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バルサ王国魔導学院は今日も様々な場所でいつも通りに不貞行為が行われていた。
その中には当然ジョッシュと姉であるアレッサも。
中庭で人目もはばからずにイチャイチャと……
「もう、メリーが居なくなって一週間経つね。やっぱりあんな酷いことしたから捕まったのかな?」
「でも、私のおもち……大切な妹だから心配で……」
「アレッサ。やはり君は優しくて素敵な女性だね」
「そんな……私は体が弱いだけの女よ」
「いや、絶対にそれは違う。僕の愛しいアレッサ」
「ああ、ジョッシュ」
そして二人は顔を近づけキスを。直後、二人の前に私は飛び出したが。
「浮気現場発見。しかも校内でやるなんて最低ね」
そう言いながら。
これで証拠も揃ったしはい、終わり……とはもちろんならず。
何せ、全く動じていなかったので。驚き飛び上るジョッシュを押しのけ、おもちゃを見つけた子供の様な顔で駆け寄ってくるアレッサを見たので……と、私はすぐさま魔法を唱える。
「エアーシールド」
もちろんアレッサが近づけないよう風の盾を出すために。きっと、面倒なことになるので。
「なんで! なんでよおぉ! 意地悪しないでよおぉぉ!」
ほら、こうなるからと、私は小さく息を吐く。目の前で風の盾を激しく叩くアレッサを見ながら。
それと……演技力が落ちたなあとも。
だって、被害者を演じているはずなのに彼女の表情は口元が歪みきり、なおかつ目元が笑っていたので。
つまり今の彼女は虐める側である本来の表情になっていると。
それも人目もはばからず……
ただ、すぐに「一週間! 一週間我慢したのよおぉーー!」と、叫ぶ彼女に演技が下手になった理由を理解することができたが。禁断症状に負けてしまったのだと。
私が現れたことによって……と、今では不気味な笑みを浮かべ必死に風の盾を叩き続ける哀れな姉を見つめる。
そして、一週間も離れて暮らしたので冷静にアレッサを見ることができ、なんとなく彼女のことを理解も。
要は変に頭が回るタチが悪い子供なんだと。
そして、段々と歯止めが利かなくなってしまった……
そういうことなのだろうとも。
まあ、ただし……
「やあ、メリー、心配したんだよ」
この男はただの甘ったれなだけだろうけれど、そう思いながら私は視線だけ向ける。
「心配してる人が不貞行為をするかしら?」
そう尋ねながら。
「不貞行為? なんの事だい?」
そして、こう言ってくるのも理解しながらと、とぼけた表情をするジョッシュから私は視線をずらす。
私と遊べると理解したのかすぐに悲しそうな表情を浮かべるアレッサの方に。
「そうよ。私とジョッシュはあなたが心配すぎて慰め合ってたのよ。それを不貞行為なんて……あんまりじゃない!」
「そうだぞ、メリー。こんなにも僕達が心配していたのに!」
「ふう、相変わらず強引ね。まあ、でも良いわよ。今の行為だけは許してあげる。百万歩譲ってね。ただし……残念ながら他の人は許さないと思うけれど」
すると、待ってましたとばかりに眉間に皺を寄せたサマンサ学長がこちらに歩いてくる。
そして、側に来て立ち止まるなり口を開きも。アレッサとジョッシュを睨みながら。
「あなた達がしたのは校則違反です。はっきり言いましょう。今日付けであなた達は退学処分とします」
つまりはバルサ王国魔導学院の消毒作業の開始を。
まあ、二人はポカンとした表情をするだけだったが。何も理解していない様子で……と、思っているとジョッシュの思考がやっと追いついたらしく怒った表情で言い返してくる。
「何を言い出すかと思いきや、そんな事できるわけないだろう。こんなの僕達以外もやっているんだぞ。それにそんな事をしてみろよ。貴族を敵に回すぞ?」と、さらっと不貞行為を認めながら脅迫行為までして……と、サマンサ学長は毅然とした態度をとる。
「そんなの怖くありません。それとあなた達みたいに校則を乱したものは全員退学にさせるから」
「なっ、そんな事……」
「やれるのよ、ジョッシュ」
私が途中で口を挟むとジョッシュは驚いた顔をする。
すぐに私達を交互に睨んできながらわかりやすい程の権力乱用をしてきたが。
「仮に他の奴を退学させても僕だけはできるわけがないだろう。何せ、僕はこのバルサ王国に支える宰相の息子、アルタール公爵令息なんだからな!」と。
