閑話(ドラゴン全集)
600PV達成、有難う御座います!更新が遅れている中、見て下さる方が居てとても嬉しいです!
只今絶賛牧場を経営する物語(始まりの大地)にハマっている為更新が遅れてます、すみません…。
更に言うなれば11月中旬、ポケモンが出たら暫く戻ってこれないでしょう(予言)
ガリア家にはかの有名な研究者、アードルフ・メイジ著の僅少な本がある。
名を「ドラゴン全集」。
その名の通り、アードルフが研究したドラゴンに関する内容が記載されている本である。
ガリア家長女マリーが野生の子供ドラゴンと契約した旨を聞きつけたアードルフは、当初リディの種族であるローヴィライ種が記載された厚さ3cm程の紙束をガリア家に残した。しかしその後、アードルフから託された手紙(別名:欲しいものリスト)の内容を完遂したマリー宛に送りつけられたのが、この本。
なんと著者作成品であった。
――――――――――
「『ドラゴン全集』?」
春の終わり頃、家族団欒の折に届いた一冊の本をベルエムが持ってきた。深緑色の皮に栞が1枚挟まっている。
「はい。アードルフ・メイジ様からマリー様宛に送られてきました」
「マリー、何か聞いていたか?」
「知らないよ?」
「この本、とても綺麗な字体ね。誰が写してるのかしら。出来れば専属でお願いしたいくらいだわ」
ロズウェルはマリアーナの言葉を受けて表表紙にある題名を見た。そこには細くも流れる様な字体があり、早々見られるものではない。
――なるほど、確かに。……だが、見た事が、ある…様な…?
ロズウェルは一応頷いたが、何処か既視感を覚えた。
ここフォルタンシア国は機械化が進んでいない。
その代わり魔術が応用される歴史を持つこの国では、書籍というと転写魔術を利用し、文字を写す作業を生業としている人達が主となり、他所から原本をもらうと増刷する印刷所として活躍していた。
ただ、機械とは違い、転写魔術は術者の字体で転写され、また、術者の思い浮かべた文字が転写される。その為この国では転写する人毎、言い換えれば本ごとに字体が異なることもあった。
文字が綺麗な術者には、金持ちと専属契約して本を写す事で生計を立てている者もいる。
それを踏まえ、改めてこの本を見るとその素晴らしさが際立つ。読みやすく、かつ美しい字となれば、この術者は大層引く手数多に違いない。ガリア家に潤沢な金は無いが、どうにか出来ないかとロズウェルは思いながら本を開き、
ついに焦点が合わなくなったかと思った。
「マリアーナ、この術者と契約は結べない」
「何故?こんなに綺麗な文字なんだもの。マリーの教科書を写してもらえれば学院でも過ごしやすいと思うの」
目頭を抑えるロズウェルにマリアーナは首を傾げる。
マリアーナの経験上、様々な価値観が集まる学院では教科書の写しにどれだけ金を掛けて綺麗な物を持っていくかでマウントを取りたがる生徒がいたのを知っていた。
勿論ロズウェルもそれを知っているからこそ、過去にあるかも分からない編入生となるマリーを気遣い、どうにかしてやりたいと思ったのだ。が、これはダメだ。
ロズウェルが開いて見せた栞のページには「ローヴィライ種」と書かれた項目があり、マリアーナは目を丸くする。
「何処かで見たような……」
「アードルフ様の字だ。既に同じ内容の書類をもらっている」
本の内容はこう記されていた。
『ローヴィライ種
北東の山岳に生息。白に金眼の小型ドラゴン。非常に仲間思いの為、仲間が襲われれば反撃するが、普段は好意的――リディの件から人間も仲間判定される可能性有り。子供はより判定基準が低いのか?――。機動力――左翼右翼個々に動く事を確認――を生かした攻撃で、炎のブレスを吐き――リディは吐いたことがないとマリーの証言有り――、再生力に秀でている――姿を見せない程衰弱していたと考えられる状態から短期間で完治確認――。器用で、人の真似をする事が多く、個体によってはカゴを編む、罠を張る個体もいる。生活形態は狩猟採集生活――血液内の糖分低値、エーテル濃度高値。エーテル濃度に関しては種族差の影響か?――。』
予めもらっていた書類に比べ、雑念が入り過ぎていて明らかに読みにくい。
どうやらアードルフは転写魔術を行使しているうちに脳内で次々と今回の件が展開されたようで、ただでさえ彼自身が纏めた珍しい本だったものが、グラフや考察までもが記載された、恐らく国中で最先端トップ5内に入るだろうアードルフの研究本へと昇華していた。
――これを、我が家でどう保管しろと…。
一国の小規模領主屋敷に届けられた王立図書館に保管されるべきであろう一冊の本。防衛力の乏しいガリア家で保管するには難しく、かと言って売れるはずもない。ロズウェルは唸った。
「うう、目がしぱしぱする…」
マリーも本を覗いてみるが、メモ書きが多く目がチカチカするため断念。この感覚で写された教科書だと寝落ちする。絶対。マリーはそっと顔を遠ざけた。
さてどうしたものか。
ロズウェルやマリアーナが扱いに悩み、興味の失せたマリーがリディと手遊びしていると、ベルエムが旦那様。と声を上げた。
「どうした?」
「クラウス様に保管を頼んでみては?万が一盗人が入り込んだとしても、旦那様の執務室はともかく、クラウス様の自室に地下室があるとは想定し難いかと」
「……地下室?あるのか?」
「ありますな」
「……私は知らんが」
「ありますな」
盗人どころか家長すら知らない内に造られていた地下室。孫を可愛がる祖父の顔をしたベルエムが言うには2年前、丁度クラウスが地下室から出てくる際に居合わせたとか。聞いてみると自分で掘ったらしい。
もはやロズウェルは屋敷を把握出来ていない自分の不甲斐なさに落ち込めばいいのか勝手に造った息子に呆れればいいのか分からなかった。
「それで?そこには何が入ってるんだ」
「教えてもらえませんでしたので分かりかねます」
「私もお兄様みたいに地下室欲しい!」
「いいわね、地下室」
「…イレギュラーだからな。造らんぞ」
「ええー」
「残念ね、マリー」
「ゔー」
納得いかないとゴネるマリーを他所にロズウェルは決めた。
――そこに保管させる。あいつの事だ、地下室の守りは硬いに違いない。何が入っているかは知らんが…大体予想は付くしな…
後日。
ロズウェルから渡されたドラゴン全集を嬉々として受け取り、マリーコレクションが増えたと微笑むクラウスがいたのは余談である。