04 公爵家のお茶会
週末、私は時間をずらして、王子達が来るより前に、マリアンナに迎えの馬車をだした。
「皆様が来る前に、ちょっと準備をして、王子達を驚かせてみましょうよ。」
美しいドレスが並ぶ部屋へと彼女を通し、私は微笑みかけた。
「あ、あの、これ。全部、すごく高そうな……。」
色とりどりのドレスやアクセサリーが並ぶ部屋を、マリアンナは恐る恐るという風に見回している。
「ふふ。マリアンナさんは綺麗だから、綺麗なものが似合うわ。それだけ美しいのだもの。美しいものを着る権利があると言ってもいい。」
至近距離で言い含めるようにして、私は彼女のドレスを選んだ。
マリアンナの着替えが終わる頃には王子達も到着し、兄にホスト役を頼んで会場に入っていてもらった。
「お待ちかねのお姫様が来ましたよ。」
男性客が席に着いたところで、マリアンナを中心に私と私の取り巻きの令嬢達が会場入りした。男達の視線は、マリアンナに釘付けだ。
淡いピンクの絹のドレスはまだ昼間のため肌の露出を控えた可愛らしいものだ。ビーズを散りばめたコサージュや髪飾りは綺麗だが宝石ほどの値段はしない。しかし、普段、学園の地味な制服でも目立っていた容姿が絹を纏えば、その肌は照り輝くようだった。
他に誘った令嬢たちも、有力貴族子弟たちとのお茶会に張り切って着飾っていたけれど、皆、マリアンナの横に立てば黒子同然だ。もちろん、私もそんな脇役の1人である。
美しいマリアンナを見ただけで、王子達は上機嫌だった。こんな楽な接待はない。
「ふふふ。すごいでしょう。マリアンナさんは元がいいから、磨き甲斐があったわ。」
私の言葉に、隣のマリアンナは照れた様子で、王子達はしきりに頷いていた。
「やはり、女はすごいな。マリアンナは謙虚だから、私が宝石を贈ろうとしても受け取ってくれなかったのだが。」
のぼせた王子様は婚約者を放っておきながら他所の女に宝石を贈っていることを告白してくれた。
「えと、これは、借りただけなので……。」
マリアンナが困ったように言う。私から貰って王子の贈り物を断ったんじゃあ角が立つからね。
「あら、差し上げてもいいのですけど。でも、マリアンナさん、そういうのは負担かもしれませんわねぇ。じゃあ、こうしましょう。マリアンナさん、私の商会のモデルになって?」
「え!?」
「このドレス、扱っているのは私に経営権のある商会なんですの。マリアンナさんは綺麗だから、貴方が着たら服がすごく素敵に見えるわ。だから、宣伝として、私の商会の服を着てくださらないかしら?」
「えっと、そんな、私なんかが着なくても、素敵なドレスはドレスですし……。」
「だめだめ、そんなんじゃ。話題性が大事なの! それに、学園行事にもパーティーはあるし、ドレスがないと困る場面もあるでしょう? そこで、王子やそこにいる坊ちゃん達に何か貰ったら、重~い借りを作ることになるわよ?」
「おい!」
私の言葉に王子がお茶を噴出しかけたが、構わず続ける。
「宣伝っていうのはね、もともと結構お金をかけるものなのよ。だから、ドレスをレンタルするくらい、どうってことないわけ。マリアンナさんが私のドレスを着て注目を集めてくれたら、それだけで、私に対するお返しは出来ちゃうわ。」
「はあ……」
私の話にマリアンナはついてこれないようだった。絹のドレスは王都の平民の年収以上の値段だから、金銭感覚の違いに戸惑っているのだろう。
「マリアンナ、嫌なら嫌と言うんだぞ。ローズマリーは押しが強いから。」
「あら、王子。でも、王子がマリアンナさんにプレゼントするより、私が彼女の服や学用品などそろえたほうがよほどいいですわよ。ちょっと調べてみたのですけど、彼女、苛められかけているのでしょう?」
「それは……、」
私の言葉に、王子達とマリアンナの顔が曇った。
「私が提供したものを宣伝しながら使っていれば、苛めなんてなくなりますわ。王子に庇われたんじゃ嫉妬する者も、私のモデルを攻撃なんて出来ないですから。」
「おい、それじゃあ、俺よりお前のほうが学園での影響力があるみたいじゃないか!」
「そんなことはありませんけどありますわね。私を敵に回したら怖いって、皆思ってますわよ。」
王子も他のお坊ちゃんたちも呆れ顔になった。まあ、これくらいはいい。
「ということで、マリアンナさん、気兼ねなく、私の支援を受けてね。で、王子様たちは、マリアンナさんを間接的に助けるためにも、私の商会に投資してくだされば宜しいですわ。」
「……お前は、本当に逞しいというか……。」
皆、脱力気味だが、これで私に対する敵意は完全に抜けただろう。