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リディウムメイト!  作者: 銀シャリ
世界の広がり
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少し長くなりました。

 

 春の陽気広がる薄雲かかった空の下、ラビリエの人々が行きかう道の少し入り込んだ裏路地に、ひっそりと居を構える年季の入った建物があった。


 壁に使われた木は元はしっかりとしたものを使っていたのだろう。太い木から伐り出された板は年代を経ても脆さを感じさせない力強さを秘めていたが、その上から蔦が這い、植物に埋もれているその様は見た人にもの悲しさを感じさせる。また、建物の広さは周りより二回りほど大きいものの、1階建てなせいか周りの建物の陰になってしまっており陰気臭さを醸し出していた。



「本当に、ここ……?」



 ひくり、とインジシカの口角が引きつる。

 マリーが情報収集先として1年生からギルドの親族を紹介してもらったと聞いたとき、彼女はとても喜んだ。ギルドといえば街の相互扶助を掲げた組織である。

 人々の困りごとを依頼という形で掲示し、ガードナーと呼ばれる技能者が解決する。領民のためでもあり、国のためでもある。ギルドは依頼を分析して国に報告することで国内状況の把握に協力しているのだ。依頼人は領民個人から商会、工房、教会等とさまざまで、達成すれば報酬がもらえるのでガードナー達にも旨味はある。中には領主一族が出した依頼もあり、依頼を達成すれば高額な報酬が約束されたり、うまくいけば領主一族のお抱えになれる可能性もあったりするなど、ガードナーは夢追い人達に堪らない職業であった。


 もちろん甘い世界ではないので上もあれば下もある業界だが、人が多く集まればその分依頼も多くなり、集まるガードナーも多くなる。そんなラビリエにおいてガードナーが所属するギルドとは大抵人の多い大通りや大通りから少し離れたとしても大きな敷地に立派な建物を建ててギルド業をこなしていた。


 そんななか、男女別懇親会『レストラン・フランベ』担当の元交渉役3人組が紹介されたギルドに向かい、見つけたのは冒頭の建物。


 とてつもなく哀感ある建物である。

 もはや廃業寸前では?と疑われても仕方がない佇まいだが、自領で廃業したギルドなんて聞いたことのないインジシカからすれば怪しい一択だし、パニラも自領のギルドを思い出してその違いに困惑した。



「人、いるのかな……? ペシュカのギルドはもっと人が出入りしてたんだけど……」

「私のところもそうよ。……本当にやってるのかしら」

「でもマリーちゃんが教えてもらった場所はここだし……はっ!」



 マリーちゃん、騙されたって傷ついてないかな!?

 ガッ!ととんでもない速さで隣のマリーを見たパニラに、マリーの向こうに見える複数の鳥族魔物がビクッ!と体をビクつかせたあと羽毛を逆立て飛んでいく。しかしそんな取るに足らないこと、パニラは気にしない。背景で何が飛ぼうが喚こうが、マリーに関係なければそれでいいのだ。

 そんな彼女が気をもんだマリーは、



「うわあ~~~!凄い良いところだね!!」



 きらきらとした目で目の前の建物を見つめていた。

 実はマリー、これが初ギルドである。ギルドは国中の相互扶助を目的に首都だけでなく地方にも展開しており、それはガリア領とて例外ではない。本当は地方ゆえにガリアと周りのいくつかの領をまとめて管轄しているギルドがあるのだが、なんとガリア領、ギルドに頼ることなく完全な領内の相互扶助が成り立っていた。そのため、マリーは”ギルド”というものを見たことがなかったのである。


 ガリア領は代々管轄ギルド長泣かせの領地だった。付近の領土からはいくつも依頼が上がってくるのに、ガリア領からは殆ど依頼が上がってこない。しかし、領主も領民も「依頼はない」というばかりで、国への報告もままならない。そんなあるとき、一等真面目だったとあるギルド長がガリア領を訪れた時のことである。依頼が殆ど上がってこないが大丈夫なのか。領民の依頼を領主が黙殺していないか。領民は困っていないのか。そんな思いを抱いてガリア領主屋敷の門を叩いた彼は、叩いたまま固まった。


 なんと、屋敷の中から木の板のようなものを引きずってきた男がその板を門の外に置くと、その近くで腕を組んで唸り始めたのだ。えっ、うそ。(訪問者)が近くにいるんだが。しかもこれ紙貼ってない?『デュッサの肉が欲しい』?これ依頼だよね?なんでこんなところで出してるの???

