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 突然のバルサ王国騎士団の乱入に屋敷内は、大混乱になった。


「な、なぜ、勝手に騎士団が入ってきたんだ⁉︎」


 エリンドが慌てた様子で騎士に詰め寄る。すると騎士の後ろから、気品ある服装をした美丈夫が前に出てきた。


「メリー・ロルイド伯爵令嬢に用がありまして」


 その人物はそう言って私を見つめてくる。すると、エリンドはハッとした表情になり私を睨んだ。


「お前は何かしでかしたのか⁉︎」


 するとアマリリスは大袈裟に驚き、侍女達はニヤニヤとしだした。

 しかし、私は何かをした記憶がないので頭を振る。もちろん信じていないエリンドは怒った顔で懲りもせずにまた私に手を伸ばしてきたのだ。

 だが、寸前でその手は美丈夫により掴まれる。


「勘違いしないで頂きたい」

「じ、じゃあ、なんなんだ?」

「特命ですから言えません」

「特命? 王命より上の?」

「ええ、だから、何も言えません。なのであなた達は静かにしていて下さい。これも特命です」


 美丈夫は掴んでいた手を離すと、私の方に向き直る。


「今はルーベントとしか名乗れません。メリー・ロルイド伯爵令嬢、ご同行をお願いできますか?」

「メリーで良いですよ。もちろんです、行きましょう」


 そう返事するとルーベントは頷き、私をエスコートするように歩きだした。すると特命で静かにしろと言われていたのにアレッサが私の方に駆け寄ってきたのだ。


「メリー! あなた遂に捕まってしまうのね! ああ、なんて可哀想な子なのおぉぉ!」


 アレッサはそう叫ぶと、全ての悲しみを背負って生きてます……みたいな表情を浮かべた。するとルーベントがポケットから懐中時計の様なものを出しアレッサの方に向けた後、溜め息を吐く。


「なるほど、手紙の通りだな……」


 そう呟いた後、ルーベントはアレッサを無視して再び歩きだした。アレッサは不満気に何か言おうとしたが騎士に阻まれてしまう。そんなアレッサに私は呆れながらも仕方なく口を開く。


「特命がなんなのか後ろにいるお父様に聞いておきなさい。自分がした事がどれほど馬鹿なことかわかるから」


 そう言ってアレッサが答える前にさっさとその場を後にした。隣でルーベントが興味深そうに見てくる。


「なかなか、お強いですね」

「そうじゃないと、ここではやっていけませんでしたから……」

「……そうでしたか」


 ルーベントはそう呟くと私を興味深そうに見ていたが、すぐに私を守るように前に出た。しかし、私は後ろから飛び出すと近づいてきたドノバンとダンに手を振って駆け寄る。


「二人共どうしたの?」

「メリーお嬢様が心配で……」

「……また、何かされたんですか?」


 心配そうに見つめる二人に私は頭を振る。


「違うわ。彼らは私を助ける為に来てくれたのよ」

「そうだったんですかい。ワシらてっきりメリーお嬢様が嵌められたと思って……」

「ああ、アルフみたいに……」

「やっぱり、アルフはそうなのね……」

「侍女達がアルフに襲われたと訴えられたくなければ、言うことを聞けと……」

「全く、最低ね。でも、安心して。アルフもあなた達もこれからは心配しなくても大丈夫よ。私がなんとかしてあげるから」


 すると二人はほっとした顔になり手に持っていた袋を渡してきた。


「ワシからは新鮮な野菜です。そのまま食べられるのを入れておきました」

「俺からはサンドイッチに飲み物を入れてます」

「二人共ありがとう」


 私は頭を下げるとルーベントに頷く。


「ごめんなさい、お待たせしました」

「いえ、あなたが聡明な方だと知れて良かったです」


 ルーベントはそう言うと微笑みながら、私を馬車に案内するのだった。



 私達はあれからバルサ王国魔導学院に向かった。目当ては私の魔導具の回収とサマンサ学長に会うためである。私はルーベントと彼が信用できると言った騎士を連れ、特別室に向かっていたが担任のボラル先生が険しい表情で呼び止めてきたのだ。


