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あれから1年……

突然だが、あれから月日は流れ、1年近く時間は流れた。

 結論から言おう、俺はスライムを刈っている。

 雨の日も風の日も嵐に襲われようが、毎日ひたすらスライムを刈り続けている。


 そして、俺はミュールよりアインという名をもらうことになった。

 俺の逆境にも負けずに強くなりたいという決意を告げると、この世界のかつての英雄で、幾多の窮地を乗り越え栄光を掴み取った。人物から取り、アインという名をつけてもらった。

 ちなみに、アインという名は、そう珍しい名前というわけではない。


 俺は最後の希望としてレベルアップに賭けてみることにした。

 レベルが上がれば、何かが変わるかもしれない、そんな幻想に縋ることにした。

 諦めたら、そこで全て終わりだ。

 ミュールの提案に乗り、被害者として生活を保障してもらう方法もある。

 だが、俺は自分が何者かもわかないでいたが、せっかくこの世界に来たのだ。

 強く生きてみたいそう思い、厳しい道を進むことにした。

 と言っても、闘ってるのはスライムだ。

 この世界最弱クラスの魔物、得られる経験値も1と、とてつもなく低いものである。


 1年近くの月日を賭けて、スライムを毎日10匹前後刈り続けた日々により、俺はレベル2に上がる目前までたどり着いた。


 最後の一匹、このスライムを倒しさえすれば、俺は念願のレベル2に上がることができる。

 この1年随分と色々なことがあったと思う。

 勇者連中は、最初こそ城で騎士あいてに戦闘訓練をしていたが、やがって刈りに出るようになり、いつしかダンジョンに潜るようになったみたいだ。

 最初の3カ月ぐらい、までは城で顔を合わせることもあったが、いつしか遠方へと旅立ち、もう何カ月も顔を見ていない。

 風の噂では、ダンジョンで力をつけ、その実力を飛躍的に高めているようである。

 

 そして俺はというと、どこからか俺のステータス異常を嗅ぎつけたのか、騎士の中では落ちこぼれの不良騎士に目をつけられ、陰湿なイジメにも似たことをされている。


 そんなことは、もうどうでもいい、きっとこの最後のスライムを倒せば報われるはずだ。

 俺は、万感の思いを込め目の前のスライムに斬りかかる。

 ちなみに、俺が使っている剣は低レベルでも使いやすい、ショートソードである。


 勇者連中は、スライムなら一撃で屠るのだろうが、俺はそうはいかない、たっぷり30分~40分の時間をかけ慎重にスライムのHPを削っていく、スライムといえども、俺にとっては油断のならない強敵だ。


そして強敵が今、地に崩れようとしていた。

最後の一撃を、スライムに当てる。

スライムは、素材を残して消滅していく。


ピコーンと俺にしか聞こえない電子音のような音が鳴り響いた。

俺は、すかさずステータスを確認する。



名前 アイン

LV 2

種族 人間

職業 勇者?


