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「メリー、もう、私や侍女達を虐めるのをやめて欲しいの」
つまりはお得意の断罪劇をするために……と、冷静に判断しながら私は腕を組む。
それから劇に付き合う気もないので単刀直入に会話を終わらせにいきも。
「何度も言ってるけど私は虐めなんてしいない。それどころかあなた達から長い年月、激しい嫌がらせは受けてますけど。そして、今もね。で、今回は一気に来てるみたいだけど何が狙いかしら?」
ずはりと質問を。
ただ、アレッサは劇を続けたいのか「……何を言っているかわからないわ。もしかしてあなたは勘違いして私達を虐めてるの!? それならもうやめてよ! 私達を許して!」と、力技で話を自分路線に変更してきたが。
しかも、泣く演技付きでと冷めた視線を送っていると、今度はナタリアが前に出てくる。アレッサをカバーするかの如く。
「お願いします! メリーお嬢様! どうか、どうか私達をお許し下さい!」
更には他の侍女達が滑り込むようにナタリアの横で跪くという見事な連携プレー、魔物退治に出たら絶対活躍しそうな部隊ばりの動きを見せてきて。
ただし、無理矢理だけど。こっちは見たくもないのに。
私を貶めるとか関係なく、下手な劇は……
特にナタリアの側に向かっていく私が主役よとばかりに下手な演技をするアレッサなんかはと思っていると、今度は見せ場みたいなのが始まってしまう。
「ごめんなさいね。あなた達を意地悪な妹から守れない不甲斐ない姉で……」
「何を仰られるのですか、アレッサお嬢様。全ては私達の出来の悪さが起こしたことなんです!」
そして「ああ、ナタリア!」と、後ろから彼女を抱きしめ二人して歌い出し……いや、上を見上げて。
やっとフィナーレ……いや、違ったわねと視線をアマリリスの方に向ける。
案の定、下手な演技に釣られ、涙を流しながら二人を抱きしめにいったので。
「ごめんなさいね。二人とも。後は私達に任せなさい」
そして、二人の頭を撫でた後に今度は私の番とばかりに睨んできて。
「メリー、みんなに謝りなさい」
いつもの台詞を……と、私は首を傾げる。
「何に対して謝るのですか?」
「今の二人の話を聞いてなかったの!?」
「聞いた上で言ってますけど」
「はあっ、こんな子だったとは……。知っていたら産まなかったわよ」
「はっ……」
知っていたら産まなかったですって……と、思わず私は絶句する。
何せ、ここまでの言葉は初めて聞いたので。全否定してくるような。
まあ、ただし悲しくなったのかといえば全然で、むしろ純度百パーセントの怒り……と、私も言い返したが。
「私もこんな家だとわかっていたら、生まれたくありませんでした」
本当、最低な親って思いながら。
特に目を飛び出さんばかりに見開き「なあっ!?」と、自分から酷い事を言っておいて言われたら驚いてしまう姿を見たらなおさら。
あっ、更に徐々にショックを受けた表情にも……と、私は心の中で馬鹿ですか? あなた馬鹿ですか? そう言ってしまう。
ついには力なく座り込んでしまう彼女に蔑んだ視線も。
「お前は母親に対してなんて事を言うんだあああぁ!」
ああ、ついでにエリンドが怒りの形相で私に掴みかかってきたことでつい笑いそうになってしまいも。
「いやいや、先に酷いこと言ったのそっちでしょう」と、魔力で身体能力を高めてエリンドの腕を捻り上げながら。
「ぐわああああっ! 何をする!?」
もちろんと私は答える。
「正当防衛です」
「は、離せ!」
「正当防衛ですよ」
「た、頼む!」
「正当防衛ですが何か?」
「わ、わかった。悪かった」と、エリンドが情け無い顔で謝ってきたので私は少し間を開けてから仕方なく手を離す。
それから、顔を真っ青にさせながらその光景を見ていた侍女達に笑みも。
小娘一人じゃ何もできないと思っていたら、両親? えっ、ムカついたらやれますよ。
あなた達もね、と私は口を開く。歯をカチカチと鳴らし、涙目と鼻水を垂らす演技ではない本当の震えを知ってしまった侍女達に向かって。
「あれれ、どうして顔が真っ青なのかしら? 今ってそういう化粧が流行ってるのかしら?」と、今まで彼女達によって溜まってしまった鬱憤をぶつけながら。
ただ、すぐに気持ちを切り替え冷静に努めたが。
そんな中でも我が姉は健在だったので……と、アレッサは一瞬ニヤッと笑った後に悲しげな表情を作ってくる。
「その動き……。やっぱり、あなたは暴力を振るっていたのね……」
「いやいや、護身術は淑女の嗜みでしょう。特にこの屋敷内では……ああ、あなたは寝技専門ですものね」
「そうなの、私は体が弱いから寝ながらみんなと話すしかできないのよ」