 宇宙の真理を叩きこまれたような顔をしているギルド長の前で「こんにちは~」と明るく声をかけてきた領民が紙を剝いでいき、新たな領民が「こんにちは~」と紙を貼っていく。もうここがギルドである。ギルド長は目に手を当て天を仰いだ。なんだろう、乾いた笑いが出てくる。


 その後、領主(誰とは言わないがロから始まってルで終わるあの人)は当然ギルド長に怒られたのだが、領主は遠い目をして「やっぱり依頼だったんじゃないか…。これはメモだの、依頼なら書きに行くだの言ってたのはなんだったのか……」とつぶやき、今後依頼があればギルドに持っていくことを約束した。しかし、その後その流れを聞いた領民が「領主様の仕事を増やしちゃ悪いよな」と独自に暗号を作り出し、勝手に相互扶助を行い始めていたのは……、ロズウェルはまだ知らない。


 閑話休題。


 期待に満ちたマリーを見たパニラにスッと笑みが戻った。マリーちゃんがいいならいいや。うんうん、これも趣あるってやつだよね。引きつった笑みのインジシカの隣で心なしか漏れ出た感情がぱぁっと光を放っているような笑みを浮かべるあたり、さすがマリー全肯定教徒である。


 ともあれ、いつまでもこうしてはいられない。

 インジシカはドアの横にギルドの紋章を確認すると、息を腹の底に落としてドアを開けた。



 ギィ……、と軋む音とともに開かれたドアの向こうには、受付らしき長机と依頼書が貼られている掲示板。そして何人ものガードナー達が思い思いに過ごしているいくつものテーブルがあった。

 ドアが開いたことに一瞬ちらりと入り口を見たガードナー達だが、すぐに自分の時間に戻……ろうとして、目を剥いて二度見した。えっ、ドラゴン……?



「すごーい…!ギルドってなんかわくわくするねリディ…!」

「クァァア……!」



 輝く瞳がギルドを見渡す。受付、掲示板、ガードナー、天井。

 ガードナー達はマリーの瞳に居心地悪そうに身じろぎするが、でもその隣で輝く金の瞳が気になる。ドラゴンの、しかも幼体など、このラビリエでも間近で見る機会は早々ないのだ。

 ちらちらと視線を送ってはリディと目が合うと視線を逸らし始めるガードナー達。いい年した大人もマリーたちより少し年上の少年たちも、リディを見ては目をそらし、リディの目が逸れるとまたちらちらと見るを繰り返す。ちらちら、ちらちら。そんなに気になるなら声をかけてこいと言いたい。


 そんななか、その様子を見ていたインジシカとパニラは違和感を抱いた。



 ーーこれだけのガードナーがいて、こんなに静かなこと……ある?



 彼女たちの知っているギルドは荒くれとは言わないが活気のあるガードナー達のホームである。

 したがって何人もいればそれだけ話し声が聞こえるし、良い依頼を取り合って揉めていたりパーティの話し合いで揉めていたり女性ギルド員を口説いて揉めていたりと騒がしいはずだった。ギルドは基本揉めている。


 それがこの静寂……?、と少し眉を寄せたとき、あるテーブルから声がかかった。



「お嬢ちゃんたち、依頼かの? よかったら一口乗ってかんか?このままじゃと儂が勝つぞ~」



 ニシシ、と笑った老人の前にはボードゲームらしきものと、顎に手を当てたまま考えるポーズでこちらをぽかんと見ている若そうな男性がいた。マリーが視線を向ければ途端に向いてくる金の瞳。男は目を逸らし、その先で盤を見た。そしてそっ…と現実(ゲーム)からも目を逸らす。


