あの日、あの時。あの気持ち。
私には幼稚園の頃からの親友がいた。
名前は優ちゃん。
優ちゃんは私の一番で。私も優ちゃんの一番でいたかった。
大好きな大好きな友だち。
数年のときを経ても、それは変わらなかった。
優ちゃんの笑顔が見たくて、バカなこともたくさんやった。
変顔したり、ダジャレを言ったり、音楽室の肖像画にラクガキしたり。先生のモノマネを極めたりもしたなあ。友人にバカにされても、先生に怒られても、両親にお小遣いを減らされても良かった。
優ちゃんさえ笑ってくれれば。
私は毎日が楽しくて仕方がなかった。
十五の春。
バカな私は勉強を死ぬ気で頑張って、優秀な優ちゃんと同じ高校へと進学した。
正直ギリギリだったのだけれど、なんとか合格できたので良かった。
一生懸命に教えてくれる優ちゃんが可愛くて、なかなか集中できなかったから、危なかったんだよね。
高校は違うクラスになってしまい、仕方がないねとお互いに言い合って、放課後にまたねと言って別れた。
優ちゃんと私の家はおよそ5分の距離で、高校は行きも帰りも待ち合わせて通った。
病弱気味の優ちゃんが体調を崩せばプリントを届けたし、苦手な科目のノートも真剣にとった。後で優ちゃんに見せてあげるためにね。
定期テストはもちろん優ちゃんにお世話になった。優ちゃんがいなきゃ、赤点だっただろうなあ。
夏休みは山にも海にも遊びに行ったし、冬は優ちゃんの家でお泊まり会。どっちがより多くみかんを食べられるか、なんてコタツでうとうとしながら遊んでた。
そんな毎日が幸せで。
ずっとずっとこうなんだと、信じて疑わなかった。
ある時、ひとりの男子生徒がこう言った。
「お前ら、別のクラスなのに仲良くしてて気持ち悪い。女同士でベタベタしやがって、お前ら付き合ってんのか?」
彼は入学当初から、優ちゃんのことが好きだった。優ちゃんは美人で勉強できて、なにしろ優しいからね。
「おててつないで学校に来るの、お前らくらいなんだからな!」
いいじゃない。べつに。
「あんたには関係ないでしょう!優ちゃんと私は仲良しなんだから、男子は口を出さないでよね!」
優ちゃんを渡したくなくて、やつが勝手に失恋すればいいと、あえて否定をしなかった。
その日の放課後、帰り道。
「ねえ、私のことどう思ってる?」
優ちゃんが聞いた。
きっとさっきのことを気にしてるんだろう。いつもなら隙間なくぴったりと繋ぐ手は弱々しく握られ、今にも外れてしまいそう。
「私は、優ちゃんのことを大事に思ってるよ」
ぎゅっと握る手に力を込めて、そう言った。
優ちゃんが聞きたいことはこんなことじゃないだろう。けれど、優ちゃんの目に映るそれに気付かないふりをして、私は曖昧な答えを出した。
「私のこと、好き…?愛してる…?」
誤魔化しは許さないとばかりのふたこと目。その震える声音に、私の背筋がぴんと伸びた。
わからない。わからないよ。
優ちゃんのことは好き。きっと愛してる。
だけれどそれは、優ちゃんが望む答えだろうか?
これが親愛の情なのか、そうでないのか。私にもわからないのに。
「わからない…。わからないよ、優ちゃん…」
優ちゃんは一度悲しげに瞳を伏せて、ふわりと笑った。
「じゃあまた明日ね!」
「あ、うん…。優ちゃん、また明日…」
私は、消え入るような声で返事をした。
優ちゃんは数年後、平々凡々な男性と結婚した。
大学で知り合ったサークル仲間だったらしい。優ちゃんとキャンパスライフを送るなんて羨ましい。
優ちゃんは偏差値の高い大学へ、私は自分の身の丈にあった大学へと進学していた。
まあ、結婚式で見た限りでは、素敵な人だった。優ちゃんを任せても大丈夫そうかな。
実は私にも恋人がいて、来年結婚しようか、なんて話をしてる。
この結果を見ると、私たちの恋愛対象はやっぱり男性だったみたいだ。
だけれど、あの日あの時。
私が優ちゃんに抱いていた気持ちは。
「好きだったよ、優ちゃん」
今現在、目の前で「住む家はどんながいい?」「君にはこのドレスが似合うね」なんて言っている愛しい人への想いより。
ずっと特別で、きらきらと輝いていたように思う。
読んでくださってありがとうございましたー!
実はですね!
この作品を読んで、別視点(優ちゃん視点)を書いてくれた方がいまして!!
この後書きよりちょっと下の方に、タップするだけで飛べるリンク(ランキングタグ)貼っているので!
文字色が黒じゃなくて、青とかだから分かると思いますが!見逃さないで、ぜひ覗いて見てくださいな!