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エリンド&アマリリスside.
私達はあれから平民に落とされた挙句に領地の端へと追いやられていた。
今まで持っていた物も取り上げられ、小さな一軒家に放り込まれて……
つまりは仕事も財産も全て私の代わりに領地に来たアガステラ王国の使者のものに。
「しかも、今では経営も上手くいき黒字……だと」
「ああ、それと使者様がそのうち伯爵の地位に就くそうだ。あんたの代わりにな」そう言って見張りをしている引退間近の騎士がさっさと背を向けてしまう。
近くの街に遊びに行きがてら、ついでに情報を仕入れに行くというさぼりをしに行くために……
ただ、この時の私は怒りよりも頭の中が疑問だらけになっていたが。
なぜ、あの日、メリーの言葉を信じれなかったのだろうと。
そして、いつからそうなってしまったのかも……
うーーん、あっ……と、しばらくして思い出しすことができたが。幼い頃、アレッサがメリーが嘘を吐くと言い出してからだと。
つまりはかなり昔から私はアレッサの言葉を信じてしまったと……
アレッサの嘘によって。いや、他の侍女達も言っていたからあいつらも悪いな。
そして、本来ならあいつらを教育しなければいけないはずのこいつも……
そう思いながら私は欠けたコップをテーブルに叩きつける。
そして、側にいたアマリリスを睨む……前にこちらが睨まれてしまう。こんな事になったのはお前の所為だいう表情で。私がしたかった表情を……と、思わず立ち上がってしまう。
また罵倒してやろうか……と、まあ、考えるだけでする気はないのだが。やれば、また、報告を受けた見張りの騎士に叩かてしまうので。思いきりと、唇を噛み締める。
私はただの被害者であって、メリーに言われた言葉は間違っているんだと心の中で叫びながら。
「いや、今日はあえて言う! 私は……」
ただ、最後まで言うことはできなかったが。
部屋に先ほどとは別の騎士が入ってきたので。
「客人が来てる。さっさと外に出ろ」
しかも、そんなことを……と、私達は顎で行けと指示する騎士に内心悪態を吐く。
「あ、はいすぐ出ます」
そして、外へ出た直後、騎士の態度を許そうとも。
私達に雇われたという恩がある執事のアルフ、庭師のドノバン、料理長のダンが立っており、私達の姿が映るなり頭を下げてきたので。
昔のようにと、私達の目が輝く。
やっと迎えに来てくれたと思ったので。
そして、こんな生活とはおさらばだとも。
つまりは……と、私達は服をただし、久しぶりに人前で見せる威厳ある表情をする。
ふう、やっと恩返しに来たか。
まあ、遅かったが今日はすこぶる機嫌が良い。
だから許してやろう。
「ふむ、それで馬車はどこだ?」
「ええ、どこなの? もうあんな狭い部屋懲り懲りよ」
そう思いながら……と、私達の威厳に満ちた表情はしだいに崩れていく。嬉しさのあまり。
ただし、それもアルフ達が口を開くまではだったが……
「いいえ、私達は昨日を以てお暇を頂く事になりましたのでそのご挨拶に……」
「わしら一応、お二人には恩がありますからな」
「まあ、一応ですが……」
つまりは「な、なんだと!?」と、私達の頬の緩みは一瞬で消えさり頭の中ではいったい誰が迎えに? と疑問だらけに。
何せ断絶された親戚や祖父母は来ないだろうから。そして友人達も。
ええと、そうなると……お、おいおい、お前達が居なくなったら誰も私達を救ってくれないじゃないか!
