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リディウムメイト!  作者: 銀シャリ
世界の広がり
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39

 


「それではこれより、男女別懇親会の打ち合わせを始めます」



 とある大教室で、数多の女子生徒を前に、天使の輪を携えたライトグレーの髪の乙女が述べる。


 すっきりと良く通る声の彼女の前に座るは前年の戦を共にした頼もしき智将達と、彼女達が先輩と共に背中で示して見せた後輩、そして未来を担う可愛らしい卵達だ。



「今年の準備金は昨年より1.2倍増え、準備期間は明後日からの2週間です。昨年同様、会場は大聖堂、食事はレストランにご協力していただく予定で進めていきます。ただ、トラブルもあるでしょうから、その際には私達3年生に報告して下さい。柔軟に対応しましょう」



 清廉な乙女はにっこり笑うと、



 ――生マリーちゃん可愛いいいい!!!



 ニヤける表情筋を押し留め、補佐役へ仕事を振るのだった。


 これがエミーリア・ブランデル。

 クラウスから大いなる影響を受け、クラウスへの申報(報告書)を上げ続けているセオフィラスの姉である。



 ――ああ…、この日が待ち遠しかった!クラウス先輩から慈しみ溢れる女神の様なマリーちゃんの話を聞いて一年。(セオ)が馬鹿なことをしでかした時はどうしようかと思ったけど、その後はちゃんと指導が入っている(仲良くしてる)みたいだし、この機に完璧な先輩を演じてマリーちゃんの好感度を一気に稼ぐのよ!!ああ、体が揺れてる…ワクワクしてる…かわいい…かわいい…



「では各学年に分かれて打ち合わせを始めて下さい」

「3年生はこちらへ。先生担当と事務担当を決めますわ」

「2年生はこっち!Aから3クラスずつに分かれて座って!」

「1年生はこっちですよ〜。みなさんの合言葉は"黙して語らず"〜。でも男子が向こうの計画を自慢してきたら、笑顔で煽てて気持ちよく語ってもらいましょうね〜エッヘッヘ」



 下心満載の総指揮官と下心を教え込もうとしている3年生に不安は残るが、各学年は誘導に従い移動を始める。


 マリーとパニラも移動を始めると、その数歩後ろを違和感のない完璧なすり足でエミーリアが追従した。



「じゃあ、説明するね!2年生にはそれぞれのグループで各お店に料理の発注をしてもらいます。これが担当のお店の資料ね。もしダメでも違うお店探すから私に連絡してね!」

「『レストラン・フランベ』三ツ星…?」



 レストランなどと洒落たものの無いガリア領出身のマリーが首を傾げれば、同じくレストランはあるものの星持ちの店は無いペシュカ領出身のパニラは苦笑する。



「凄いよね。去年もそうだったけど懇親会では三ツ星レストランの料理がタダで食べられるんだよ。その為にも私達2年生が頑張らなきゃいけないんだけどね」



 経済的に余り豊かではない領出身の子供からすれば学院の懇親会は余りにも豪勢で、毎年1年生の何人かは文字通り吐くまで食べる、そして同じ経験をした先輩方から介抱されて懇親を深める、というのが通例だった。


 さぞかし美味しいに違いない!と目を輝かせたマリーの後ろで、その店は私が選んだの!マリーちゃんの為に!マリーちゃんの為にッ!!と胸を張るエミーリアが居たが、周囲は懇親会の準備にまっしぐら。

 エミーリアは補佐役から冷たい目で見られた。



「ねぇ、お店の情報は分かるんだけど、この『好みのタイプ』ってなに?」

「『理想的な反応…譲歩を引き出されそうになったら、目的は達したいが相手の意見には従いたくないという、葛藤のある反応が良い』…??」

「『推奨魔力属性…風』 討伐依頼でもするの…?」



 3年生は困惑する女子生徒達を見渡すと、ふんっ!と握り拳を振り上げる。



「いい?これは謂わば狩りの練習!相手の性格や嗜好を知っていれば、知らないよりも格段に人をオトしやすくなるの!私の尊敬する先輩はこう言ってた。『己を知り、相手を知れば、選択肢の先まで想定可能。効率の良い攻略こそが至高である!』と!」



