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リディウムメイト!  作者: 銀シャリ
世界の広がり
31/41

29

 

 マウリ・ニスラ曰く、



 ――1つ、人も野生の魔物も魔力には属性があり、そう大差ない存在である。


 ――2つ、野生の魔物もリディウムも、契約してしまえばどちらも変わらぬリディである。


 ――3つ、契約には才と魔力が必要である。



 そして、彼はゆっくりと目を見て語るのだ。



「才には沢山あります。力の才、誠実の才、努力の才。才の無い人はいませんし、誰もが何かしらの才を持っています。要は自身の才能に合うリディと巡り会えたかどうか、そこが問題となるのです」




 ―――




「別に魔力が無くてもリディが居てくれればいいもんねー」

「アー」



 昼時、2学年の教室へ戻ってきたマリーは机にへばりついていた。頭には同じくリディがへばりついている。


 先程の魔物生態学では他の生徒から「魔力がなければ契約出来ないということですね?」という声が上がり、マウリが「魔力がなければ魔術契約は出来ませんからね。でも勿論、契約しなくても仲良くできますよ」と回答する場面があった。

 その直後、マリーはそれを聞いた生徒がちらりとリディを見て笑ったのを見ていたのだ。


 気にしないことにしたとはいえ、不服である。



「マリー、何しているの?昼食を食べに行きましょう」

「ナタリア!行く!」



 廊下から顔を出したナタリアへ目を輝かせたマリーは心のもやもやを振り切り、椅子を鳴らして立ち上がった。その上のリディは涎が滴らんばかりに主張している。


 随分人間臭いドラゴンね…。

 ナタリアは駆け寄ってくる1人と1匹を見ながら思わず呟いた。



「ナタリアは授業どうだった?魔術基礎学…だっけ」

「まぁ、普通ね。文字通り基礎だからそんなに苦労しないし、家で教わっていた分の復習みたいなものよ」

「家でも勉強してたの?」

「祖母の故郷では6歳になると家庭内で魔術の教育が始まるらしいの。何処の話かは分からないけれど…。それで、ね」

「へー」



 2人が向かっているのは「大聖堂」。

 その実態は、大きな食堂だ。



「食堂なのに大聖堂?」

「初代校長が決めたらしいわ。『食こそ生命。聖なる場』と言ったそうね」

「食べるのが好きな人なんだね」

「じゅるり」

「(多分リディのような人でしょうね)」


「…わあっ!凄い!」



 大聖堂の扉をくぐると、マリーは歓喜の声をあげた。


 何百人分もある席は食事に浮かれる生徒で埋め尽くされており、巨大な暖炉では毛を逆立てるように火が燃えている。上を見れば、暖色の光が柔らかに降り注ぎ、時折光がゆんわりとなで動いた。


 これだけの環境を整えておいて、奉るのは食の神という事実に過去何人もの人間を嘆かせた、初代校長自慢の食堂である。


 マリーはナタリアに連れられるがまま、食券を購入して食事を受け取ると空いた席に腰を下ろした。

 あまり席に余裕がないので、リディはマリーの膝の上でフード缶を抱えている。


 マリーが正面に座ったナタリアを見ると、ナタリアは小さな何かのフード缶をカチン、と開けていた。


 聞くと、ナタリアのリディ用らしい。


 ふと、ナタリアのリディを知らないなとマリーがナタリアに聞くと、ナタリアは「ああ、紹介してなかったわね」と腰ベルトについているポーチからシアン色の虫型魔物を出した。


 魔物はマリーを見て、リディを見た後、きらりと両手についている刃を煌めかせて見せる。



「プレグリティ。この子が私のリディなの」



 プレグリティ。

 それは細い4本足で体を支え、同じく細い胸部からは透明な羽が生えていた。更に2本の刃のついた手を持つこの昆虫魔物は見かけによらず草食である。

 刃は食事の際葉物を細かく切り裂く為にあるのだが、自身が襲われた時はこの刃で抵抗する。野生では何十という群で飛び回っているので、小型魔物くらいであればそれなりに殺せるのだ。


 プレグリティは餌が取られると思ったのか、果敢に缶の前を陣取り、刃を見せつけてくる。

 対してリディは初めて見る虫型魔物に興味津々。仲良くなりたいリディが顔を近づけると、プレグリティの刃の舞はますます苛烈になった。



「こらリディ、ダメだよ。プレグリティが怖がってるでしょ」

「気にしないで、いつものことだから。プレグリティ、マリーとリディよ。2人はご飯を取らないわ」



 プレグリティはくるりと首を回してナタリアを見ると、ゆっくりと刃を下ろす。

 途端にぐわっと目を輝かせたリディが顔を近づけたためプレグリティは反射的に構えたが、仲良くなる日は遠くなさそうだ。


 2人と2匹で昼食を食べていると、突然マリーの前にすいっと手紙が飛んできた。


 マリーが手に取れば、浮いている手紙を初めて見たリディは自分のフードを分けてあげようと嫌がるプレグリティに押し付けていたのをやめ、マリーに飛びついていく。



「わわっ!待ってリディ…!今渡すから!」

「クァア!」

「誰から?」

「はい、封筒あげる。 んー、あっお兄様からだ!」


『 親愛なるマリーへ


 慣れない環境の変化に体調を崩してない?寮の同じ部屋の子やクラスの子とは仲良くなれたかな?


 こちらは変わらず皆元気にしているよ。最近ますます家の周りで野生のロドリーを見かけるようになってね、ジェフリーのリディ(ロドリー)のジョウロを狙っているみたいで、時々大喧嘩しているよ。ロドリーはジョウロが好きなのかもしれないね。


 でも、マリーがいないと家の雰囲気も少し暗い気がするから、早くマリーの明るい声が聞きたいな。


 最後に、困った事があれば僕も何か助言出来る事があるかもしれないから、何かあったら教えてね。

 返事、待ってるよ。


 ガリア領から愛を込めて

 クラウス』



 随分、妹に甘いお兄さんなのね。


 ナタリアが身内から送られれば、まず頭の無事を確認するであろう手紙の甘い内容に彼女の眉はぴくりと上がるも、隣のマリーはにこにこと受け入れている。



――純粋培養だったのは、きっとこれが原因ね。



 不思議そうに封筒をひっくり返しているリディとふわふわと笑っているマリーの隣で、腑に落ちたとナタリアは珈琲に口をつけた。



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