ゆうしゃの誓い
少年は自問していた。
どうして、近くにいてあげられなかったんだろう。
どうして何も言ってくれなかったんだろう。
どうして何もできなかったんだろう。
守るって言ったのに。
少年はただ願った。
どうかもう一度だけでいいから彼女を守るチャンスをください。
少年は誓った
その時は必ず彼女を一人にはしない。
少年は目を覚ます。そこは自分の部屋のベッドの上だった。寝ぼけた瞼をこすりながら「ああ、またか」と呟いてベッドの上で体を伸ばす。
いつもみる夢だった。遠い遠い記憶に眠る近所の『姉』。その人は何でもできてたいへん優秀だったが、その優秀さ故にいつも孤独だった。だから、自分はどんな時だってそばにいた。寂しくならないようにと『けっこんのやくそく』もした。『姉』は笑っていたと思う。けれど『姉』は消えた。唐突に、何も告げずにどこかへ行ってしまった。記憶があやふやだからそんな人が居たのかさえ分からない。ひょっとしたら『姉』の存在自体が夢幻なのかもしれない。けれどこの夢を見た日はきまって虚無感に囚われてしまう。何もやる気が起きなくなってしまうのだ。本当にただの夢の中の存在なのだろうか。
そんなことを考えてうなだれていると誰かが部屋に入ってきた。
「おや、起こしてしまったかな。」
その人は月明かりに照らされた皺だらけの顔に柔らかい笑みを浮かべていた。
「またあの夢見た。」
「お姉ちゃんの夢かね?」
「うん。」
「そうか。」
そう言いながら老人がベッドに腰掛ける。
「お前さんのお姉ちゃんはきっとどこかで生きておるさ。会ったら今度こそ守っておやり。」
そういって少年の頭を優しくなでる
「夢の中の話かもしれないのに何で言いきれんのさ。」
なでられて子供扱いされた少年は不満そうにこたえる。
「わしゃ『賢者』じゃからのう。いろんなことを知っておるのさ。」
そういって抜け歯だらけの歯を見せて笑う。そんなことで納得できるほど子供ではないと少年はふくれる。それを見て老人はいっそう楽しそうな顔をして笑った。
「いつかお前さんが大きくなったらその人を探しに旅に出ると良い。」
「じいちゃんは?」
「わしゃもう旅なぞできんよ。ここにおる。」
ベッドの上をポンポンとたたいてそう言った。
「じゃあダメ!」
少年は言い張った。絶対ダメだと言ってきかない。
「なぜじゃ?」
「じいちゃんは『勇者』でひとりになりやすいんだってじいちゃんがいったんじゃん。寂しがりやなんだからひとりにしたら死んじゃうよ!」
そう言うとまた更に老人は笑った。
「わしはうさぎか何かなのかのう。」
「死んじゃやだよ。絶対そばにいるから。」
少年は至極真面目に言った。
「おーおー、一緒におるさ。だからもう一度おやすみ。」
「寝るまでいないとやだよ。」
もうじき8歳になるこの少年はこうなると一人では眠れなかった。
そして少年が安心して再び眠りについたころ老人はもう一度少年の頬をそっとなでた。
「一緒におるさ。お前さんが立派に育つまではな。」
そう言って部屋を出ていった。