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「メリー、もう私や侍女達を虐めるのをやめて欲しいのよ」

「何度も言ってるけど私は虐めてないわよ。逆にあなた達から長い年月激しい嫌がらせは受けてますけど。それで、今回は一気に来てるみたいだけど何が狙いかしら?」

「……何を言っているかわからないわ。もしかしてあなたは勘違いして私達を虐めてるの⁉︎ それならもうやめてよ! 私達を許して!」


 アレッサは頭を振った後、泣き叫ぶ。完全にアレッサが力技で話を自分路線に変更してきたのだ。

 そして、それをカバーするかの如くナタリアが言ってくる。


「お願いします! メリーお嬢様! どうか、どうか私達をお許し下さい!」


 ナタリアがそう言うと同時に他の侍女が滑り込むようにナタリアの横で跪く。見事な連携プレーである。魔物退治に出たら絶対活躍しそうな部隊ばりの動きである。

 そんな見事な侍女部隊を指揮する司令官アレッサはナタリアを後ろから抱きしめ涙を流した。


「ごめんなさいね。あなた達を守れない不甲斐ない姉で……」

「何を言い出すのです。アレッサお嬢様。全ては私達の出来の悪さが起こしたことなんです!」

「ああ、ナタリア!」

「アレッサお嬢様!」


 そして二人は歌い出す……事はなく涙を流し見つめあっていると、見事に二人に釣られたアマリリスが涙を流し二人を抱きしめた。


「ごめんなさいね。二人とも。後は私達に任せなさい」


 アマリリスはそう言って二人の頭を撫でた後、私を睨んだ。


「メリー、みんなに謝りなさい……」

「何に対して謝るのですか?」

「今の二人の話を聞いてなかったの⁉︎」

「聞いた上で言ってます」

「こんな子だったとは……。知ってたら産まなかったわ」

「……」


 私はアマリリスの言葉に固まってしまう。ここまでの言葉は初めて聞いたから。じゃあ、悲しくなったのかといえば違う。

 純度百パーセントの怒りである。だから、言い返す。


「……私もこんな家だとわかっていたら、生まれたくありませんでした」

「なあっ⁉︎」


 アマリリスは目が飛び出さんばかりに目を見開く。


 いや、おかしいでしょう。自分で酷い事を言っておいて自分が言われたらそれですか。馬鹿ですか? あなた馬鹿ですか?


 そう思いながらアマリリスを見ているとショックを受けたのか座り込んでしまった。するとエリンドは怒りの形相で私に掴みかかってきた。


「お前は母親に対してなんて事を言うんだあああぁ!」

「いやいや、先に酷いこと言ったのそっちでしょう」


 私はそう言いながら、体中に魔力を流し身体能力を高めるとエリンドの腕を掴んで捻り上げる。


「ぐわああああっ! 何をする⁉︎」

「正当防衛です」

「は、離せ!」

「正当防衛ですよ」

「た、頼む!」

「正当防衛ですが何か?」

「わ、わかった。悪かった」


 エリンドは謝ってきたので手を離すと、相当痛かったのか涙目になっていた。その光景を見ていた侍女達は顔が真っ青になり始めてしまう。小娘一人じゃ何もできないと思っていたからだろう。

 だが蓋を開けたら両親? えっ、ムカついたらやれますよって事がわかってしまったのだ。私は侍女達を見て口角を上げた。


「あれれ、どうして顔が真っ青なのかしら? 今ってそういう化粧が流行ってるのかしら?」


 しかし、侍女達は初めて本当に震えたのだろう。歯をカチカチと鳴らし、涙目に鼻水が垂れていた。だが、そんな中でも我が姉は健在である。

 私を見て一瞬ニヤッと笑った後、悲しげな表情を作った。


「その動き……。やっぱり、あなたは暴力を振るっていたのね……」

「いやいや、護身術は淑女の嗜みでしょう。特にこの屋敷内では……。ああ、姉さんは寝技専門ですものね」

「そうなの、私は体が弱いから寝ながらみんなと話すしかできないのよ」


 アレッサはそう言った後に咳き込む。今の言葉は場合によってはかなり危ういのに、咳き込む事でアレッサは体が弱いからベッド上でしか話せないという解釈に持っていったのだ。