「ま、ま、ま、待て! 辞めてど、ど、どこに行くつもりだ!」
「私はアガステラ王国に新しくできた侯爵家の執事をする事に」
「わしはアガステラ王国の自然公園の一部の管理をすることに。一軒家まで用意してもらいましたよ」
「資金援助をして頂いて家族でアガステラ王国に引っ越して店を開きます」
「ま、まさかメリーなのか?」
私の言葉に三人は笑顔で頷く。
「裏切った私にさえ、こんな素晴らしい道を用意して頂けたのです。私が休みの日は誠心誠意、メリーお嬢様にお仕え致しますのでお二人共、ご心配なさらないで下さい」
「はあっ!?」と、思わず私は叫んでしまうが、アルフの目が若干怒りを含んでいたのでそれ以上は黙ってしまう。
すると、今度はドノバンが呑気そうに言ってきたのだ。
「いやあ、残り少ない人生、管理という名の散歩にのんびり野菜を育てる夢みたいな生活ができるんですよ。あっ、犬も飼う予定なんですよ。メリーお嬢様も遊びに来てくれるんで頑張って長生きしようと思いますわ! がはははっ!」
つまりは……自慢しに来たのかこいつは! と、今の不便な生活をさせられている私とアマリリスは怒りで思わず体を震わせてしまう。
まあ、今回も隣にいたアルフとダンの射る様な視線に文句は言えなかったが。
「アルフが今回行く侯爵家や俺の店にはあなた方が不当に解雇した侍女や料理人達が再雇用されてます。お二人共、メリーお嬢様があなた方の尻拭いをしている事を忘れないで下さいよ」
そうダンが冷めた口調で言ってきたので。ダメ押しと言わんばかりに……と、三人が私達に頭を下げ、さっさと帰っていく姿をただただ見つめ続ける。
私達の尻拭いをメリーがしている。
その言葉が私の胸をチクチクと刺してきながら。
まあ、しばらくはだったが……
何せ、アマリリスが私の袖を引っ張ってきたので。
「メリーに手紙を書きましょう。もしかしたら援助をしてくれるかもしれないわ」
つまりはナイスな案を……と、胸の痛みは一瞬で消え、私は大きく手を打つ。
「な、なるほど! では、早く書かねば!」
「ええ、一刻も早くここら出るために!」
私達はお互いに頷き合う。それから狭い一軒家へと駆け込んだのだ。
その様子を見ていた騎士が侮蔑の表情を私達に向けていたことなど知らずに。
その後、二人は何度も手紙を送ったが一向に返事は来なかった。
何せ、手紙は騎士の手によって破棄されていたので。
全てを。
だから、二人はしばらくして手紙を出すのを諦め、見窄らしい生活を受け入れたのだ。
毎日、涙しながら。
エリンド&アマリリスside.終
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ジョッシュside.
あれから僕はアガステラ王国にある収容施設で重い荷物を運ぶ仕事をさせられていた。
手首には犯罪者であることを証明する魔力を抑え込む腕輪型魔導具、そしてアガステラ王国民じゃないから着用義務がある位置情報と変なことをすると体中に激痛が走る首輪型魔導具が着けられて。
つまりは基本的に悪さをしなければある程度は外に出れると……
いやいや、やっぱり納得できない!
僕はそもそも犯罪者じゃないのに……と、首輪型魔導具はわかるけれど腕輪型魔導具を付けさせられたことに不満を感じてしまう。
そして、抗議したことを思い出しも。
あれは色々と仕事を教えてくれたからそのお礼に可愛がってあげようとしただけなのに。
だって、そうしてくるのは僕の事が好きだからだろう?
なのに、収容施設にいた女に手を出そうとしたって看守に思い切り殴られて挙句、腕輪型魔導具をはめられて……
しかも、人の優しさに付け込むなだと?
だって、アレッサならすぐにさせてくれたし、他の女だって……
いや、ただメリーだけが、全く触れさせてくれなかった……つまりはあいつだけが正しかったと?
