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リディウムメイト!  作者: 銀シャリ
私のリディ!
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2

 

 リディになってくれる子を探すんだ!


 愛器(トング)で草をかき分け、時に春栗を拾いつつ、マリーは今日も森を歩く。

 マリーがクラウスへ泣いたあの日、クラウスはリディとの契約について「話してなかったけど、」と前置きをして話し出した。

 多くの場合、リディは魔術学院でリディウムと契約する事でなる。しかし、中には野生の魔物をリディとする者もいる、と。

 まさか領主の娘が規定値に届かないとは思っていなかったが故の全員の説明不足である。

 マリーは聞いた後暫く、ちゃんと言ってくれれば良かったのに…とぶすくれていたが、他一同の謝罪とクラウスの大変、大変献身的な対応により、マリーの気持ちは持ち直していた。

 兄から聞いたリディの契約は以下の手順だった。



 1、野生の魔物に認められる

 (力を示すでも仲良くなるでも可)

 2、名前をつける



 実はマリー、兄から契約方法を聞いた当時に、母へ「野生の魔物と契約する前に、練習したい」とお願いしたことがあった。マリーの母、マリアーナのリディはカシネズミで、最小魔力で契約出来ると知られている。体長5cm程で、夜行性。音に敏感な小さなネズミだ。体の割に大きな耳とくるりとした大きな目は可愛らしく、躾もそれなりに出来るため、連れ歩くにも苦がない。個体によっては芸達者なヤツもいる。昼間は基本的に寝ているが、寝姿は仰向けで口半開きの白目という、ほぼ死体だった。


 学者によると、「カシネズミ達は天敵から身を守るために死体に擬態している、つもりのようだが、擬態し過ぎたのか、実際は仮死状態に陥っている」らしい。魔術学院でこの説明を聞いたクラウスのノートには、小さく「アホ」とメモされた。



 カシネズミの寝姿を初めて見た子供達は大抵驚く。マリーも例に漏れず大変驚いた。マリーが初めて見たのは夜で、マリアーナが眠れないマリーの為に連れてきてくれたのだ。頭を撫で、顎を撫り、くるりとした目を嬉しそうに細めるカシネズミは大層可愛かった。幸せな気分で寝付いたマリーだったが、翌日、刺さるような陽射しの中、廊下の脇で仮死状態のカシネズミを見つけることとなる。「死んでる…!」血の気が引いたマリーは昨日の自分の触り方が悪かったのかと反省しながら、尻尾をひっ掴んで、マリアーナの元へ走ったのだった。


 閑話休題。


 マリアーナは頼みにきた娘にほっと息をついた。

 なにせ、ついこの間、魔力が規定値もないと判断され、泣き喚いていたからだ。あの時は動揺して何もしてあげられなかったけれど、今度はきちんと助けになりたい。契約するにも仲良くするだけだし、練習だって危険はないわ。お願いする娘に快く頷いた母。マリアーナはカシネズミが魔物の中で一番扱いやすいこと、もし今回上手く出来ても本番では気を抜かないことを伝え、カシネズミを起こして、マリーの目の前に置いた。


 起こされたカシネズミは寝ぼけ眼で上半身を起こし、きょろきょろと辺りを見回す。

 マリーはじっと見た後、そっと手を伸ばした。



 ぎゅっ

「ぢゅ…!」



 マリーー!!!

 母、絶叫。

 まさかまさかの事態である。マリーはカシネズミを握り込んだのだ。マリアーナは瞬時にマリーの手からカシネズミを救い出すと、掌に乗せて確認した。仰向け、口半開き、白目。涎。安定の仮死状態である。


 一先ず安心したマリアーナがカシネズミを握り込んだ理由を聞くと、マリーは眉尻を下げ、困った顔で口を開いた。

「ごめんなさい、お母様。でも、魔物に認めてもらうのってこうするんじゃないの?」

 認められる(物理)が基本のマリーであった。


 その後、マリーは仲良くなるだけでも十分契約出来るとひたすら説得され、現在に至っている。




「ふんふんふふーん!」



 足取り軽く、マリーは進む。

 ザクザクと進んでいくと、突然、少し先で草が揺れた。何かいるなあ。マリーは右手に春栗、左手にトングの状態で姿勢を低くし、口元に力を入れる。


 ガサッ、ガサガサ!


 ひょっこり。

 草むらから顔を出したのは、反り返った少し長い耳に枝分かれした2本の角――デュッサだ。デュッサはウサギの一種で、防水性の白い毛並みをもつ。毛皮はそこそこ良い値で売れ、フォルタンシア国では家畜として育てている家もあった。野生のデュッサは雑食で、草を食べる時もあれば小型の魔物を狩る時もある。狩りでは、突進して角に突き刺して行うのだが、デュッサの短い手では自分の角に突き刺さった獲物が抜けない。したがって、狩り後には、獲物を抜くために頭ごと勢い良く前後に振り続けるデュッサの姿が見られるのだ。牧場ではご飯の時間に餌を持っていくと、大量のデュッサが頭をぶんぶんぶんぶん!とヘドバンする光景を見られる。とかなんとか。


 デュッサを見つけたマリーは勢いよく姿勢を上げた。デュッサを前にして姿勢を低くすると、小型の魔物と判断されかねず、突っ込んでくる可能性があるからである。

 がさり、とマリーの出した後に反応したデュッサがグルッとこちらを向いた。



「チッチッチッチッ、チッチッチッチッ」



 さっそくマリーは勧誘(?)を始めた。

 こっちおいで。春栗もあるよ。仲良くしようよ。他の子もいるんだ、ウチにこない?

 誘拐犯のような主張を音に込め、マリーは見せつけるように春栗を弄る。デュッサの目が春栗に向いていたため、暫くマリーが春栗を弄っていると、デュッサがその場で頭を前後にぶんぶん振り始めた。


 ぽとん。


 マリーがデュッサの少し手前に春栗を転がすと、ハッと気づいたデュッサはガサガサと移動し、鼻で確認した後、両手で持ち、食べ始める。


 ぶんぶん。ぽとん。ぶんぶん。ぽとん。


 ぽとん。


 釣りを繰り返せば、デュッサはマリーの手から直接食べるようになっていた。慣れたものである。流石に近距離で頭を振られればマリーに角が当たってしまうので、春栗を切らさないようにしながら次の一手を考えた。



 ――ここまでは上手くいくんだけどなぁ。名前をつけても契約した感じはしないし、もっと仲良くならないとダメってこと?あれ?仲良くってどうゆうこと?



 マリーが森へリディを探しにきてから、今の状態になるにはそんなに時間が掛からなかった。むしろ、行き詰まっているのはここからである。契約手順の名付けをしても、契約した感覚がない。クラウスから、契約出来れば感覚で分かると教えてもらったので、マリーはまだ契約出来てないんだなぁと落ち込んだ。



「ん?」



 マリーがぼーっと考え事をしていると、ぽりぽりと食べる音が聞こえなくなった。どうやら、満足したデュッサは既にいなくなったようだ。

 掌に余っていた春栗をカゴに入れ、空を見上げれば日が傾いている。そろそろ帰らなければ夕食に間に合わない。マリーは伸びて背骨を鳴らすと、慣れた道を帰るのだった。



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