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リディウムメイト!  作者: 銀シャリ
世界の広がり
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いつもお読みくださっている皆様、今回もご来訪ありがとうございます!

今年に入ってやっとパソコンなるものを買いました。それまでは携帯でぽちぽちしていましたが、俄然違いますね。文字が打ちやすいってすごい……。

 


『一週間後に貴女達が思う、うちの店の価値に合う金額を用意してちょうだい。いい?一週間後よ。楽しみにしてるわ』



 あの後、インジシカが交渉役として学生の身で稼ぐには限界があることや男女別懇親会まで時間がないこと、金以外の方法にしてほしいことを伝えたが、フランベには手をひらひらと振りながら「それはそっちの問題でしょ?」「うちには関係ないわ」「これくらい用意してもらわなきゃ困るわね」とけんもほろろに断られた。

 冒頭の言葉は別れ際にフランベから言われた言葉である。


 そもそも、あの『レストラン・フランベ』にふさわしい金額など領主一族の子供だったとしても小遣いで出せる額ではない。

 それを知っているインジシカとなんとなく察したパニラの表情は暗く、そもそもレストランというものに縁がなかったマリーも不安そうにしながら3人は学院へ帰院した。


 期日までに余裕がない彼女たちはさっそく男女別懇親会まで女性陣が占拠したとある大教室に関係者を集め、話し合いを始める。



「そんな、『フランベ』の価値なんていくらかかるの……?」

「私たちでお父様にお願いして出し合ったらどうにかなるかしら……?」

「食事の価値だよね……? まさか『フランベ』全部の価値とか言わないよね……?」



 お得意様の証明ができる未来が見えないことに一同の表情は沈む。

 ただこのお通夜状態はなにもマリーたちのグループに限った話ではない。大教室の至るところから各料理店との交渉が暗礁に乗り上げているのが聞こえてくる。もはや座礁しすぎて大教室は船の墓場のようだった。


 そんな墓場で腕を組んでうんうん唸るマリーとそんなマリーをちらりと見て同じく腕を組んで目を閉じたリディに、背後からにじり寄る影が現れる。



 ーーかっ、かわ……っ!!可愛いいいい!!な、なにをそんなに唸ってるの!?二人してそんなことして、私をどうしたいの!??



 エミーリア・ブランデル。興奮のあまり膝が抜けそうになるのを全身の筋力と気合で一歩一歩優雅に進み、満を持しての登場である。ちなみに乙女の微笑みを湛えてはいたが、その奥歯は唸らんばかりに嚙みしめられていた。



「みんな、どうしたの? 何か困りごとでもあった?」



 昨年は自身も同じように座礁していたエミーリアだが、後輩の前ではそのような些事、おくびにも出さない。今後のお付き合いのためにマリーには好感を抱いてもらわなければならないのだ。

 小首を傾げて尋ねた彼女は困った顔をしている後輩たちに心の中で先輩然と頷き、目線を下げると座っていたマリーが彼女を見上げ、眉を下げたままぱちくりと瞬いた。

 瞬間、エミーリアから「んふぅっ」と謎の音が鳴る。たまらん可愛い。胸が引きちぎられるかと思った。彼女は補佐役の同級生から冷めた目で見られながら口元に手を当てる。



「ブランデル先輩……。交渉の時にお店から出された条件をどうしたらいいのかわからなくて……」

「そうなの? 今年の条件は何かしら」

「レストラン・フランベの価値に合うお金を用意するようにって…」



 女子生徒の話にぱちり、とエミーリアは瞬きをして先ほどとは反対に首を傾げた。


 例年男女別懇親会では当然のごとく首都内のランクの高いレストランは男子側も女子側も交渉役を出している。したがって店の条件は男女ともに同じ条件が課されるのだ。

 マリーたちが課された『レストラン・フランベの価値』という条件は食事代という考え方次第では達成できる。しかしそれをすれば他の店をいくつも諦めることになるだろうし、料理交渉費用として割り振った金額を全て投資しても提供される料理は全員分ないだろう。そうなると今年は男女ともにレストラン・フランベを諦めるという結論になるが……。


 エミーリアには噂に聞く今代のフランベがそのような即物的な人物だとは思えなかった。



「ねぇ、どう思う?」

「……ちょっと変だと思うわ。あっちに探り入れてくる」

「ええ、よろしく」



 こそこそと言葉を交わした補佐役は踵を返して部屋を出ていく。

 それを見ていたマリーたちに向き直ったエミーリアは苦笑を浮かべ、「ごめんなさい。この班は少し交渉を止めましょう。少し気になることができたのでレストラン・フランベについてはこちらで進めます」と話した。


 皆さんは3年生について会場交渉をーーー。

 彼女がマリーたちに次の指示を出そうとしたとき、ガタリと集団から一人の女子生徒が立ち上がる。

 両手を握り締めエミーリアに鋭い視線を向けたのは今回の交渉役、インジシカだった。



「っあの! もう一度交渉に行かせてもらえませんか」

「バストルさん、でしたか。今回交渉を止めたのは貴女が原因ではありません。気にしなくていいんですよ」

「…そんなつもりはありません。ただ、このまま何もしないでいるのは……」

「……不安なのね」



 エミーリアの言葉にインジシカは床を睨みつける。

 彼女はもともと責任感の強い少女だった。

 バストル領領主一族の分家の出とはいえ領主一族の中では格の高い家に生まれた彼女は、自然と格の低い家の者を率いる立場で育った。

 誰かを率いる者には器が試される。後ろにいる者には庇護を、前にいる者には従順を。その両方を同時になんなくこなせるバランス感覚がこの領主一族という縦社会では重要になってくる。それを母親から見聞きしてきたインジシカはよく知っていた。器なき先導者に後ろは続かない。後ろなき先導者に上は微塵も期待しない。だから、先導者は先導者たる資質を証明しなければならないのだ。それがインジシカ・バストルが母親から受けた薫陶。……少なくとも、自分の「役割」もまともに熟せない人間にその先の道はない。インジシカの爪は掌に食い込んだ。


 そんな彼女を見ていたエミーリアはふっと悲しそうな顔をした後、力強い眼差しでインジシカを見つめ口を開いた。



「貴女の気持ちはわかりました。不安に思うのも当然のことでしょう。

 しかし、だからこそ言っておくことがあります。交渉の一回目はとても重要です。そこで相手から対等と見られるか下と見られるか。それによって交渉のしやすさは格段に変わります。その点でみれば、今回の交渉は失敗したといってもいいでしょう」



 インジシカがぐ…っと唇をかみしめる。



「ですが、交渉とは、本来相手を言い負かすものではありません。大切なのは相手が何を欲しているか、自分の利と感じられるのは何なのかを理解し、その価値をこちらがどのように提示できるかということ。 ……その点では貴女達は良い情報を持ち帰ってくれました」



 表情の暗かったマリーたちがエミーリアを見上げる。インジシカもそろりと見上げた。エミーリアはそんな後輩たちを安心させるように微笑んで見せる。



 ーーうーん、実際の交渉役はこれから考えるにしても、交渉のための考え方は練習してもいいかしら。



 後輩の学びの機会をきちんと考慮した彼女は同様に暗礁に乗り上げてこちらを見ていた他のグループの女子生徒たちを見回したあと、マリーたちに目を向けてぱちん!と手を叩いた。



「じゃあ! せっかくですし、一緒に情報を整理しましょうか。相手の人柄、発言、趣味嗜好。分析(アセスメント)はとても大切ですよ」


 

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