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リディウムメイト!  作者: 銀シャリ
世界の広がり
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読んでいただき、ありがとうございます!

本日、短編『汝、人を愛せるか ~ 無関心聖女と強欲な聖騎士 ~』を公開しました。

こちらも是非お読みいただければと思います!


『リディウムメイト!』ともども、引き続きのご愛顧をよろしくお願いいたします。

 


 レストラン・フランベ。


 首都ラビリエができた時からあるといわれている老舗のレストラン。

 始まりは流れ着いたフランベなる一人の男が魔術学院の食堂を造った者と意気投合し、三日三晩盛り上がった結果「お前は生徒、俺は町の人々。美味しいものを食べさせてやろうぜ!」と店をやることに決めたのだとか。

 以来レストラン・フランベは、料理の最高峰を極める者たちがこぞって集まる、ラビリエ屈指の名レストランとなり、厨房では日夜料理人たちがしのぎを削っているのである。



「…ここね。『レストラン・フランベ』…」



 そんな店の前に立つのは3人の少女。先頭に立つのは褐色の髪ーーインジシカ・バストル。

 中規模領土領主一族の分家の長女に生まれた彼女はいま、男女別懇親会のための料理を依頼するために店に出向いていた。


 彼女の後ろには黒髪青瞳の少女に白いドラゴン。そしてメガネの少女にイタチ族のリディの姿ーーそう、マリーとパニラである。


 交渉役を引き受け(ざるを得なかっ)たインジシカは、その後その場の勢いでマリーを交渉役に引っ張り出し、インジシカの華麗なる手腕に一歩で遅れたパニラも事態を把握すると()()()()()()笑って交渉役に名乗り出たのである。

 しかし今までグループのトップを張っていたインジシカ、にこにこと笑うパニラはさくっと無視し、気持ちを切り替えてマリーに自分の行いを謝ったのだった。


 そうして3人は紆余曲折あれど、こうして店の前に立っているのである。



「すごく綺麗なお店だね…」

「クァー…」

「惚けてないで行くわよ。レストラン自体はそんな珍しいものでもないでしょ」

「マリーちゃんには珍しいんだよ。ガリア領ってレストランとかないんだって」

「うん。食堂のお店はあるんだけどね。レストランって指を洗う水が入ったボウルがあるんでしょ?お兄様が言ってた!」

「どんなお兄様よ…」



 方や村のおばさま方が運営している食堂に行く妹、方やフィンガーボウルがあるレストランに行く(クラウス)

 その格差にインジシカはドン引きした。

 ちなみに、クラウスは話せば話すほど首都の美味しい料理を想像して目を輝かせるマリーを見るために様々なレストランを巡っていたりする。中には一見さんお断りの店もあったのだが…、その伝手と金はどこで用意してきたのか未だ不明である。


「じゃあ行くわよ」と意気込んだインジシカは喉をごくりと鳴らすとドアに手をかけた。

 分厚いガラス張りのドアを押し開くと乳白色のつるりとした壁におしゃれなランプが明かりを泳がせている。受付と思われる台の足元から店の奥へは深い紺色の絨毯が広がっている。



 ーーすごい…。絨毯ふわふわしてる。歩いてる感じしない…!



 先導するインジシカに着いていくマリーは感激した。

 ふわりふわりとマリーの足を受け止める絨毯は来客を労わるように、歓迎するように明かりの下で微笑んでいる。はじめは恐る恐る絨毯に降りたリディも今では喉を鳴らしながらご機嫌に深い紺色を踏みしめていた。


 3人が歩いていくと白いテーブルクロスがひかれた机や艶のある革張りのイスがおかれているホールに出る。

 交渉のアポはインジシカが取っていたためマリーたちは勝手がわかっていなかったが、実はインジシカもホールで顔合わせの予定だったのに誰もいないホールを見て困惑。誰かいないかと辺りを見回したとき、厨房につながりそうな廊下から大きな声が聞こえた。



「あんった達……、やる気あんのかって、聞いてんだろうがよおぉぉおお!!!」



 ひっ…!とひきつった声とともに身をすくめた3人はおそるおそる廊下に目を向ける。

 そして3人がハンドサインでその先を見てくる犠牲者を決め、教徒に肩を叩かれた少女が嫌そうに顔をしかめながら廊下に向かっていく様をリディはマリーの足にくっついてブルブル震えながら見送った。


 ダンッ、ダンッという何かを叩きつけるような音がする先をインジシカは腰が引けながら廊下に差し掛かる手前の角で身を隠して様子をうかがう。

 すると「あぁもうっ」という声とともに奥から荒々しく歩いてくる人が現れた。その人は魔術学院の制服を着た少女たちを目にとめると、夢から覚めたような顔をして瑞々しい唇を申し訳なさそうに歪ませる。