 まるで幾千もの乙女ゲーを熟してきた戦歴のオタクの様なセリフだが、彼女の話し方が良かったのだろうか。

 話を聞いていた2年生の中には聞き入るだけで無く、メモを取る者まで出てきていた。


 そんな彼女らに偉大なる先輩の御言葉を布教して満足した彼女は1人で頷くと、2年生に向かって「交渉者を決める様に」と告げて離れていく。



「誰がする?」

「勝気な人ってことかな?」

「パニラは誰がいいと思う?」



 昨年Oクラスで苦楽を共にした隣のクラス長から聞かれたパニラは頭を捻る。勿論マリーは除外だ。勝気云々ではなく、マリーに変人を近づけるなど皆が許しても自分が許さない。


 ならば誰が…と考えたところで、パニラはハッとした。



「私、バストルさんがいいと思う」

「は!?」



 ギョッと赤褐色の癖毛をビクつかせたのはインジシカ・バストル。以前セオフィラスがマリーのリディペット説を披露した際に「野生のドラゴンを従えるとか、こわーい!」と言った少女だった。



「な、なんで私なのよ」



 マリーに突っかかったことが記憶に新しいインジシカは、ムッとした表情をしながらも内心動揺する。


 歴代類のない編入者という肩書きとリディがドラゴンであるという()()()、皆の視線を集めたマリー。

 それが気に入らなくて、真っ先に物申したセオフィラスに続いてみれば、いつの間にか彼は態度を軟化させ同じ教員補助係にまでなっていて。

 いきなり外された梯子に戸惑っているうちに、どんどん周りに人が集まるマリーと取り残された自分たちの隔たりが大きくなるのを感じた彼女は、気がつけばどうにもできないまま、取り残されたグループの先頭に立っていた。


 もしかして自分の行動は良くなかったのかも…。

 そうは思っても中々謝れない、取り残されたグループのメンバーが後ろにいる限り謝ることができないのがインジシカである。


 いや、こればっかりは仕方ないのだろう。セオフィラスが自分の非を認め、すぐに謝ることができたのは、ただ彼が凄かっただけだ。普通この年頃では難しい。


 そんな複雑な彼女の心境をこのパニラ(教徒)、見逃してはいなかった。



「だってバストルさん、風属性でしょ?それに何かあったらちゃんと言える人だと思うし、責任感もあると思う。私たちも協力するから、どうかな?」



 にっこり。


 優し気な笑顔で問いかけるパニラに、自身が率いるグループメンバーからチラチラと伺うように見られたインジシカは無意識に一歩後ずさった。


 無理もない。

 いま彼女は「提案に乗り、クラスという集団に交じる道」と「提案を蹴り、集団とは交わらない道」の岐路に立たされているのだ。この…、優し()に笑う悪魔によって。


 それはパニラからの、インジシカやそのグループの彼女らが謝罪に悩むかつての自分と重なったことへの同情であり、マリーの言葉に救われた感謝の気持ちのおすそ分けでもある。そして、3クラス合同が故のなにも事情を知らない他クラスの女子達がいる場でやることによる、事情を知る者のみが理解できる圧倒的な上下関係の提案でもあった。

 ……この少女、怖い。



「っ……、~~~~~ッ! わ、わかった!わかったわよ…!!やればいいんでしょ、やれば!!」

「うん、ありがとう!よろしくね! じゃあみんなでレストランのこと調べよっか」

「了解! ありがとうバストルさん!」

「よろしくね!」

「がんばろうね!」



 インジシカはその全ての背景を飲み込んだうえで、パニラの提案を受けた。

 断腸の思い…いや、自棄になったともいえるが、ジレンマにハマっていたインジシカやその周りの子たちにとっては良いことだったのかもしれない。

 ときに人は、全てのしがらみをエイヤッと乗り越える必要があるのだろう。


 こうしてOクラス内の女子の統率はとある教徒によって円満に、他クラスに察知されることもなく完了したのであった。

 …もちろんそういった女子のやりとりに疎いマリーにも気づかれずに。


 

全てのしがらみをエイヤッとした人「申報まだかな…ワクワク」

全てのしがらみをエイヤッとした人2「ああ…会話に入れなかったわ…!!」

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