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03 記憶と内政

 私には前世の記憶がある。

 といっても、前世と私の人格は全く違う。ただ、この世界とは明らかに異なる、魔法の代わりに科学というものが発達した別世界の記憶を夢に見るのだった。


 夢の中で私はいくつもの物語も見た。

 中には、今いる私の世界の話もある。


 物語の中での主人公はマリアンナで、彼女が平民の身分から優秀さを認められ、王族や貴族も通う王立魔法学園に入学したところから物語りは始まる。若い娘が好みそうなラブストーリーだ。マリアンナはその美しさと心の清らかさで次々と高貴な身分の男達を魅了する。その中には私の婚約者、ルミーリオ王子もいた。王子が私との婚約を破棄し、マリアンナを妻に迎えたところで、物語はハッピーエンドだ。私は悪役。マリアンナとは正反対に心の汚い、皆に辛くあたる高慢な公爵令嬢。最後には、自身の、そして、実家の隠していた悪事がばれて破滅への道をたどる。

 今は、物語が4分の1くらい進んだところだろうか。王子とマリアンナが出会い、恋に落ちた。このままいくと私は王子に婚約を破棄されて失脚するらしい。

 確かに、実家にも私にも、後ろ暗いところはある。とはいえ、物語の中の私は、やることなすこと、愚か過ぎた。私ならもう少しうまく立ち回ると言いたい。それに、父も兄も、実際のところは、あの王家に遅れをとるようなマヌケではない。

 私の前世の記憶らしいものは、現実には大して役に立たないだろう。


 夢にみる物語は他にもある。

 地球という前世の世界から、異世界へ渡った者の話があるのだ。

 物語の登場人物たちは、地球での知識を活かして、異世界で名声や財を成していった。

 私も同じことができるかと思って、公爵家の領地で密かにいくつか実験してみた。しかし、私の記憶はかなりいい加減で、殆どは再現できず、もしくは時間がかかりすぎて結果が見えていないものばかりだった。新しい料理のレシピなど、比較的簡単に作れるものも作ってみたが、単に珍しいものが出来たというだけのことだった。客人をもてなすときに、私の創作した料理や菓子として勧めてみれば喜ばれるが、大抵はそれで終わりだった。


 唯一うまくいったのは、繊維関係の事業だろうか。

 アグレシア公爵家は南部に領地を持っていて、綿花の栽培は昔からなされていた。ただ、綿花の収穫は手で摘む必要があり、労働力が膨大だ。前世では機械化されていたらしいが、それを再現するような知識は持っていなかったし、魔法で一つ一つの綿花の繊維を傷つけずにいっせいにとれるような魔法使いは、いたとしたら高給取りすぎて農場になど置いておけない。

 前世の社会は複雑化しすぎていたらしく、様々なことを機械化して効率化していたらしいが、一般人の知識でそれらを再現することは不可能のようだった。唯一知っていたのは、わずかな歴史的知識のみ。私は奴隷をつかった綿花農園の経営に成功した。

 この世界にも奴隷はいたが、それは、戦争で負けた国の捕虜や、弱い部族を武力でもって人狩りして得たものだった。だが、前世の世界は違う。戦争などで困窮した国や部族から、金で人を買うのだ。

 それまで奴隷を得るには小規模にしろ戦闘をして武力で取ってくるしかなかった。軍を動かすにはコストがかかる。しかし、買えばそのコストは大幅に抑えられる。コロンブスの卵だった。


 こうして私は前世の”知識チート”というやつで成果をあげ、若くして公爵家で頭角を現すことに成功したのだった。

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