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09 激震

引き続き、三人称です。

 王立学園のサロンのドアを荒々しく閉めて、ルミーリオ王子はソファーに腰を下ろした。よほど疲れているのか、背もたれに預けられた背筋はぐにゃりと曲がっていた。


「父に会ってきた。」


 怒りが漏れ出したような声だった。


「マリアンナは俺と婚約している。彼女を返して欲しいと訴えた。しかし、『お前は王族としての自覚を持ってローズマリーと結婚しろ』と、頭ごなしに怒鳴りつけられただけだった。」


 王子は腹の中から煮えたぎったような息を吐いた。

 周囲の貴公子たちも厳しい顔だ。部屋には、4大公爵と呼ばれる王国最上位貴族4家の息子たちが集まっていた。

 そのうち、一番初めに金切り声を上げて喚きだしたのは、アグレシア公爵家嫡男のエドモンドだった。


「全く。王は何を考えているんだよ。息子の思い人を奪うなんて。マリアンナと王子のロマンスは、王都の平民の子どもにまで知れ渡ってたんだよ。みーんな、憧れてて、幸せになってほしいと願っていたのに。とんだお邪魔虫だよ。」


 熱く語るエドモンドを諌めて、冷静を装ったサダール公爵家のフィリオは、


「王を批判して誰かに告げ口でもされたら、貴方の立場が悪くなりますよ。」


 と、忠告するが、


「この場でのことを王に訴える人なんていないよ。皆、王の行動に憤ってるんだから。マリアンナは王立学園の優秀な学生だったんだよ。それを後宮になんかに押し込んで。ねえ、王子、マリアンナを取り返して来てよ。」


 エドモンドは構わず、発言をどんどん過激にしていった。彼はソファに座るルミーリオ王子の前に膝立ちになって、彼の両肩を掴み、揺さぶりだした。


「エドモンド……」


 周囲の静止を、エドモンドは首を振って拒絶する。


「ねえ、王子、マリアンナを取り返してよ。可哀そうだよ。王の、側妃ですらない、愛妾だよ。王子が愛した女の子を、何の権力もない、愛妾にして。許せないよ。」

「それは……、分かっている。だが、相手は王だ。この国の最高権力者だ。息子であっても、逆らいようがない。」


 悔しそうにルミーリオ王子は言うが、


「う そ ! ルミーリオ王子の方が強いよ。だって、今の王は腰抜けだもん。魔法も碌に使えない……」

「エドモンド、いい加減にしろ!」


 フィリオとパロマ公爵家のソシュールが、羽交い絞めにしてエドモンドを止める。


「口を慎め。お前、王への侮辱罪で、ただでは済まなくなるぞ。」


 周囲も皆、興奮状態だった。ただ、必死に自分の怒りを抑えている。そして、その中で自制のきかないエドモンドを、何とか止めようとしていた。


「酷いよ。もう。家でも、妹が、ローズマリーが、『王子に申し訳ない。』とか言って泣き出すし、グラス投げるし、カップも壺も壊すし。『こんな状況で王子の婚約者面して人前に出れない。』って、学園に登校拒否するし。もう、妹が引き篭もりになったら、どうしてくれるのさ!」


 男にしては甲高い声で、エドモンドはそう言うと、わあわあと泣き出した。可愛らしい顔と雰囲気で幼く見えるとはいえ、高位貴族の嫡子にあるまじき子どもっぽい振る舞いを、諌める者はもういなかった。皆、自身の感情を制御するので手一杯だったのである。



 マリアンナは王の命令で後宮に入れられた。立場の低い愛妾として。それに、マリアンナを愛していた王子や彼の取り巻きたちは憤った。学園の生徒や若い貴族たちも、王子とマリアンナに好意的な者が多く、王の仕打ちに批判的であった。また、単純に王子とシンデレラガールとのロマンスに憧れていた平民たちも、王が悪者だと考えた。

 一方で大人の貴族たちは、ルミーリオを王族としての振る舞いを忘れた未熟な王子と捉えており、王がマリアンナを取り上げたのも仕方ないと見ていた。しかし、夜会で見かけたマリアンナは絶世の美女であり、彼女を取り合って争いが起こることは恐ろしかった。マリアンナは、文字通りの傾国の美女となるかもしれない。良識ある貴族たちは、不安げに成り行きを見守っていた。


 だが、中にはこれを好機と捉える者もいた。


 近衛騎士団長、ジェイコブは現王のことを内心では良く思っていなかった。戦場で英雄と呼ばれた先代と打って変わって、現王は戦争嫌いで有名だった。

 この世界での戦争は、魔術師が主戦力となっていて、魔力を持たない人間を兵士として使うことはほぼなかった。そのため、戦争に動員される人数は少なく、マンパワーに左右されていた。

 リュクス王は魔法が苦手で、戦場に立てば、まず、王の護衛に人を割かなければならなかった。王を連れての戦争はやりにくくなる。しかし、慎重な王は、全権を他の者に預けて大規模な戦争をするようなことはしたがらなかった。裏切りを恐れたのである。

 結果、戦争を避けるため、王国の外交も弱腰になった。国境を異民族に侵害されても、最低限の兵力で防衛するだけ。他国との交渉でも、譲歩が多かった。

 騎士団長ジェイコブは現王に見切りをつけ、嫡子であるルミーリオに期待していた。ルミーリオは現王と違って、魔術の才能があるのだった。


 リュクス王を失脚させてルミーリオ王子を即位させる。王と王子の仲がマリアンナの件で決定的に拗れてしまった今、ルミーリオ王子を唆せばのってくる可能性が高かった。

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