そう思った直後、今は女達が誰も近づいてこようとしないし、話しかけても無視や罵倒されるという事実にその考えが正解だと悟ってしまう。
今更ながら……と、僕は頭からその考えを追い払う。
悟ろうが何だろうがやることは変わらないから。メリーへの慰謝料を支払うという現実を。
この収容施設で……って、僕は勢いよく走り出す。収容施設の裏側に来るなり思いきり叫びも。
「なんで、わざわざバルサ王国からアガステラ王国に連れてくるんだよ! 給金が良いからって理不尽すぎるだろう!」
つまりは誰もいない場所で不満をぶちまけに……と、思ったが残念なことに今日はいたらしく木の上から怖そうな中年男が飛び降りてきて「うるせえよ!」と頭を叩かれてしまう。
そして、じろじろ見てくるなり「おい、お前もしかしてバルサ王国から来たのか?」と。
なんとなく同じ雰囲気を出しながらと、僕はすぐに頷く。
「そ、そうです。あなたもですか?」
「おお、バルサ王国騎士団にいたがちょっと遊びすぎてな」
そして、案の定、元騎士の男は小指を立てニヤニヤしてくる。
要は不貞行為をしたと……僕と同じに。
「つまりはあなたも慰謝料を払うためにここへ?」
「ああ、三人分な。いやあ、参ったぜ。突然、捕まって半殺しに遭った後にすぐにここに放り投げられたからな」
「ははは……僕も同じようなものですよ」
「そうか、で、さっき叫んでたけど慰謝料払い終えたらどうすんだ?」
「えっ……」と、僕は驚く。
何せ、考えていなかったので。払い終えた後のことを。アルタール公爵家には戻れないし、ロルイド伯爵家とも縁を切られているから。
つまりは、ここ以外に居場所がないと……
探さない限りはと思っていると、憐れんだ目で男が言ってくる。
「俺は一生分遊んじまったからここで過ごすのも悪くねえと思ってる。品行方正に生きてれば三食寝床付きだ。悪くねえよ」
そして僕の肩を叩くなり去っていきも。
まるで、お前よりは幸せだと言われてるみたいで……と、男に叩かれた肩を払うようにした後、僕は怒りのあまり地団駄を踏む。
何がここで過ごすのも悪くないだ!
僕はお前と違ってまだ若いんだ!
未来があるんだよ!
そう心の中で叫びながら。
何度も地面を蹴って……と、途中、慌てて柱時計を見に行く。
それからある場所へ向かって走り出しも。
アガステラ王国魔導研究所へ。
まあ、ただし、研究所から百メートル以内には近づけないのだが。
しかも、ここの連中に見つかると強制的に激痛が襲ってくる仕様で……と、僕は隠れながら入り口辺りを見続ける。
昼食を食べに所員達が沢山出てくるなり目をこらしも。メリーを見つけるために……と、早速、彼女を探しだすことに成功する。
まあ、ただしここからが大変なんだが。
接触するためにはどうすべきか考えないといけないので。
なぜって、メリーならきっと助けてくれるはずだから。
元婚約者である僕への愛が心の片隅に残っているはずだから。絶対に……と、僕は何処の店に行こうか迷っているメリーを見つめる。
ずいぶんと綺麗になったなあ、と思いながら。
何せ、髪も肌も、それに昔と違い、今の自然と微笑んでいる表情もとても魅力的に見えたので。アレッサ達じゃ足元にも及ばないほどに。
そう、あいつらなんかよりも遥かに綺麗じゃないか!
くそっ、僕のものになったはずなのにアレッサの所為で!
僕は歯軋りしながらメリーを見続ける。
ただ、学院の中庭にいたいけすかない男がメリーに近づいていった瞬間、怒りが沸いてしまったが。
な、なんで、あいつがいるんだよ!?
しかも、馴れ馴れしく隣に並びやがって!
メリーは僕のものだぞ!
あ、メリーも微笑みかけるんじゃない!
僕というものがあるだろうが!
そう心の中で叫びながらと、思わず二人の前に出ようとする……が、僕はすぐに倒れてしまう。
男がこちらに視線だけ向け、あっちへ行けと手で払う仕草をした瞬間、体中に激痛が走ったから。
つまりは首輪型魔導具の機能が発動して叫ぶこともできず、地面をのたうち回ることに。
しかも気づくと反省室に入っており、看守に一週間はそこで過ごせと殴られてしまいも。
「なんでだよ。ただ、僕は! 僕は! ぶべっ!」と、したくないのに壁に後頭部をぶつけた挙句に床にキスまでも。前歯を一本失いながら。
「うるさい、この役立たず!」
後、余計な一言ももらいながら……と、僕は痛む後頭部と頬を押さえて泣き出す。
決してメリーに会うまで諦めないと心に誓いながら。
その後、ジョッシュは何度もメリーと接触を企てようとするが一回も成功することはなかった。
しかも、メリーには存在すら認識されずに。
それも一生……
何せ、二十年後、収容施設から出たジョッシュはバルサ王国へと強制的に帰らされ、そこでまたやらかし牢獄で十年過ごした挙句、ついには心が折れてしまったので。
ポッキリと。
ジョッシュside.終




