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リディウムメイト!  作者: 銀シャリ
世界の広がり
32/41

閑話(ジェフリーロドリー、見張りになる)

 


 これは、マリーが魔術学院へ向けてガリア領を発った後のお話である。




「ん?また野生のロドリーか。最近本当に多いな」



 門番兼庭師の男――ジェフリーはそう言いながら空を見上げる。


 空には今日も今日とて楽しそうに水を撒くジェフリーのリディ(ロドリー)の他に、派手な赤とオレンジの魔物がやたらと飛んでいた。


 縄張り意識の強いロドリーは本来の縄張りから出ることはそう無い。例え出たとしても森から離れたこの屋敷まで飛んでくることは今までなかったのだ。



 ――森で何かあったか?



 首をひねるも答えなど到底出てきそうもなかったジェフリーは考えるのをやめた。彼は自分が一度考え始めると長くなる事を知っている。


 大して来客もない、人による荒事もないガリア領の門番はとても暇で、かつてロドリーを捩じ伏せたポテンシャルも発揮する機会はない。


 それでもジェフリーは、領民のために日々政務をこなしているロズウェルとその家族を守る門番(兼庭師)という仕事が好きなのである。

 ついでに言うと、ぼーっと空を眺めるのも彼は好きだった。



 ――今日は来客の予定もないし、残る仕事と言っても門の開閉だけだからな。うん、平和はいい事だ。っても毎日平和な訳だが。



 一人で頷いたジェフリーはまたぼんやりと空を見上げる。


 そして気がついた。



 あれ?なんで野生のロドリーがジョウロを持っているんだ? と。



「キャアアアアア!!」

「!??」



 その瞬間、衝撃波でも放たれたかと勘違いする程の「奇声」に、ジェフリーは肩をビクつかせる。


 硬直した背中を急に汗が流れ落ち、ジェフリーの脳内ではいつぞやの逃げ帰る商人の背中が過った。



 ――い、嫌な予感しかしない…!ま、待て、まだだ!まだアレがウチのジョウロだとは決まってない!もしかしたらアレは他所のジョウロで、あいつはなんか…、っそう!俺がこの前蹴つまずいて折った花を見つけて怒ってるに違いない―!



 それもそれで怒りそうなものだが、この手の失敗はジェフリーにとってよくある事なので、大抵はリディ(ロドリー)に突かれて終わる。


「それであってくれ…ッ!」と振り向いた視線の先には、これまでにないほど羽を膨らませ、カチカチと嘴を鳴らしているリディ(ロドリー)がいた。

 ……いや、なんなら身体も小刻みに震えているようにも見える。怒りの余り、嘴は自然と鳴っているのかもしれない。


 すわ何事だ、と屋敷の至る所から使用人達が顔を出し、ロズウェルやマリアーナ、クラウスも窓を開ける。


 そんな面々など視界に入っていないらしいリディ(ロドリー)は少し身体を沈みこませると、凄まじい勢いで上空のロドリーへ突撃した。羽で羽ばたいているというよりは赤い風船が空気を抜きながら飛んでいっているようである。


 リディ(ロドリー)がすれ違いざまに羽でロドリーの片足を切り裂くとジョウロがポロリと落ちていく。


 すると、突如それを狙っていたと言わんばかりに多数の野生のロドリーがジョウロへ殺到し、猛烈な奪い合いを始めた。



「キャアアア!」

「ウオオオオオ!」

「「キャアアア!/ウオオオオ!」」



 いくつもの奇声と男泣きが響き渡り、空中で切るわ蹴るわつついてぶつかるわのロドリー達はマリアーナのリディ(カシネズミ)が気絶する程の大激戦。ジョウロの何が彼等をそこまで駆り立てるのか。ジェフリーは内心引いた。


 そんな中、スーパープレイを見せたのはやはりリディ(ロドリー)だ。

 時に叩き落とされ、時に弾き飛ばされるジョウロに的確に羽を当て、揉みくちゃの中から出てきた勢いを器用に足でくるりと回して殺す姿は一切の無駄が無い。


 ジェフリーは場違いながらもその動きに感心していると、ジョウロを掴んだリディ(ロドリー)はちらりとジェフリーに視線を送り、ジェフリーへ滑空した。


 それに驚いたのはジェフリーである。



「…待て待て待て待て!俺も流石にそんな数は相手にできないぞ!?じょ、ジョウロくらい渡してやれ…ッ、ちょ!待てって!!」



 ジョウロが奪われたからであろう、苛立ちに満ちたロドリー達がばさりと翼を鳴らすと、数十の鋭い羽が空に放たれる。


 あ、これは、やばい。


 先程まで平和だとか言っていた男のこめかみに汗が流れた。口元がますます引き攣ってしまうのも無理はないだろう。


 とっさの判断で腰の断ちバサミに手を掛けたジェフリーに刃の雨が降り注いだ。



「おおおおお!!?」



 弾く。弾く。弾く。


 そこには、普段どんなにターニャから「少しは見回りをしたらどうですか」と苦言を言われていようとも、普段どんなに庭仕事をリディ(ロドリー)に任せていたとしても(庭仕事に関しては奪い取られたとも言うが)、見事な断ちバサミ捌きで魔物の攻撃を凌いでいるジェフリーがいた。


 その隣では専用に誂えたシャベルを咥え、羽を叩き落とすリディ(ロドリー)


 …やっていることは凄い事なのだが、持ち物が裁ちバサミやシャベルであるあたりが残念でならない。


 数十の羽の雨を捌ききり、小さな切り傷を全身にこさえたジェフリーがぐったりと隣を見ると、リディ(ロドリー)が丁度、息を吸い込んでいた。



「っもう喧嘩売るなって――」

「キャアアアアアア!!!」

「――ああああああ!!……って、お?」



 リディ(ロドリー)を止めきれず、また一戦くるかと思いきや、ロドリー達は各々に泣きながら散り散りに飛んで行った。

 残されたのはぽかりと口を開けたジェフリーとジョウロに乗るリディ(ロドリー)のみ。



 ――これは……、終わった、のか…?



 さっそくと空のジョウロを水汲み場へ持っていく通常サイズのパートナーを視界に収めると、ジェフリーはどかりと地面に腰を下ろし、空を仰いだ。

 なんだか、次第に笑いもこみ上げてくる。



「は、ははははっ!やっぱりガリアは平和だなぁ」

「では、金銭関係も平和に解決してもらいましょうかね」



 ほっほっほ。と笑う執事長を背後に、荒れ果てた庭に気づいたジェフリーの顔から血の気が引いていく。


 遠くではロズウェルが黙祷を捧げていた。



「キャアアア!」

「ウォオオオ!」

「うおおおおお!?」


ベルエム「おや、今日も来ましたか」

ターニャ「最近ジェフリーの回避力の上達が著しいですね」

料理長「ジョウロを持って出る被害が少なくなる開けた場所へ走る辺り、涙ぐましいねぇ」

ロズウェル(そうなるだろうな…)

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