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 翌日の朝、私は扉を激しく叩く音で起きた。


「旦那様がお呼びです」


 侍女はそう言うとさっさと私が返事する前に戻ってしまった。きっと私が返事をしたとお父様に言いに言ったのだろう。私は着替えると仕方なく書斎に向かった。


「お父様、おはようございます。お帰りになってたのですね」


 すると書斎に座っていたお父様は無表情で返事をしてきた。


「……ああ」

「それで、呼ばれた理由はなんでしょう?」

「……ナタリアが赤くなった頭を見せてきた。昨日、叩いたそうだな?」

「いいえ、叩いてません」

「だが、近くにいた侍女達は見てたと言っているぞ」

「お父様、何度も言いましたが侍女は全員共犯です。しっかりと調べて下さい」

「だが、アレッサも言ってるぞ。お前にいつもナタリアが叩かれて可哀想だと」

「お姉様は主犯ですからね」

「……また、それか」

「逆に私がナタリアを叩いたところをお父様は見たことありますか? おそらく見たと言っているのはお姉様と侍女だけですよね」


 するとお父様は無言で呼び鈴を鳴らした。すぐに執事のアルフが入ってくる。そんなアルフの表情を見て私は嫌な予感がしてしまった。

 そして、その予感はお父様の言葉で現実になってしまった。


「アルフがお前がナタリアを叩くとこを見たと言っている。アルフはお前と仲が良かっただろう。そのアルフが言っているんだ。これをどう説明する?」


 お父様はもう表情を隠さず冷たい目で睨んでくる。私はそんなお父様を気にせず、アルフを見ると顔を背けながら言ってきた。


「……メリーお嬢様が前に廊下で頭を叩いたのを見ました」

「……それは言わされているの? もし、脅されているなら教えて」

「い、いえ、脅されてはいません……」


 そうアルフは答えたが何かされたのは間違いなかった。しかしアルフの様子に気づく事もないお父様は私を睨む。


「こんな娘に育てた記憶はないんだがな……」

「育てた記憶?」


 私は突っ込みどころ満載の台詞に笑いそうになる。


 そもそも、私を育ててくれたのは辞めさせられた侍女達ですから。あなた達夫婦はまともに子育てなんかしてないでしょう……


 私はもう呆れてものも言えなくなってしまった。すると、エリンドは溜め息を吐きながら言ってくる。


「昨日アレッサから話があった。アルタール公爵令息に嘘を吹き込んでいたらしいな」

「……なぜ、私の婚約者である人がお姉様とお話をしているのでしょうね?」

「何を言っている。姉だから当然だろう」

「体をくっつけていてもですか? 学院では有名ですよ」

「アレッサは体が弱いんだ。アルタール公爵令息がそれを支えてくれてるだけだと言っている。逆に何故お前は信じてやらない?」

「それがおかしいのでしょう。何故、支える様な場面が頻繁に起きるのですか?」


 私がそう尋ねる。エリンドは一瞬黙ってしまったが私を睨むと怒鳴った。


「お前はいちいち突っかかるな! なぜ、アレッサのようにお淑やかな淑女でいられない!」

「お淑やかな淑女? 沢山の男に擦り寄るのがお淑やかなら私は淑女にはなりたくありません!」


 私がそう怒鳴り返すとエリンドは目を見開き黙ってしまった。そんなエリンドと俯いてしまっているアルフに私は心底呆れてしまう。


「……大事になる前に真実を見極めて下さいね」


 私はそう吐き捨てるように言うと、胸に付けていたバッジ型の魔導具を弄り、黙ってる二人を残して書斎を出ていった。



 あれから、朝食も食べずに学院に来ていた私は特別室にいた。事情を知っているサマンサ学長のご好意で小さい部屋を貸してもらっているのだ。

 ちなみに魔導具の開発という名目で、王宮にも泊まる許可をもらっている。つまり、私はバルサ王国で優遇されているのだ。


「はあっ、落ちつくわ!」


 部屋の中は魔導具と資料の山だが、私にとっては屋敷の一万倍落ち着く場所である。


 しかし、アルフまで落とされるとは……。このままだと、ダンやドノバンまで手を回され最悪とんでもないことになるわね……


 私は壁の側に置いてある鞄を見る。中には平民が着る服や日用品、それに当分生活できる分のお金が入っている。

 つまり、最悪は隣国のアガステラ王国に逃げるのだ。

 このバルサ王国はアガステラ王国の属国なので、最悪、アガステラ王国に逃げれば問題ない。アガステラ王国の怒りを買ったらこんな弱小国は三日も持たずに潰れるからだ。


 ただ逃げるのは最終手段。


 私は隠していたクッキーをいくつか頬張り、水で流し込むのだった。



 あれから教室に向かい、授業を受けていたが、今日は何故かみんなにじろじろと見られていた。


 何かしら……


 私は近くにいた多少、会話をする女子に小声で話しかける。


「ねえ、なんでじろじろ私を見るの?」

「なんか、あなたが試験を不正しているって噂になっているのよ」

「はっ?」

「あなたが頭が良いのを知っている私はそう思ってないんだけど、他の学生が疑心暗鬼になってるみたい」

「……そうだったの。信じてくれてありがとう」

「いいえ、ただ少しあなたと距離は取らせてもらうわ」

「ええ、その方がいいわ。ごめんなさいね」


 声をかけた生徒は返事を返してこなかった。私は思わず苦笑いする。その後、私の周りには誰も座らなくなってしまった。

 まあ、私としては授業は集中したいので気にならなかったが、私が気にするそぶりも見せなかったのがお気にめさなかったらしい。

 アレッサが帰り際、教室に入ってきて怯えた表情をしてきたのだ。


「私のノートはどこにやったの? お願い、返してよ!」

「いや、知らないし……」

「酷いわ、またきっと破り捨てたのね!」

「そもそも、お姉様は授業でノートをとってますか?」

「う、う、う、酷いわ! なんでこんな酷い仕打ちをするのよ!」


 アレッサは泣き崩れる。すると顔だけが取り柄の姉に騙された男子達がすぐに寄ってきて、慰め始めた。


「君の妹は酷いことをするね」

「こんな美しい人を虐めるなんて悪い奴なんだ!」

「もしかしてアレッサさんのノートを見てるから頭が良いんじゃないか⁉︎」

「ああ、だからだ……」

「姉は下から数えた方が早いわよ。ちなみに試験は実技もあるでしょう? あれはどう説明するつもり? 私に似た勉強ができる人にやらせてるのかしら?」


 途中遮るようにそう言うと、アレッサ頭良い説を信じ始めた連中は黙ってしまう。するとアレッサは力押しをしてきたのだ。


「酷いわ! 酷いわ! 勉強できなくなったのは頭を叩くからでしょ!」

「いやいや、一度だって叩いたことないし……。むしろ物を投げつけてくるのはそっちでしょうに……」


 しかし、美人対パッとしないは圧倒的に美人に軍配が上がり、教室中の男子生徒は私に敵意の眼差しを向けてきたのだ。

 そんな彼らに私は呆れていると、更に面倒な人物ジョッシュがやって来て私を睨んだのだ。


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