「おい、待てお前! 誰だそいつらは!」


 私は無視して歩くと、怒ったらしいボラルが駆け寄って怒鳴ってきた。


「俺が待てと言っているのに、なぜ無視をする!」

「あら、私だったのですか? ボラル先生」

「当たり前だろ! 生徒のくせに生意気だぞ!」

「担任であるのに未だに名前を覚えられない人がよく言いますね? まあ、実力がないのにコネで入ったのだから仕方ないですよね」

「なっ、貴様!」

「良いんですか? 私、ボラル先生が生徒と遊んでいるのを、遊んでいる生徒の婚約者達につい口が滑って言ってしまうかもしれませんね」


 私がそう言って指を折り始めると、ボラルは顔を真っ青にして逃げ出してしまう。その様子を見ていたルーベントが頭を抱えてしまった。


「バルサ王国はここまで酷いのか……」

「生徒がいる時はもっと凄いですよ。そこら中でくっついてますからね」


 私が肩をすくめるとルーベントが聞いてきた。


「校則とかはないのですか?」

「ありますけど、取り締まる者が少なすぎるんです。これも、二年前に第三王子が真実の愛事件をやらかしたのが原因なんですよ」

「ああ、こちらまでその話は来てましたが有耶無耶になってますよね?」

「ええ、第三王子が婚約者を断罪して平民の娘と真実の愛に目覚めたって宣言したんですけど、その後、結局破局ですよ。ただ、バルサ王国では本人達はまだ真実の愛を育んでいる事になってます」

「バルサ王国の恥を隠す為ですね……。それで第三王子と平民の娘はどうなったのです?」

「第三王子はグレンジャー辺境伯が持つ騎士団で魔物の解体や下働きを、平民の娘は強制労働をするアリス修道院へ……」

「うわっ……。二人ともお気の毒に……」

「首を落とされて見せしめにされないだけマシですよ。おかげでバルサ王国は真実の愛ブームが巻き起こって、この二年間そこら中、浮気だらけですよ」

「なるほど……」


 ルーベントは呆れた表情になり、後ろにいた騎士を見ると申し訳なさそうな表情を浮かべ頭を下げてくる。


「私の婚約者もブームに乗って今は修道院ですよ……」

「そ、そうなのか……」

「修道院か出来ちゃった婚コースの二つしかないですからね。だから修道院から苦情が来てるんですよ。坑夫か娼館にでも入れろって」

「修道院がそこまで言うのか……」

「はい、なので王家は浮気された人々からかなり恨まれていますよ……」


 騎士が俯くとルーベントは眉間に皺を寄せ私を見る。


「なら、今回の件で王家にも責任を取らせましょう」

「もちろん、そのつもりですよ」


 私が微笑むと、ルーベントはなぜか悲しそうに私を見つめるのだった。



 私達は特別室に到着したのだが中に入った瞬間ルーベントが目を輝かせ、辺りに散らばっている魔導具や設計図をあさり出してしまう。


「す、凄い! 設計図も色々な花の形にしている! 流石は花の魔導姫ですね!」

「えっ? ハナノマドウキ?」

「その設計図の美しさ、そして花の模様、私達魔導具作りをする者の中であなたは花の魔導姫と呼ばれているのですよ!」


 ルーベントはかなり興奮して近づいてくる。その整いすぎた顔が迫ってくるのだ。私は心臓がバクバクして思わず一歩下がってしまった。


 近い! 近い! くうっ、なんて美しいお顔。

 姉さん以上ね……


 そんな事を思いながらルーベントの顔を堪能させてもらう。すると、ルーベントは慌てて下がる。


「す、すみません。つい興奮してしまいました。それにしても、凄い数ですね」

「半分はガラクタです。残りもまだ、ほとんどがテスト段階でして……」

「なるほど、でも全て持っていきましょう。あなたが作ったものですからガラクタでも大変価値がありますよ」


 ルーベントは微笑む為、私はまたドキッとしてしまうのだった。


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