豪快な演技で逃げ切れると思っていたので。
また、誰かが助けてくれると。
私を非難しながら……
「……」
現実はしーーん、と風が吹いていき、誰もアレッサに近づいては来なかったけれど。
私の周りにはサマンサ学長、アルタール公爵、そしてバルサ王国騎士団が立ってたので。アレッサに怯えている侍女達、何も理解していない元両親に呆然としてこちらを見つめるジョッシュを睨みながら。
つまりは味方をすればきっと自分も大変な目にあうと。校則違反の比ではなく……と、先ほどまでアレッサの側にいた男子生徒達とボラル、それから参加しなかった何人かの先生や生徒達が冷や汗を垂らしながら少しでも距離を取ろうと下がりだす。
逃げたところで別の断罪ショーをちゃんと用意しているのに……と、私は呆れながらも彼らから視線を外す。
それからロルイド伯爵家の真実を映すから注目しなさいと、真上を指差しも。
魔導具のボタンを押しながら。
ポチッと。
直後、私の頭上に映像が流れ出す。
アレッサや侍女達が私を陥れた映像が大量に。
そして、それを見たまともな人達は「うわ、酷いなあ」「やっぱりね」と、アレッサ達の方にわかりやすいほどの軽蔑の眼差しを向けながら……と、私の名誉がぐんぐん回復していくのがわかる。
アレッサ達の名誉と引き換えに。
まあ、だからこそ私はロルイド伯爵家の面々に向かって歩き出したのだが。
まずは終わったという表情を浮かべてへたりこんでいるナタリアや侍女達の元へ。笑顔を浮かべながら。
「あなたがちゃんと報告すればこんな事にはならなかったのよ」
「わ、私は命令で仕方なく……」
「違うわよね。ノリノリでやってたじゃない。それに、私の部屋の物を盗んでいたのはアレッサの命令じゃないでしょう」
「あ、あっ……わ、私は……」
「ふう、私はじゃないでしょう。そもそも一番アレッサの近くにいたあなたが辞めさせられた侍女達と一緒に報告してくれていればこうはならなかったのよ。けれども、それをせずに善良な侍女達を嵌めて追い出して。だから絶対あなたは許せないのよ。それとあなた達も」
そう言ってナタリアと侍女達を睨むと彼女達は力なく項垂れる。
やっと、罪悪感を持った表情で。
まあ、今更なんだけれどね。
そう思いながら次のアマリリスがいる場へ向かうと、彼女はすぐに作り笑いを浮かべてくる。
「ほほほ、メリー、私はアレッサ達に騙されたのよ。私は悪くないわよね?」
「騙されたですか……」
「ええ、だってみんなに証言されたのよ? それは騙されるわよね。だから、私は許してくれるわよね? メリーはとっても優しい娘だもの!」
「ふむ、でも、私が許しても世間はどう思うんでしょうね?」
「えっ……」
「今回の件は貴族社会には一気に広まる」
「つ、つまりは……」
「もう誰にもお茶会やパーティーに呼ばれないし誰も来ないってことよ。まあ、呼ばれても道化として呼ばれるでしょうけど」
私がそう言い終わるとアマリリスは真っ青になり膝を突いた。今日で華々しい伯爵夫人としての人生は詰みましたとばかりに。
ああ、ちなみに親戚もそうなる予定なんだけれど。
要は今日でロルイド伯爵とその親戚一同は貴族社会では詰みと。
アレッサの嘘を疑うそぶりすらなく一方的に信じて私を虐げたことによって。
つまりはあなたも……と、呆然と映像を見続けているエリンドに声をかける。
「お気に召しましたかロルイド伯爵」
「……こ、これは本当の事なのか? つ、作ったものじゃないのか?」
「本物ですよ。私の言葉を信じてくれますか?」
そう言って祈る様な仕草をするとエリンドは一番、馬鹿な選択をしてくる。「お、お前は魔導具作りだけは才能があったからな。き、きっとこれも私達を貶める為に作ったに違いない!」と。
まあ、予想通りではあったけれどね。
そう思いながらも呆れていると、ルーベントが人の波をかき分けるように入ってきて、周りに聞こえるぐらいの大声を出してくる。
「この映像が流れる魔導具は特許を取り、既にアガステラ王国で正式採用されているものです。そして、これを開発したのがこちらにおられるアガステラ王国の名誉国民であり、我が国の魔導研究所の所員でもあるメリー氏なのです」
つまりこれは真実の映像であり、ロイド伯爵家は沢山の人々の前で恥を晒したと。
それも言い逃れできないぐらい……と、私はルーベントの言った意味を理解した様子でふらふらしながら尻もちをつき、項垂れるエリンドの側に向かう。
もちろんトドメを刺しに。
「あなたは私や辞めさせられた侍女達の言葉をちゃんと聞きませんでしたよね? アレッサは体が弱い、アレッサはそんな事言わない、アレッサを虐めるなでしたっけ? 話は聞いてくれたけど全く調べませんでしたよね。つまりは、こうなったのはあなたの責任では?」
「私の責任……」
「ええ、そうです。だから、これからしっかりと責任を取って下さいね」
更にはそう言うと呆然と立ち尽くしているアレッサの元にも。
「アレッサ、私との遊びは終わりよ。これからは自分がし出かした事に向き合って生きていきなさい」
そう言うために。
ただし、これでやっと終わった……とはならなかったが。
「……いやよ。壊れるまで遊んでないもの。ねえ、遊びましょうよメリー。もっともっともっともっと虐めたいのよ! ねえ、メリー! 私のおもちゃメリー!」そう最後の悪あがき? をしてきたので。目を見開きながらこちらに向かってきて……と、私は魔力を体に流す。
そして、積年の恨みつらみを込め、思いきりアレッサの頬にびんたを。
しかもスナップ付きで……と、「ぶへええぇっ!」と、アレッサは勢いよく縦回転しながら地面に穴を空け、膝まで埋まっていく。
立ったまま白目をむいて。
「つまりはこれでロルイド伯爵家の断罪ショーは終わりと」
私はみんなに頭を下げる。
ただし、拍手は巻き起こらなかったけれど。
現在、先生や生徒同士の不貞行為が絶賛流出していたので。
「今、映像に流れた教師や生徒は学院から去ってもらいます。これは特命ですよ。意味はわかりますね。ああ、それと映像はしっかり保護者の皆様とあなた方の婚約者に見せますから」
しかも、サマンサ学長がそう言うなり先生や生徒の三分の一は絶望的な表情でへたりこみも。
「つまりは劇を最後まで見ている暇はないと……」
私はそう呟きながらも笑みを浮かべる。
そして、嬉しそうに駆け寄ってくるサマンサ学長に向かって片手を上げも。
きっと、ノリノリでハイタッチをしてくれるだろうから。我々の勝利を祝わんばかりに。