アレッサはそう言った後に咳き込む。
今の言葉は場合によってはかなり危ういのに、咳き込む事でアレッサは体が弱いからベッド上でしか話せないという解釈に持っていくために。
高等技術を……と、私は再び尋ねる。
「味方しかいない場所でも徹底しているわね。ねえ、お姉様、あなたはいつも私に絡んでくるけど、何がしたいのかしら?」
「……何を言っているのかわからないわ。メリー、あなたがいつも私を虐めてるんでしょう。だから、私があなたにこうやってやめてと言いに来てるのよ。ねえ、どうして私を嫌うのよ?」
ふう、それはあなたが私に意地悪するからでしょう……とは答えずに私は別の言葉を出す。
「これじゃあ話にならないわね。そうだ、私がここを出ていけばよくない? そうすれば全て解決だし」
我ながら良いアイデアだとばかりに手を軽く打つと、なぜかアレッサは勢いよく首を横に振ってくる。
「駄目よ! あなたは一生、私に……私達姉妹じゃない!」
一瞬、本音を滲ませて……と、私は呆れてしまう。
「うわあ……。もしかして一生、私に虐められなさいってところかしら?」
すると、何でわかったのみたいな表情をしてくるアレッサだったが、すぐにはっとすると慌てて顔を両手で隠してしまう。強引に泣いてるよう見せるため。
「駄目よ! 私達は家族よ。そんな悲しい事を言わないでちょうだい……」
つまりは家族に見せるために、そう思っているとアレッサはダメ押しとばかりに崩れ落ちるように項垂れる。まさに鬼気迫る演技で。
もちろん彼らを騙して復活させるために。
そう考えていると、早速、釣られた両親がアレッサの肩に手を置き、涙目で口を開く。
「なんて優しい娘なんだ。私達のアレッサは……」
「ああ、全ての優しさがアレッサにいってしまったのね!」
そして、何故か三人で上を見上げて……
あっ、きっと、これが見せ場なのね……と、仕方なく脳内でスポットライトを浴びせてあげながら私は拍手してあげる。
パチパチパチと三人分の三回だけ。
「どうやら、ロルイド伯爵家の皆様は演劇に出られる才能をお持ちのようで……。それで、私が出ていけば全て解決するって話の続きをしたいのですがどうでしょうか?」
そう言いながら……と、私も手を前に出し演劇っぽくやって見せると、エリンドはなぜか気にいらなかったようで怒鳴ってくる。
「お前はふざけているのか! あんなにアレッサがお前の事を思っているのにまだその話をするとは!」
「でも、私がここにいると一生、ありもしない虐め話が続きますよ? そうなると今日みたいな舞台劇を頻繁に行わなければいけなくなりますから、そのうち、あなた達の誰かが歌わなくてはいけなくなりますよ?」
するとエリンドは歌うのが嫌なのか顔を歪め、アマリリスは喉に手を当てて声を出し始める。
ただ、そんな中、アレッサがエリンドにしがみつきながら懇願しだしたが。
「私が全部悪いのよ。お父様、私が全て悪いことにすれば良いのです!」
つまりはちょっとやりすぎたから修正をかけに……
まあ、失敗したみたいだけれど。
「アレッサ……。いや、駄目だ。もう、許す事はできない。メリー、お前は一番厳しいと言われる修道院に入れる! わかったな!」
そう言ってエリンドがアレッサのお願いを初めて拒否したので。しかも、修道院なんかに行くつもりはないけれど私を家から切り離してくれるという理想の形で。
つまりはアレッサとも……そう思った直後、彼女が凄い形相でエリンドの体を這うように登っていく。
「何を言っているんですか! メリーは私のおもち……大切な妹よ!」
更には耳元でそう叫びも。
一瞬、おもちゃと聞こえた気がしたが……と、思っているとエリンドの都合の良い耳にはどうやら聞こえていなかったらしい。
「アレッサ、お前は優しすぎる。だから、私が心を魔物のようにしなければならないのだよ」
「し、しかしお父様!」
「安心しなさい。修道院へ行っても面会はさせてあげよう。それとメリー、お前には修道院へ行っても魔導具作りはさせるからな!」
「うわっ、そこは忘れてなかったのですね……」
「当たり前だ! 王家もそれならお許しして下さるだろう。だから、お前は一生、魔導具を作り続けながら罪を償うが良い。わかったな!」
エリンドはそう言ってアレッサがしがみついた状態のまま、こちらに指を向けてこようとする。自分も本当は劇に加わりたかったんだというような決めポーズをしながら。
まあ、ただし私以外は見ていなかったが。
「旦那様! バルサ王国騎士団が!」
そう叫びながら執事のアルフが慌てた様子で飛び込んできたので。
その後を追うようにバルサ王国騎士団も……と、突然の乱入に屋敷内は大混乱になる。