「あら……? もう約束の時間だったかしら。遅くなってごめんなさいね」



 燃えるような赤く長い髪をひとつに結い、長い指を折って口元に添える。その手はこの三ツ星レストラン『レストラン・フランベ』の料理一切を取り仕切る至高の料理人としてふさわしい筋肉のつき方をしていた。そして同様に今まで幾度もフライパンを振るってきたであろうすばらしい腕に、服の上からでもわかるほどの存在感を醸し出す胸筋。ーーーそう、この()こそ今回の交渉相手、"フランベ"である。



「いえ…っ! んん…っ、……魔術学院1年のインジシカ・バストルです。本日はよろしくお願いします」

「へぇ……。 よろしくね。今年もうちに懇親会の料理の要望を出してくれるなんて嬉しいわ。さ、座って」



 一瞬裏返った声をすぐに立て直したインジシカに目を細めた男は三人に席を勧める。

 インジシカとパニラはどっしりとした歴史を感じるイスにも緊張しながらもきちんと座り、マリーはおずおずと、これから教師にでも怒られるのかと思うくらい浅く腰かけた。リディもマリーの心情を察してか、マリーに抱かれたままおずおずと男を見上げている。

 そんな少女たちに男はふっと笑うと、テーブルに手を置いた。



「私を知っている子もいるみたいだけど、一応挨拶をさせてもらうわね。 私はフランベ。このレストランで料理長をしているわ。うちの店のことは知ってる?」

「……存じております。建国当初からある老舗三ツ星レストラン『レストラン・フランベ』。その料理を食べるためには予約しても数年かかると。そのようなお店に毎年懇親会の料理を提供いただけていること、お礼を申し上げます」

「いいのよ~、みんな礼儀正しくって可愛いし。うちも未来のお得意様に料理をお出しできるのは光栄だしね」



 くすくすと笑うフランベに、どうやら優しい人のようだとマリーの肩の力が抜ける。

 パニラも少し余裕が出てきたのか笑みを浮かべるが、インジシカは未だしっかりとフランベを見つめていた。

 そんななか、フランベはぴっ!とマリーを指差す。



「たとえば、貴女。 今回初めてうちの店のことを知ったんじゃない?」

「えっ……はい。なんでわかったんですか?」

「わかるわよ、だってさっきから『私初めてです!』って顔してたもの。私、観察力はあるのよ? どこから来たの?」

「ガリア領です」

「ああ、ガリア……。 遠いところから来たのね。ラビリエは楽しい?」

「はい!すごく楽しいです!」

「クァ!」

「ふふっ、ならよかったわ。私も地方の出だけど此処は此処で楽しいわよね。ここにはいろんなものがあるもの……。」



 遠くに思いをはせるような目をしたフランベにマリーは首を傾げる。

 優しそうな人だがなんだか不思議な人だ。

 そんなマリーに気がついたフランベは申し訳なさそうに微笑むと、三人に目を向けた。



「だからね、各地から来た魔術学院の生徒さんたちに料理を出すのは特に問題ないの」

「本当ですか」

「ええ。 貴女達が()()()()()()()()()()()、ね」

「……どういうことですか」



 低い声で聴き返したインジシカにフランベは口の端を吊り上げ、にっこりと笑った。

 その笑みは今までとは違い、どこか嗜虐性を含んでいるようにも見える。

 獲物を見定める捕食者の目を向けられたマリーとリディは肩を縮こまらせ、パニラは小さく震え背筋を正す。

 フランベはテーブルに置いた手の指を組み換え、口を開いた。



「ここ『レストラン・フランベ』は初代料理長フランベが民に料理の美味しさを広めるために造ったお店。そのためにここの料理人たちは日々研鑽に励み、今ではこうして老舗のレストランとして評価をもらえているわけだけど……。


 実は私たち、そんなことどうでもいいの」

「……どうでもいい、とは…」

「今の私たちが求めているのは料理の真理。至高の頂。最高の、世界。そのためには努力するのは当たり前、才能があるのも当たり前。そのうえで至れる世界に価値がある。 ……ただね、その世界だけではやっていけないものもあるの」



 ごくり、と誰かが唾をのむ音が聞こえる。

 その音に目を細めた男は牙をむき出した獣のような声を出して少女たちを威圧した。



「お金よ」


「貴女達を試させてもらうわ。

 この、料理長という役職になった時から自分の名前を捨てた『フランベ』が、私率いる料理人たちが、本当に料理を出すに値する人物かどうか」


「未来のお得意様たりえるかどうか、証明してみせなさい」


 

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