魂までは売るもんか!
「ほらまた希望にもえた若者がやって来たわよ」
「よーし、みてろよー」
古参の奴らがビルの上の階から、初出社の青年を見下ろしてニヤニヤ笑っていた。
初日。
どんな無茶振りふっかけても青年はへこたれない。瞳をキラキラさせて一生懸命だ。教えられることを真摯に受け止めて吸収する。
それも日がたつうちに瞳から光が消え、尻すぼみの返事、失意へと変わっていった。
社会って?会社って?こんな世界なのかよ?
希望に満ちていた日が懐かしい。
カレンダーがめくられていって一年経った。
「ほおら、また新入りくんがやって来たわよ」
「今年もこてんぱんにいっちょもんでやりますか」
古参がけらけら笑っている。
「一体どうして新人いびりするんですか?」
「新人いびり?人ぎきの悪い。通過儀礼だよ、一種の」
青年は納得がいかなかった。
新歓の飲み会の席で呑めませんと言っている涙目の新人に古参がしつこく酒を勧めていた。
「呑まなくていい!」
「えっ!?」
青年は酒を取り上げて店員に突き返すと、古参を無視して新入りと烏龍茶で語り始めた。
「お前、みてろよ?」
古参が青年に耳打ちする。背筋に氷でもいれられたような寒気が走り、胃がねじれそうな感覚を覚える。
「あの人たちはひねくれてしまってるんだ。俺たちはあんなふうになっちゃいけない」
「でも、大丈夫ですか?」
「ギリギリまでやってみる。耐えられなくなったらこの会社辞めるよ。派遣やパートやアルバイトだってかまうもんか!魂までは売るもんか!」
「先輩!」
その夜は若手が盛り上がった。
青年はその会社でずいぶん踏ん張って仕事していたが、ある日辞表を出して去っていった。
古参たちがせいせいしていたが、間もなくこの会社自体が潰れてみんな散り散りになった。歪んだ愛社精神のせいだろうと誰もが思った。
青年は今もどこかで元気にやっている。