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PV200達成、ありがとうございます!
ついに、ついにリディが出てきました…!長かった…。
「まだリディ出ないんかい」とお思いの皆様お待たせしました!しかし、誰よりも思っていたのは私です…。
(予想以上にロズウェル達が楽しく動くもんで…。すみません)
翌日、マリーは森を歩いていた。
昨日は服の寄れたロズウェルが疲れ切った表情で帰宅したため、外出許可をもぎ取ろうと考えていたマリーはとても驚いた。
同じく驚いた顔をしたマリアーナが何があったのか聞くと、なんでも領内に入り込んでいたとても大きなコケグマを無事追い返したらしい。
暫くは気をつけて森を散策しなさい、と言われたマリーはそれはそれは元気よく礼を言い、本日、食料を詰められるだけ詰めたリュックとクラウスが用意してくれた薬を持って森へ突入した次第である。
――大丈夫かな?昨日は行けなかったけど、体調悪くなってたりしないかな?
リュックの肩紐をぎゅっと握り、マリーは空き地へ向かって歩いていく。
ふと、木々の奥に霧が見えた途端、マリーは駆け出した。
「おはよう!昨日は来れなくてごめんね、大丈夫?」
シン…。
霧を見上げるも聞きたい声は聞こえない。
マリーは不安になりながら、リュックから食べ物を次々と出しながら周りを見回した。
「あのね、今日は食べ物を持ってきたの。昨日は持ってこれなかったからお腹空いてるかなと思って。イチゴにサクランボに、ほらこのビワ、私が取ってきたの。薬もあるし、…………ねぇ、大丈夫…?」
マリーの眉尻が下がる。
昨日来なかったのが悪かったのか。そのせいで実は体調を崩しているんじゃないだろうか。―――嫌われたり、していない、だろうか。
そんな思いがマリーの胸を締め付けた。
静まり返る霧の中はマリーが薬を並べても、穴を掘って飲み薬を入れても変わらない。一昨日までは姿の見えない生き物と話し、マリーも舞い上がっていただけに、今日は静かに漂う霧が「なんで昨日は来てくれなかったの」と自分を責めているように感じた。
この場から逃げたい気持ちを必死に抑え、深呼吸をしたマリーは拳を握る。
――逃げない…。小さい声で鳴いてたあの子から、元気になって、私の事を待っててくれたあの子から逃げたらダメ…!
ぐ…っと喉を晒し、前を見つめてマリーは言った。
「昨日は、来れなくて、約束破ってごめんね。お父様が森が危ないから行っちゃダメって言われたの。でも、約束してたから、…本当にごめんね。
私!これからも来るから!薬も、食べ物も持って、毎日は出来ないけど…、持って来るから!……だから、食べて、早く元気になってね…」
最後の方は若干俯いてしまったマリーだが、最後まで言いきると空になったリュックを持ち、その場で反転、
グイ、
「えっ」
――クゥルル…
髪を引っ張られたマリーは聞こえた声に青い目を大きく見開き、
意識が遠のいた。
――――――――――――――――――――
「……ん。……んん?」
固い。凄く固い。
ふわっと意識が戻ったマリーが思ったのはまずそれである。
固い何かに手をついて体を起こしたところで、やっと自分が寝ていた事に気がついた。
――…あれ?私いつのまに寝て…?あれ?地面に寝てた!?えっ、なんで!?
「えっ!?」
掌に着いた小石を見て、周りを見回したマリーは更に驚愕する。
周りが白かった。霧が、と言う問題ではない。ただひたすらに白いのだ。
マリーが手を伸ばしてみるも、指先は白いモヤを掻き、伸ばされた足先など既に見えない。
驚いたマリーが身を縮こませると、あの声が聞こえた。
「クルル、クルルル」
「!」
声は一昨日聞いた時よりも格段に良くなっており、初めてハッキリと聞こえた声はどう聞いても喉を鳴らしている。
マリーはじっと白いモヤを見つめていると、視界が歪んだ様な気がして目を細めた。目を細めたマリーは緊張の為か口元をぎゅっと締めているので領主の娘としては何とも言えない表情をしているが、今は注意するターニャも居ない。暫くすると、マリーは自分の目が悪い訳ではなく、目の前のモヤが歪んでいる事に気付いた。
「クルルル」
「…君、一昨日話してくれた子?」
「クァ!」
歪んだモヤの形はよく分からなかったが、突き出た鼻に振られる尻尾、羽…の様なものも一対。
上半身を起こしたマリーの顔の位置にモヤの顔があり、もごもごと動いていたので口元だろうかとマリーは考える。大きさはマリーの体の半分ほどだろうか。
元気良く返事をしたモヤは頭を若干上下に揺らしながら近づいてくると、「クルァ!」と鳴いてマリーの前で伏せた。
余りにも懐いてくれているような気がしたマリーは恐る恐る聞いてみる。
「…ねぇ、怒ってないの…?私、昨日来れなかったのに…」
「クゥ?」
なんで?と言わんばかりのモヤ。首を傾げた様にも見え、モヤはそこまで深く考えていないようだった。
それを見たマリーは一気に心にあった重りが取れ、ほっと息を吐き出す。安心したマリーが嬉しかったのか、モヤはひと鳴きすると伏せた状態のまま、ずりっと前進した。
それを見たマリーは途端に目を輝かせた。少し前まであった不安は解消され、今胸の内にあるのはやっと会えた嬉しさと、触ってくれた言わんばかりの良く見えない未確認生物の可愛さだけである。
触ってもいいか確認したマリーにモヤは再び前進すると「クァ!」と鳴く。
ドキドキと高鳴る胸を抑えて、マリーは少し震える片手をモヤへ伸ばした。
ふわ、
「!」
「クゥルルル!」
ざわり
触った実感は明確になかったが、ふわりとした暖かく、明らかに密度の違う場所があった。そしてその場所に触れた瞬間、マリーの体に鳥肌が立ったのである。
マリーはその暖かさに身に覚えがあった。霧だ。モヤは暖かかった霧を彷彿とさせる体温をしていた。
――この子だ。
マリーは直感でそう思う。
この子でなければ、この子を、リディにしたい。
マリーは唾を飲み込み、クルルと鳴いているモヤの両頬を包み込む。緊張で中々声は出ず、やっと絞り出したかと思えば掠れており、その上自然と震えてしまった声で問いかけた。
「わ、私の、…私の、リディになって…!」
「!、クァアアア!」
モヤがぶるりと震えて空へひと鳴きすると、マリーの視界が一瞬真っ白に染まり、白が晴れた頃には
白い鱗に金の瞳
日光を反射する滑らかな翼に
地面を叩いた力強い尻尾
裂けた口からちらりと覗く赤い舌をもった
小さな魔物――マリーは知らなかったが、ドラゴンの子供――が目の前にいた。
「クァ!?」
「っ、ぅ、うあああああん!」
自分の体に驚いたのか、小さな魔物は体を見て驚いた声を上げ、自分の尻尾を追いかけて1周した後マリーを見上げる。
マリーはそれを見て涙が溢れて止まらない。
マリーが自分の小さなリディを抱きしめると、小さな魔物は泣いているマリーに驚き涙を舐めとった。
「クゥ?クゥ?」
「ぐすっ、これからも、宜しくね」
「クルァ!」
濡れている少女の頬に頬を寄せた小さな魔物の声は明るく響く。
思わずマリーは泣きながら笑った。