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リディウムメイト!  作者: 銀シャリ
世界の広がり
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PV8000達成、ありがとうございます!

 

 翌日。

 ひんやりとした風が吹くこの日、1限目から魔物生態学の教室には背筋がひりつくような緊張感が走っていた。



「ん”~~~~~」

「ゥ”~~~~~」


「お、おい……。誰か言ってこいよ……」

「お前がいけよ…、骨は拾ってやるからさ……」

「おまっ…! 薄情な奴だな!隣の席のくせに!!」

「うるせぇ! お前だってこの間俺が授業中寝てた時に起こしてくれなかっただろうが!!」

「「 ん~~~~/ゥ”~~~~ 」」

「「 ヒ……ッ! 」」

「あ、あのマリー先輩…? そんなに唸ってどうしたんですか…?」


 ーーよく声をかけたエメリナ・エスキベル……!!



 例年同様、男女別懇親会が始まり自然と男女に分かれて互いの様子をうかがっていた1年生は、久方ぶりに心がそろった。

 多くの生徒が唸るマリーたちに背を向けないよう壁にできる限り背をつけながら問答をする中、隣の席に腰を下ろしていたエメリナが見かねて声をかける。

 以前マウリにドラゴンについて説かれてからリディに過剰に恐怖を感じることはなくなった生徒たちだったが、そのドラゴンが不機嫌そうに腕を組み眉間に皺を寄せ唸っていたら別問題である。早急な事態の把握と解決が望まれるこの瞬間、マリーたちに声をかけたエメリナは瞬く間に教室中の燦然と輝く勇者となった。


 マリーは声をかけられて教室を見渡した後、しまった……という顔をしたが、リディはそんなマリーをちらりと見たものの、そのまま「唸り」を続行した。実はリディ、昨夜から唸っていたマリーの真似を始めてみたら、なんだかんだ「唸る」という動作が気に入ってしまったのだ。今も机の下に隠れた尻尾はふりふりと振られているものの、見えない周りからしたら()()()()なお気に入りが増えただけである。



「あっ…! ごめんね!ちょっと考え事してた!」

「いえっ、大丈夫です…! そんなに悩んで、どうしたんですか…?」

「ちょっと懇親会のことで……。 あ、ごめん、内緒だった」



 えへへ、と笑うマリーに教室中の目がザッ!と動いた。

 男子はマリーに、女子は男子に。まるでチーズとネズミと猫を見ているような図だった。


 なかでも男子側は特にマリーに興味津々だ。先輩たちから女子側の情報収集を任されていた1年男子であったが、女子が内情を漏らしてくれることは中々なかった。それがここにきて聞けるチャンスである。彼らの頭には昨年女子出し抜かれリベンジに燃える2年生と、1年次にマリーの兄(天才ネゴシエーター)によって素晴らしい料理を食べたもののそれ以外はどうも女子に一歩届かず、今年こそは!と体育会系ばりに激を飛ばし気合を入れあっていた3年生の姿が過る。ここで少しでも聞ければ先輩方の力になれるかも……!そう意気込む1年男子の献身的な姿は懇親会の本来の姿をしていたが、その背景を想うと目頭を押さえて俯きたくなるほど切ない。


 そんな男子たちに目ざとく気づくのは女子だ。

 男子生徒たちの表情が変わったのを察知した女子生徒たちは見るからに毛を逆立てる猫のように睨みつけたり、口元に笑みを浮かべながら目の奥では笑っていない顔で男子生徒達を見たりと、完全なる警戒態勢である。

