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リディウムメイト!  作者: 銀シャリ
私のリディ!
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PV1300達成ありがとうございます!

 

「ってー…暴れんなよな…」

「ウオオオ!」



 野生のロドリーが突撃してきた厨房は執事見習いが比較的速やかに取り押さえたことにより食器が割れただけで済んだものの、当のロドリーは彼の腕の中で憤慨していた。


 鳴き声を上げながらジッタバッタと身体を捩っている。


 ジェフリーのリディ(ロドリー)と余りにも違うその姿にリディは若干引いていたが、ロドリーの怒りは収まらないようで、視界に入るモノへ轟々と鳴きあげていた。



「凄い怒ってるわよ」

「何がなんだか全然分からないんだけど……


 どうしたの?マルーラ」


「シィィィ!」



 怒りの矛先、料理人見習いが問いかけたのは、彼の手に体を擦り付けているマルーラだ。


 料理人見習いがロドリーを捕まえようと奮闘している中、片足に違和感を感じて視線を下げると服にしがみついているマルーラを発見。人間、驚き過ぎると喉がヒュッと鳴ることをこの時彼は学んだ。



「なんて言ってるか分かんないな…」

「ロドリーはマルーラを餌として捕まえたんでしょうけど、飛び込んできたわよね?何かあったのかしら」

「羽を怪我してるとか?」

「ウオオオ!」

「ないな」

「……じゃあ、マルーラが?」

「どうやって…?」

「シィィィ?」



 料理人見習いの手に乗ったマルーラはくる、と首を傾げる。


 その仕草に少し可愛さを感じた料理人見習いはマルーラの頭をついと撫で、「もしかして爪とか鋭いのかな?」とマルーラを持ち上げて覗き込んだ。


 習って、マリー達も覗き込む――と、



 突然、グワッとマルーラの腹部が開き、中には小さな歯がずらり。



「「き、きゃあああ!」」

「クアアア!」

「こっわ!こっっわ!」

「………」

「おい!放心してんなって!」



 外見とのギャップに周りの者達はザッと引き、手に取っていた本人は放心した。


 マルーラは暫くの間、うにうにと口周りを蠢かすと、今度は上から下へ体を波立たせる。その力強さたるや、たっぷんたっぷんと内臓が音を鳴らす程である。


 あまりの恐ろしい動作にリディはマリーの肩から覗き見ることとなり、見習い2人の胸の内は、ゼロ距離で立っている幼馴染への拍手が巻き起こっていた。



 そんな中、とある人物の意識がふっと戻ってくる。

 そう、料理人見習いである。

 彼の目は何かを思い出すかのようにうろりと空を見回すと、己の手が掴むナニカを見て、急に光を灯した。



「……えっ」

 たっぷんたっぷん

「あ、起きた」

「大丈夫…?」

 たっぷんたっぷん

「え、え?これ、マルーラ、どうしたの?」

「急にその動きをし始めたの。それにしても結構冷静ね」

「…一周回って、今何も理解できてない」

「脳が固まってんな」

 たっぷんたっぷん

 グッ

「!、動きが変わった!」

「クァ!?」

 ググ…ッ

「おいおい、手を離した方がいいんじゃないか!?」

「…あれ?手ってどうやって開くんだっけ?」

 グググ…ッ

「嘘でしょ!?ちょ、頑張りなさいよ!」

「ま、待て待て!箒で叩こうとするな!」




 ゲプァ




 ………え、なに?

 一同の心の声は揃った。

 先程まで不可解な音を出しながら体を蠢かせていたマルーラは、実はなんて事のない、ただのゲップの予備動作をしていただけに過ぎなかったのだ。結果、ゲップを満足に出せたマルーラは何もなかったかのように小さな白い球体へ戻っていく。



 しかしこのゲップ、今回は素晴らしい働きをしてくれていた。

 ゲップのおかげで、少し前まで大騒ぎし、混乱していたマリー達は綺麗さっぱり素に戻ったのだ(呆れたとも言える)。


 そんな彼らは、現状を理解すべく、野生のロドリーを宥めて離し、身振り手振り、時にはリディも介してマルーラと向き合った。


 契約者でもない彼らとマルーラが共通理解するのは大変難しいが、どうにかこうにか理解できた内容は、こうである。



『美味しい食べ物をくれた』


「ふうん、じゃあやっぱり気に入ってついてきたのね」

「餌?お前あげたのか?」

「ええ…あげた覚えないけどなぁ…」

「何もらったの?」



 マリーが問いかけると、マルーラは小さな前足を上げ、空気を掻く。

 リディに向けて大きく動かす手足には、必死の訴えが見て取れた。

 ふんふん、と相槌を打つように頭を揺らしていたリディは、心得た!とばかりに鼻息を荒げるとマリーを見て頭を下げ、舌を出し入れさせる。

 それを見ていたマリーはピンと閃いた。



「飲み物…かな?」

「クア!」



 尾をふるりと振ったリディはスープの鍋へと飛んでいき、これだ!と鍋をつつく。


 途端、料理人見習いの顔から血の気が引いた。



「……それって…僕が森で零したやつ…?」

「シィィ!シィィ!」



 思い出してくれて嬉しいのかお礼を言っているのか。

 とにかくマルーラは全身で料理人見習いへ声をあげる。

 それなのに未だ顔が白い彼をマリー達は不思議に思った。

 メイド見習いが声を上げる直前に料理人見習いはぎこちなく口を開くも、声は出ない。周りはひたすら開閉する彼の口を暫く眺めていたが、ついに痺れを切らした執事見習いが口を開いた。



「なあ、何あげたんだよ」

「……ん……り」

「え?」

「もう一回言ってくれる?」

「…、姉さんの料理」



 今度は執事見習いとメイド見習いの顔から血の気が引く。

 分からないのはマリーとリディだけである。


 血の気が引いた3人で会話は進む。



「え、あれを?あれを食べたの?」

「いや、もしかしたら…美味しくなったのかもしれないだろ…」

「僕達が前食べたのと、そう変わらなかったよ…」

「…お前、食べた?」

「…少しだけ。持って帰ろうかと思ったら手が滑って零しちゃって」

「マルーラは美味しく感じた、のよね?」

「「「…………。」」」

「シィィ?」



 3人は思わず黙った。


 料理人見習いの姉は、端的に言えば料理が下手である。

 彼女が料理を作れば匂いもしない、味もしないという超大物を作り上げる。水すら水の味があるというのに、具材を煮ても焼いても調理が終われば全てが無に帰する彼女の料理は、味見と称して食べさせられる彼ら(見習い組)に「自分が食べているのは何か。本当に自分は今食べているのか。何故自分は食べていると感じているのか」と混乱に陥らせる程であった。


 その料理を、マルーラが、美味しいと言った。


 これは一大事である。

 3人の頭は急速に回転する。


 彼女の味見係はこれからもあるだろう。

 でも、自分達は出来れば食べたくない。

 でも、残すのも彼女に悪い。

 でも、どうしても出来れば食べたくない。

 だが、そこに美味しく食べてくれるマルーラがいれば…?



 世界は開けた。


 祝福の鐘が聞こえる。



「「「僕/こいつ/彼 と契約して下さい!」」」

「シィィィ!」



 契約は成った。



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