 テーブルに置かれた二つに分けられた金に、すでに周りのガードナー達が賭けをしていることがわかる。そのガードナー達も周りと同じようにちらちらとマリーたちを見てくるが、マリーたちは首を横に振った。


 老人は残念そうにした後「職員ならその受付のベルを鳴らすと来るぞ」と教えてくれたので、3人はベルを鳴らしてみる。どうにも動きが悪いインジシカとパニラに代わってベルを鳴らしたのはマリーだ。



 チンッ   チチチ、チンッ!チンッ!チィイイン!!



「わわわっ!!だめだよ!リディ……!!」

「ァアアアア!!」



 途端、小さな魔物が大爆発した。


 マリーの鳴らしたベルの音にひどく興味をそそられたリディはバシバシとベルを叩く。しかしマリーのようないい音が出ない。ちょっと叩く速さを遅くしてみる。なんか鳴り始めた。次にバッと叩いてすぐ離したら、なんと、すごくいい音が出た……!!


 物凄く、物凄く(重要なので2回言った)いい音が出たところで慌てたマリーに引き離されてしまうリディ。

 ジッタバッタと藻掻いてどうにかマリーの腕から抜け出そうとするが、藻掻けば藻掻くほどベルからは遠ざかってしまった。イヤだイヤだ!自分はアレを押したいんだ……!駄々をこねるリディに周りのガードナーは困惑の視線を送る。

 なんか人間臭くないか…?ドラゴンの幼体ってあんな感じなの…?

 本来であれば某次世代型変態(アードルフ・メイジ)や某同室の少女がガン見どころかリディの表情筋の動きから四肢の先の先までじっくり観察するであろう貴重な姿だったのだが、彼らでもなければ子どもドラゴンが初めてのガードナー達。この程度の認識となった。ちなみに声をかけてきたあの老人は笑い過ぎて()の字に折れ曲がっている。


 一同(主にマリーとリディ)がわちゃわちゃしていると、受付の奥のドアからバタバタバタッと音がし、ひとりの男が駆け込んできた。



「だいじょっ、!??」



 ドアを開けた瞬間目に入る、暴れるドラゴン(幼体)。

 ただでさえくたびれた様子の男はビシリッと固まったが、さすがギルド職員。立て直しが早かった。

 若干腰は引けているがマリーたち3人(と1匹)に笑みを浮かべると要件を訪ねる。



「まっ、魔術学院2年生のマリー・ガリアです…! 「クァアア!」 う”…っ!ドミニク……エスキベルさんは 「アァア!アァア!」 いますか……!」

「あんたどんだけ仰け反ってんのよ…!」

「リディくんこっちだよ…!こっち見て…!」

「ウ”アァアア!!」



 まろい腹を存分にのけぞらせマリーの顎に頭突きをかましたリディ。

 それをどうにか止めようとインジシカとパニラが間に入ろうとするが、イヤイヤリディはめげない、負けない、諦めない!不屈の闘志で続行の意思を示すとリディの脳内レフェリーは続行を許可した。ファイッ!


 そんな様子をぽかん、と見ていた男だが、マリーの言葉が聞き取れるとぱちくりと瞬き、苦笑した。



「初めまして、私がドミニク・エスキベルです。エメリナの先輩ですね。お待ちしてました」


 

賭博

ここフォルタンシア国では国民の常。

ひとたび対立できる何かがあれば、何の打ち合わせもなく勝手に別れ、勝手に争い始めるこの国民に、金が飛び交わないなんてことはあるはずもない。

一応、法律で相手が生活できなくなるほどの金を巻き上げることは犯罪になると定められているが、どうにも勝敗になると熱くなる国民性ゆえか、賭けの後は一旦身ぐるみを剥し、その後貴重品を当人に返すという不思議な賭け文化が生まれている。

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