 ……男子側には頑張ってほしいところだが、これに気が付けないのであれば今年の1年生も女子に軍配が上がるのかもしれない。



「おや、今年もこうなりましたか。 皆さん、授業を始めますよ。座ってください」



 ガチャ、とドアを開けて入ってきたマウリ・ニスラに一部の女子生徒がささっと髪を直す。

 くすりと笑みを浮かべたマウリは、教壇に立つと柔らかい口元はそのままにふわりと目を細めて教科書を開いた。

 相変わらず神に祝福を受けたような穏やかな彼に女子生徒たちはうっとりとする。そこに先ほどまで男子生徒達を静かに処そうとしていた表情は一切なかった。



「今日はポトマについて勉強しましょう。ご存じの方もいると思いますが、いま王城では鳥族の魔物であるポトマの運送試行を行っています。実用化されれば手紙や軽い贈り物を、ポークにお願いするよりも早く届けられるようになるかもしれません。ポトマとはーーー、」



 春のうららかな日差しのように広がるマウリの声を片隅に、マリーは意識を昨日話し合った男女別懇親会の記憶に飛ばした。




 ーーーーーー




『いいですか? まず、交渉では相手の人柄を知ることが大切です。今代のフランベ、名をーーいえ、名前は伏せておきましょう。あの方は料理長就任とともに名前を捨てたと公言していますからーーあの方はルフェオル領の小さな村出身です。お母様が旅一座の有名な踊り子として各地を回られていたなか身籠られ、村に根を下ろしたそうです。

 幼少期から綺麗なものが好きだったあの方はその後、村に回ってきた旅一座に母親とともに戻りラビリエに来て、多くのものに影響を受けました。人、物、芸、音楽ーーー。なかでも特に美しく感銘を受けたのが料理だったそうで、料理との出会い以降、あの方はその道に身命を賭しておられます』



 交渉について、マリーは知らないことだらけだった。

 彼女にとっての交渉とは、村のおばさまや子供たちとする物々交換くらいなものだ。父や母、執事長はやっていたのかもしれないが、マリーは全く見たことがなかった。

 ふんふん、と頷きながら話を聞くマリーは真摯な表情でエミーリアの横顔を見つめる。なぜ横顔なのかは推して知るべし。彼女がマリーの隣に座る瞬間を逃すわけないのである。それはそれは見事な、パニラでさえも一瞬違和感を覚えて終わるくらいの自然な割り込みであった。


 優し気な横顔のエミーリアは続ける。



『次に発言です。 フランベは今回お金を要望されましたが、今までにそのような条件が課されたことはありません。お店側もこの時期になると学院が懇親会を開くことは把握していますし、この交渉が本来生徒たちの交渉力育成を目的とした行事であることも理解しています。他のお店ではお金が条件に出されたこともありましたが、それも生徒が稼げるくらいの、たとえば寄付を募るとかギルドに頼んで価値ある品物を取ってくるとか、それくらいのものです。

 最近レストラン・フランベの経営状況が悪化したとは聞いていません。なのに今回の条件……。意図が読めないのです。意図が読めない交渉に簡単に乗ってはいけない、それはわかりますね?』



 自分に問いかけてくるエミーリアにマリーは頷く。

 その真剣な眼差しときゅっと結ばれた口元にエミーリアの口元がミリコンマ、ぴくりと動いた。でもそれは微表情学を修めた人間でないと見逃すレベル。今の彼女は()()頼れる先輩の姿である。



『フランベは多少、その、目標を達成するために熱くなる人柄だとは聞いていますが、無理を言う方ではないと思います。なので今は他の情報が必要なのです。補佐には男子生徒側との情報のすり合わせをお願いしています。懇親会は男女別ですが、目的を達成するためには対立する相手とも交渉する必要があることを忘れないでください』



 きらきらと、もはや物理的に感じるのではないかというくらいの眼差しがエミーリアの顔側面に押し付けられる。人によっては圧力にも感じてしまうその視線、エミーリアにとっては待望の圧であった。

 これよこれ!マリーちゃん、私頼れる先輩なの…ッ!!と、彼女はにやけそうになる口元を内頬の肉を噛んで耐える。が、体が小刻みに震えてしまうのをエミーリアはマリーがいる側とは反対の手でイスを掴み、ミシィ…!と万力の要領で固定した。多少指が座面を貫いてしまったが仕方がない。マリーの可愛さには何物も替えられないのだ。マリーと反対側に座っていた2年生が驚いた顔をして何度もイスとエミーリアを見ていたが彼女は気にしないことにした。()()()()()まだ頼れる先輩である。