「味方しかいない場所でも徹底しているわね。ねえ、姉さん、あなたはいつも私に絡んでくるけど、何がしたいのかしら?」

「……何を言っているのかわからないわ。メリー、あなたがいつも私を虐めてるんでしょう。だから、私があなたにこうやってやめてと言いに来てるのよ。ねえ、どうして私を嫌うのよ?」


 あなたが嫌われるような事をしているからですよ……と言っても誰も信じないので私はアレッサの言葉を無視する。


「……これじゃあ話にならないわね。そうだ、私がここを出ていけばよくない? そうすれば全て解決よ」


 良いアイデアだとばかりに手を軽く打つとアレッサが叫んだ。


「駄目よ! あなたは一生、私に……私達姉妹じゃない!」

「うわあ、一生、私に、の後が聞きたいわ。多分、一生、私に虐められなさいってところかしら?」


 私がそう聞くと一瞬、何でわかったのみたいな表情をしてくるアレッサだったが、すぐに顔を両手で隠し叫んだ。


「駄目よ! 私達は家族よ。そんな悲しい事を言わないでちょうだい……」


 アレッサは最後は崩れ落ちるように項垂れる。まさに鬼気迫る迫真の演技だ。しっかりと釣られた両親がアレッサの肩に手を置き涙目になった。


「なんて優しい娘なんだ。私達のアレッサは……」

「ああ、全ての優しさがアレッサにいってしまったのね!」


 三人はそれから何故か上を見上げる。今まさにスポットライトが三人を照らしているような錯覚を受け、思わず私は拍手してしまった。


 パチパチパチと三人分の三回だけ。


「どうやら、ロルイド伯爵家の皆様は演劇に出られる才能をお持ちのようで……。それで、私が出ていけば全て解決するって話の続きをしたいのですがどうでしょうか?」


 そう言って手を前に出し演劇っぽくやって見せると、エリンドは気にいらなかったようで私に怒鳴ってきた。


「お前はふざけているのか! あんなにアレッサがお前の事を思っているのにまだその話をするのか!」

「しかし、私がここにいると一生、ありもしない虐め話が続きますよ? そうなると今日みたいな舞台劇を頻繁に行わなければいけなくなります。そのうち、あなた達の誰かが歌い出してしまいますよ?」

「ぐぐっ……」


 エリンドは歌うのが嫌なのか顔を歪め、アマリリスは喉に手を当てて声を出し始める。そんな中、アレッサがエリンドにしがみつきながら懇願しだした。


「私が全部悪いのよ。お父様、私が全て悪いことにすれば良いのです!」

「アレッサ……。いや、駄目だ。もう、許す事はできない! メリー!お前は一番厳しいと言われる修道院に入れる!」


 エリンドが私を指差すと、アマリリスと侍女達はほっとした顔になったが、アレッサは凄い形相になるとエリンドの体を這うように登り、耳元で叫んだ。


「何を言っているんですか! メリーは私のおもち……大切な妹よ!」


 一瞬、おもちゃと聞こえた気がしたが、エリンドの都合の良い耳には聞こえてなかったらしい。


「アレッサ、お前は優しすぎる。だから、私が心を魔物のようにしなければならないのだよ」

「し、しかしお父様!」

「安心しなさい。修道院へ行っても面会はさせてあげよう。それとメリー、お前には修道院へ行っても魔導具作りはさせるからな!」

「うわっ、そこは忘れてなかったのですね……」

「当たり前だ! 王家もそれならお許しして下さるだろう。お前は一生、魔導具を作り続けながら罪を償うが良い!」


 エリンドはそう言ってアレッサがしがみついた状態で、再び指を指してこようとした瞬間、執事のアルフが慌てた様子で飛び込んできた。


「旦那様! バルサ王国騎士団が!」

「バルサ王国騎士団? どういうことだ?」


 エリンドがそう言って首を傾げた時、バルサ王国騎士団が部屋に雪崩れ込んできたのだった。


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