HP 30

MP 30


物攻 35

物防 30

俊敏 30

魔攻 30

魔防 30


スキル


称号

召喚に紛れた者

スライムハンター


スキルポイント3

Next 52475

EXP 3310



 これが、俺のレベルが2になったステータスだ。

 わかっていたさ……藁に縋ろうとしていることだと、ただ諦めてしまいたくなかっただけだ。

 可能性があるなら、確かめてみたくなったんだ。

 なんだか疲れてしまった。

 この世界は、とことん俺に優しくないみたいだな……次は52475の経験値が必要ってわけだ。


 俺は、思い足取りで王城に戻り、自室として与えられた部屋に戻る最中に出会ってしまった。

 今、間違いなく一番出会いたくない相手、カイノ・ルイク。


 「おっ!クズがいるぞ!」

 ルインが取り巻き連中に、アインを見てニヤニヤ顔で、そう囃したてる。

 こんな時にだけ、無駄に統制のとれた動きで、取り巻き連中が俺の行く手を阻むように移動する。

 俺は、自然とルイクと相対する形となってしまう。

 そうこうしている間に、円形に取り囲まれてしまい、俺に、この場を回避する術を失ってしまう。

 「探してたんだよ、稽古をつけてやろうと思ってな、どこにも見当たらないから、どこに逃げたかと思ったんだよ」

 そう、ルイクは稽古と称して、俺を痛めつけることが心底楽しいようなのである。

 「まーた、弱いものイジメをしてたのか、本当にどうしようもない根性をしてるな、毎日弱いスライム相手に憂さ晴らしか、その性根を叩き直してやる」

 どの口が言っているんだか、ルインは俺に、訓練場に移動するように示唆する。

 取り巻き連中に、半ば連行されるような形で訓練場へと移動することになる。


 普段なら、ここで抵抗の意思を込め、こんなやつに負けるかと闘うのだが、この日はダメだ。

 ひどく疲れてしまっていた。

 俺は虚ろな足取りで、訓練場という名の処刑場へと向かう。


 そこで始まったのは、稽古とは、とてもいえない一方的な暴力。

 「なんだ!?今日の獲物はつまんねーな、しっかり抵抗しねーと訓練にならねえだろうが!真面目に訓練しろよ!」

 オラ!という声とともに、俺の腹にルイクの蹴りが叩き込まれる。

 ゴホゴホと咽ていると、周りで煽っていた取り巻き連中も退屈してきたのか、一対一の訓練のはずだったが、後方から蹴りが叩き込まれる。


 ルイクを含めこの連中は、騎士団の中では落ちこぼれである。

 本来はすごいはずの異世界人が、自分たち以下、俺を甚振ることで自身が上位の存在であるという安心感、または普段の憂さ晴らしに俺を利用しているのだ。


 ——そんなやつらにすら敵わないほどに、俺は弱い。

 何度も突き付けられたはずの現実という剣が今日はやけによく刺さる。

 希望という鎧を失った俺には、本当につらい。


 永遠に続くのではないかと、錯覚する集団での暴力もやがて終わり。

 俺は、重い、とても重い足取りで自室に戻っていく。


 俺はやがてふさぎ込み、自室に引きこもりがちになっていった。

 ミュールにでも言えばこの状況から、逃げだせるのかもしれない、だが俺は言えずにいた。

 ちっぽけなプライドか、なんなのかは俺にもわからない。


 いつしかこんな生活にも慣れていき、さらに半年の月日が流れた衣食住が保証され、最低限の外出のみで生きていける状態、ほぼ引きこもりだ。

  

 夢を見た。

 この世界に来たころの夢から、その少し前誰かと大切な誓いをした夢だ。

 その誓いはきっと実現させないといけなかったはずである。

 思いだせない誓い、だが、確かに交わした誓いだったはずだ。


 目を覚ますと、暗いトンネルから抜け出た気分になっていた。

 俺は強く生きるって言ったじゃないか、故にアイン。


 この環境ではダメだ。

 きっと甘えてしまう、それに振り払うべき人物もいる。

 旅に出る。

 俺はミュールにそう言った。

 大反対されたが、俺の意思が固いことを知り、せめてもの罪滅ぼしと、王家の宝物庫から一つ宝具を持ち出してよいといわれ、早速俺とミュールは宝物庫へと向かった。


 「ここが宝物庫よ、ちょっと離れてなさい、今から魔力を流すから」

 宝物庫は、王家に連なる人間の魔力に反応して扉が開かれる仕組みとなっているようだ。

 ギィーと重々しい音をたて、滅多なことがなければ開かれることのない扉が開かれていく、その部屋に安置されている品々は、素人の俺が見てでさえ、とてつもないものであることが窺える。

 ミュールは、俺でも扱える小さめの剣や軽い鎧などを進めてくれる。

 小さかったり、軽いといっても王家に保管されている宝具だ。

 その性能は折り紙付きだ。

 曰く雷神の加護を受けた剣や、曰く魔力を視ることができるようになる鎧であるとか、素晴らしい効果を秘めた品々の中で、俺の目を強く引いたのは、いや惹きつけられたものは、石である。

 それは、丸い石、周囲の宝具と比べれば太陽とカスミソウだ。

 でも、俺はこの石しかない、第六感的なものがそうささやいた気がした。


 「ミュール王女、この石はなんですか?」

 「あなた、これが気になるの?これは石ではなく化石と聞いたわ」

 (なんと、石かと思ったら化石だったのか……)

 「これはね、いつからここにあるのかわからないけど、いつからかここにあったの正確な目録作りを始めた200年前から、ここにあったみたいね」

 「でもどういう経緯でここに来たのか、なんの化石かもわからない、古いものなのは確かだから捨てないでここに置いてるわけよ」

 古いだけの化石のようだが、俺の目にはもうこの化石しか入らない。

 またも、王女の反対を押し切って俺は化石を頂くことにした。

 それから、王女には感謝してもしきれない、結果的に化石の他に宝具をもう一ついただいた。

 エアリアルとい名を冠した弓である。

 この弓のすごいとこは、まず矢がいらない、弓が自動的に魔力で形成された矢を作成してくれる。

 エアリアルは風神の加護を得ているので、俺でも風の魔力を流すことができる。

 本来なら、もっと高性能な使い方ができるのであるが、俺が使えるのはここまでだ。


 そして、俺は城を出て旅立った。


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