 ただ、もう一分一秒も我慢ならないほどの愛おしさが胸に込み上げてくるエミーリアは迂闊に口を開けない。開けば最後、頼りになる、優しい、綺麗な先輩(彼女の自己評価)は吐き出すようにマリーの可愛さを語りながら顔を押さえて前へ崩れ落ちるだろう。クラウス先輩っ、どうか、どうか私に耐える力を…っ!思わず同様の熱を持ち合わせているはずの尊師(マリーの兄)に語り掛けるも、彼女のイマジナリー尊師は『かわいいよね、わかる』とご満悦だった。誰か止めてあげてくれ。


 そんな彼女だったからか、インジシカの「それであれば情報収集はさせてもらえませんか?…お願いします」という願いには答えられず、目をぎゅっと閉じる。奇しくもそれは後輩の懇願を許してあげたいが許可もできない苦渋に苦しむ優しい先輩にも見え、2年生たちは先輩の力になれない己に力不足を感じ顔を曇らせた。


 落ち込んだ2年生たちとエミーリア(うち1名は心の師を支えに震えていただけ)に驚いたのは男子側と交渉に行っていた補佐役だ。

 帰ってきた途端、総指揮官を探した彼女はエミーリアとその周辺を見てぎょっとし、なんとなく全てを察す。落とした肩は、なんかやらかしてる…。と言わんばかりである。さすが補佐役。総指揮官の特性を心得ている。



「どうしたの?みんな暗い顔して。何かあった?」

「っ!……!」

「いや、あんたは無理に話さなくていい。この子たちに聞くから」

「……あの、フランベから出された条件が今年は変なことはわかりました。情報が足りないことも。 っでも!私たちも自分のできる役割をちゃんとやりたいんです…!ちゃんとレストラン・フランベの担当として……、っ情報収取だけでもさせてもらえないでしょうか!!」



 インジシカが声を張り上げる。その声はもう泣きそうだ。

 彼女の声に触発された何人もの2年生たちが目に涙を溜めながら補佐役を見つめ、マリーや他の子たちも不安そうに見上げる。……彼女らも、なんとか力になりたいと思っているのだ。1年生のために。可愛い後輩のために。


 補佐役は少し眉を寄せて考えるとちらりとエミーリアを見て息を吐いた。



「……まぁ、情報が足りないのは確かだからね。お店には近づかないこと、知らない人には近づかないこと。これを守れるなら知り合いから情報収集してもらってもいいんじゃないかな。 と、思うけど、どうする?エミーリア」

「っ!っ!っ!」

「いいみたい」

「っありがとうございます!」



 顔を押さえ超高速首振り人形のように首を振るエミーリアにワッと2年生が沸き上がる。

 エミーリアが今度は感涙しているように見えたらしい彼女たちは「泣かないでください…!」「私たち頑張ります!」と口々に声をかけるが、その実エミーリアがマリーの可愛さに打ち震えているのを察した補佐役は2年生の純粋さにほっこりしながら、彼女たちの夢を壊さないためにエミーリアの代わりに声をかけてあげるのだった。


 ちなみにエミーリアはこの後、先輩すごい!という感情を前面に押し出したマリーに「私も頑張ります!ブランデル先輩!」と初めて名前を呼ばれて本当に泣いた。尊すぎた、とは後の彼女の言葉である。





 そんなこともあり、現在マリーは『誰に相談するか』を悩んでいるのである。


 なにせ今回、首都に来たのは初めてだったので。


 

クラウス「ん……?マリーが、僕を、呼んでる……?」

ロズウェル「!? 、気のせいだろう。それよりこの書類を……」

クラウス「いや呼んでる。ごめん父さん、手紙を書いてくるから少し休憩するね」

ガチャ

ロズウェル「……あいつはどこへ向かってるんだ…。もう魔術では説明できんのだが」

ベルエム「ほっほ」

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