徐々に自信が出てきたのか更には不敵な笑みを浮かべて。
まあ、ただ、ジョッシュのこの発言は想定内だったけれど。
そして、隣にいて権力だけは理解できるらしく悲しげな表情を浮かべながらも器用に口角を上げているアレッサの行動も。
いつも通りに逃げ切れるから今のこの状況を心の底から楽しんでいるのだろうと。
これから二人にとって終わりが来ることも知らずに……と、私は指を鳴らす。二人に現実を教えてくれる人、怒りの表情を浮かべたアルタール公爵を呼ぶために。
「ジョッシュッ!」
ただ、ジョッシュはそれでも理解していないのか手を振り駆け寄っていってしまったが。「あっ、父上! いやあ、酷いんですよ。学長が僕達を退学……ぐげえっ!」と、殴られに。
しかも、魔力込みのと、ジョッシュはかなりの距離を吹っ飛んでいく。途中で私の風の魔法によって飛ぶ方向を調整され顔が私の足の裏に当たるように。
「ぶべっ! な、何をするんだメリー!?」
「あら、元気ね」
「あら、元気ね、じゃない! 僕の顔を踏みつけやがって!」
「良いじゃない。それより……」
私は時計を見た後に笑みを浮かべる。
解放を感じながら。
「時間ね。ジョッシュ、今を以てあなたと婚約破棄になったわ。ああ、もちろん理由はあなたの不貞行為だけど」
「なっ、ふざけるな! なぜ、僕の所為になるんだよ!? 悪いのは全部メリーだろう! そうですよね父上!」
「この大馬鹿者が!」
「ち、父上……」
「婚約破棄にお前の退学は決定事項だ。それと……アルタール公爵家はその内、弟夫婦に譲る事になり、お前は廃嫡となる」
「そ、そんな……」と、ジョッシュはよろめく。ショックを受けた表情で……と、私は魔法で座り込ませないようにする。
まだ続きがあるから。
「お前とアレッサ・ロルイド伯爵令嬢との不貞行為も知っている。本当にお前には心底がっかりだ……」
最後の一撃が……と、ジョッシュは絶望感に包まれた表情で顔から地面に叩きつけられる。
もちろん私の魔法で。
「ぐえっ」
そして、彼の後頭部に足を乗せながら「さあ、ジョッシュは終わったから次は姉さんの番よ」と。
ある方向を見ながら……と、騎士達が縛り上げたナタリアを含む侍女達を雑にアレッサの前に放り投げる。
更に騎士の一人が笛を吹いて先生や生徒達を集めも。
その光景を見たアレッサは突然、顔を両手で覆ったが。
「なんで、酷い事をするのよメリー! 私を虐めて何が楽しいのよ!?」
つまりは可哀想アピールをして仲間を呼ぶために……と、早速、釣られた男子達とボラルまでやってくる。
そして、いつも通りの言葉が。
「また、君の妹が虐めているのか!」
「全く酷い女だ!」
「姉と違ってパッとしない顔が!」
まあ、今日は若干、一名が関係ないことを言ってきたが……とボラルを人睨みした後、私はナタリアの方を向く。
ここに集まった連中に真実を教えなさいと、心の中で……いや、証拠の映像を見たはずなのにまだ被害者のように震えてる彼女を見てつい口に出してしまう。足に力を入れながら。
「ねえ、何か言うことがあるでしょう?」
積年の恨みを込めて……と、ナタリアは勢いよく立ち上がる。
「わ、私は長年、アレッサお嬢様と一緒になってメリーお嬢様を虐げていました」
「あれ、あなた一人だけ?」
すると他の侍女達も勢いよく立ち上がる。
「私達はメリー様に嫌がらせをしていました」
「部屋にある物を盗みました……」
「どうかお許し下さい……」
そして、一斉に私に頭を下げてきて。勢いよくと、周りにいた連中は早速、戸惑い始める。
「メリー! ナタリア達に酷いことをして言う事を聞かせたのね! 誰か助けてあげて!!」
そうアレッサが言ってきても。
何せ、騎士団が私を守る様に立っていたから。
正しい方はこちらだと宣言するように……と、アレッサは焦った表情を浮かべる。私が今まで見たことのないほど。
つまりはもう少しで皆に彼女の本当の姿を見せれると。
「やっとね」
そう呟き、再び指を鳴らす。
何も知らないエリンドとアマリリスを呼ぶため……と、すぐに二人は騎士達に連れられてくる。
なぜ、呼ばれたのかわからないという表情で。
まあ、それでいいのだけれど。
ロルイド伯爵家の断罪ショーをするためにはね。
そう考えながら私は集められた連中を見て目を細める。




